Photo(デカン高原の都市バンガロールのIT地区)
こないだの国連総会で最も多くの聴衆(各国代表のこと)を集めたのはパレスチナ暫定自治政府代表のアッバス議長だったようですね。
議長は9月23日、バンギムン国連事務総長に「独立国として国連への加盟を申請する」書類を手渡し、その後、総会で演説しました。その時に加盟申請の書類をみせながら「パレスチナ国家の樹立と国連への正式加盟は地域の平和に繋がる」と、各国に対して支持を訴えると会場はほとんど総立ちになり、拍手が鳴りやまなかった、と各紙は伝えています。
オバマ大統領は、一年前には「パレスチナの国連加盟を支持する」と演説しましたが、その間何があったのか、ここにきて「イスラエルとパレスチナの和平交渉が優先されるべき」といいだしました。そして、アメリカの友好国とされる各国に、パレスチナ提案に反対するように働きかけています。安保理事会でひとり拒否権を行使するとアラブ諸国のみならず、アジア・アフリカの多くの国からいよいよそっぽを向かれかねないので、理事会にかける前に沈静化させようということでしょうか。このまま安保理事会にかかるとなれば中国とロシアが賛成し、英仏は棄権ということになりかねません。するとますますアメリカが浮き上がってしまいます。日本政府は総会にかかれば棄権すると、というのが各紙の見通しのようです。
そこに強力なパレスチナの味方が登場しました。非常任ながら安保理の理事国であるインドです(任期は二年)。マンモハン・シン首相は国連総会で演壇から「パレスチナの国連加盟を心待ちにしている」と語りかけました。非同盟主義を貫いているインドであれば当然ともいえますが、近年のアメリカとの結びつきの進展を考えるとどうなるか、とその変心を予想する向きもあったようです。しかし、「是は是、非は非」を明確にするのもインド人の性向です。アメリカは原子力開発に関連してインドにいろいろな便宜を与え、日本や豪州と共に軍事訓練などを行って親近感を演出しているのですが、《御しにくい国》であることは十分に理解しているようです。これこそまさにインドなのです。現実主義者のインドです。
インドの「非同盟・全方位」の外交政策は、今日本でも政治課題となっている「次期主戦闘機(FX)」の選択交渉でも縦横無尽に発揮されています。いわゆる、第五世代戦闘機の選定です。
インドの兵器は独立後長らくロシア製の装備が中心でした。それでも全方位の方針で、他の国からも武器を調達していました。純粋に価格と機能・品質を比較し、相手国との外交関係などは二の次、三の次です。アメリカからも武器を購入し、今年に入ってからは輸送機C-17の購入を発表しています。海軍は長くイギリスのシーハリアーを配備してきました。
次期戦闘については、日本がボーイング社のFA18E、ロッキード・マーチン社のF35、英・伊・西・独共同開発のユーロファイターの三機種から選定するのに対し、インドは米のロッキード・ボーイング、ロシアのミグ、同じくロシアのUAC、フランスのダッソウ、スウェーデンのサーブとEADS、上記のユーロファイターなど6航空機メーカー・グループから選ぶことになります。
選定にあたって最大の比重を持つのは、先端技術の移転と共同開発による自国の産業への波及効果の大きさということのようです。ロシアが有利と見られている背景には、成約すればあらゆる主たる技術を移転する、と約束しているところにあるようです。これに対応すべく、南部の都市バンガロールには航空・宇宙関連の企業が集まっており、工科系大学卒の多くの若い技術者を全国から集めています。
これに倣えば、日本の場合はこれまでブラックボックスに入っていて関係者も覗くことのできなかった戦闘機の先端高度技術を移転し、共同開発をするといっているユーロファイターが断然有利となりますが、結果は分かりません。いつもは政府の外交政策に従う産業界も今回は微妙な立場のようですね。
インドは世界最大のスラムを抱える一方で、軍事大国のひとつでもあります。中国に次いで米ロと並ぶ百万人以上の兵力を保有し、軍事費では10位(ストックホルム国際平和研究所SIPRI2009年)ですが、その対GDP比率ではアメリカと並ぶ3.1%ぶあり、中国の 1,8%はもちろん、日本の1.0%をはるかに超えています。
超現実主義のインドです。
「わが国以外はすべて仮想敵国である」と言ったのはチャーチルのようですが、インドの非同盟・全方位外交とは、それを裏から見ているようなものかも知れません。
インドとはこういう国なのです。
多極化するこれからの世界を強かに生きて行く国家というのは、このような確固たる《国家意志》を持つことが求められていると感じます。
(歴山)