Photo (変貌するインド、バンガロール空港)
三月末(3月28日、29日)インドの首都ニューデリーで第四回ブリックス首脳会議が開催され、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの首脳が一堂に会しました。ここではいろいろな案件が討議されたようですが、世界の注目を集めたのは「ブリックス開発銀行」構想でした。なにしろ、BRICS五カ国は世界人口の四割、世界通商の18% を占める一団勢力となっているからです。実体経済の中でのシェアはこの倍に及ぶという見方もあります。
最も注目を集めたのは、「貿易決済に相互の通貨を使う」こと、つまり「国際決済に米ドルを使わない」という点です。これはお題目ではなく、すでにインドはイランとの原油購入費用をルピーで支払うことに合意していますから次々と決済方法を独自に決めていくとこが予想されます。米ドルを使わなくなれば、外貨としての米ドルを貯め込んでいることの意味合いが薄れてきます。そうなると、米国債を各国に買わせて国が成り立っているアメリカという国家が破綻の危機に見舞われる可能性があります。アメリカがその進展状況に過敏になるのは当選です。
日本の各紙の報道では、「中国が主導権を握ることを他の国が懸念してブリックス銀行設立の話しは進展しなかった」という論調が伝えられました。たしかにGDP世界二位となった中国の突出ぶりが目立ちます。しかし、英語版の”The Times of India” 紙、 “The Hindu” 紙(インド)、「人民日報」紙(中国)などを読む限り、多少の軋轢はあるものの構想は着実に進展しているようです。組織と運営方法、資金供出の方法と比率、などが継続協議となり、来年の次回首脳会議で決定することとなっています。
構想では、「米ドル決済を行なわない」、のみならず「アジア、アフリカ、中南米の貧困国に対して積極的に融資する」 、「貧困国のインフラ整備、食糧問題の解決を通じて生活向上を目指す」、「欧米諸国が資金を拠出しないプロジェクトへ出資する」などが謳われています。
もう一点注目すべきは、世界銀行(WB)、IMF、アジア開発銀行(ADB)などとは補完的な協調体制をとる、としている点です。
「ブリックス開発銀行」構想は欧米主導の世界経済システム、特に金融システムに異を唱えて始まったものですが、まだまだBRICS五カ国でG7欧米先進国に対抗するだけの力はない、と認めている形です。
そんな中、4月16日、新しい世界銀行の総裁に韓国系アメリカ人のジム・ヨン・キム氏が選出されました。対立候補として中南米やアフリカ諸国の支持を受けていたナイジェリア人のオコンジョイウェラ氏がいましたが、最終的には理事会での投票でキム氏に決まりました。
もともと、大戦後の世界経済の柱としての世銀はアメリカが、IMFはヨーロッパがその人事を決定する仕組みが確立されていましたから、この決定はいわば当然ともいえるものです。アジア系の人物が就任することはおなじアジア人として喜ぶべきことでもあります。
それにしても近年の韓国のアメリカとの密着ぶりは著しいものがあります。国内の反対を押し切ってイ・ミョンバク大統領が韓米FTAを強行したのも記憶に新しいところです。果たして韓国経済がこのまま順調に伸びていくのか、そうでないのかは一つの実験となるでしょう。TPP問題もこれを見据えて考えていくことが望まれます。こちらが慌てて参加することはありません。望んでいるのは相手方なのです。
片方にブリックス五カ国による銀行構想、片方に韓国系の総裁を頂く世界銀行があります。日本からは国際原子力機関(IAEA)の事務局長を出していますが、世界経済の政策決定の場ではその出資比率の割に影響力が小さいといわざるを得ません。
こんなことをいうと、やはり相応の武力(つまり核兵器)を持っていないからだ、という声が聞こえてきそうですね。難しい問題です。
(歴山)