Photo (ホーチミン市を流れるサイゴン河、ヴェトナム)
先週、さる金情報会社の勉強会でアジア新興国の現状について講演を聞く機会がありました。新興国、というのは経済分野で新しく興りつつある国、ということであり、国家としてはいずれも長い歴史を有しています。中国の次の投資先と期待されたインドもなかなか日本企業が利益を出すには時間がかかりそうだ、というので再び東南アジアに目が向けられているのでしょうか。もともと1960年代から日本の製造業がいち早く海外進出したのがインドネシア、タイ、そしてマレーシア、シンガポールでした。
一口にASEAN 10(アセアン10カ国)と言っても国の大きさ、人口、人口密度も経済成長の度合いまで様々であり、平均値にはほとんど意味をなしません。人口だけを見ても、2億4千万人のインドネシアもあれば、数十万人のブルネイまで様々です。シンガポールのような小さな島嶼国家もあります。また、域内の言語・民俗・人種・生活文化・宗教信仰は複雑で説明するには時間を要します。
それでも、全体のボリュームとしては意味があります。EUや北米と並ぶ経済単位となる可能性を秘めています。多くの国で乗用車や電気製品、通信機器、日用雑貨の販売は好調のようです。ここ十年の経済成長率を見る限り、地域単位では最も高い成長率を示しています。筆者も1980年代からこれらの国々を見てきましたが、近年の街や村の変化には驚かされるばかりです。
当然のことながらリスク要因も多く抱えています。個々の国の経済規模は十分に大きくないため、自然現象の影響をまともに受けてしまいます。2011年に首都圏が洪水被害に見舞われてタイはとたんにマイナス成長に陥りました。比較的安定的に推移してきたマレーシアは現在建国以来のリーダーの交代期を控えて停滞していると言われています。日本企業が多く進出しているインドネシアは、経済成長に伴い外貨準備が低下し、貿易収支が悪化しています。国の政策によってインフレ、為替レートが変動する脆弱性が残っています。
そんな中で最近注目されているのがミャンマーとヴェトナムです。この二国は知られざる大国と言ってもよいでしょう。人口を見ると、ミャンマーが6,400万人、ヴェトナムが9,040万人と、国内市場の大きさを示しています。面積はミャンマーが67万平方キロ、ヴェトナムが33万平方キロで工場立地や流通拠点建設にも十分な広さがあります。
ミャンマーは長年の軍事政権から複数政党を認める政策へと転換し、ヴェトナムは共産党独裁を維持しながら民間企業の活動を活発化させる政策を進めています。両国とも農業生産は盛んで、食糧を自国内で賄い、かつ輸出しています。シンガポールとブルネイを除けばアセアン諸国は基本食糧を自給しています。
アセアンの諸国の中で今話題のTPP交渉に参加しているのはシンガポール、ブルネイ、ヴェトナムとマレーシアの四カ国です。地図を見れば一目諒然ですが、北米三カ国にANZ(豪州、ニュージーランド)に南米のチリ、ペルーにアジアからこれら四カ国が入っています。もともと、ブルネイとシンガポールがチリ、ニュージーランドと経済連携を検討し始めたのが「環太平洋」という大げさな表現になったものでした。
各国とも事情は複雑ですが、米国とカナダ、豪州とニュージーランドは「カズン・ブラザーズ」と呼び合う間柄であり、グループを作ることは予想されるところです。豪州のアデレードやメルボルンではインド人や中国人の留学生や移住労働者が暴力被害に遭うことがたびたび伝えられています。勤勉で社会的地位を上げていく外国人を排斥する動きが見られます。
もともとASEAN+3、つまり、アセアン10カ国に日本、中国、韓国の三カ国が連携する構想がありましたが、どうしたことか実現しませんでした。
わが国の長期的な安定と繁栄のためにアジアの国々との協調を他に優先されるべきと感じるものです。
(歴山)
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