(上海の旧街区外灘ワイタンの夜景)
5月9日から10日、ワシントンで「米中戦略・経済対話」なる会議が開催されていました。米国のクリントン国務長官と中国の朱光耀財務次官が並んで写真に収まっていましたが、二人とも結構なツラ構えでしたね。そのほか、双方の軍高官も交えた会議だったようです。
新しい"G2"、二つの大国は、まさに〈モンスター対モンスター〉ですね。しかし、モンスター同士はある部分で〈共通利害〉を持っているようです。今回合意を見た議題の中で注目すべきは、二国で「アジア太平洋会議」を設置するという点です。つまり、アジアから太平洋にかけて、二人で話し合って管理しようと言う訳です。
共同会見でも、地域の安全保障や経済発展を協議するための「アジア太平洋会議」を設置する、と謳っています。問題はこの二国がいずれも厄介な国である、ということです。アメリカは同盟国であり、中国と同列に扱うのはとんでもない、という声も聞こえてきそうです。そういう考えこそが今日の我が国の低迷を招いていることに気付かねばなりません。
中国とアメリカは対立しており、社会体制も正反対の国、と多くの人が考えているかも知れない。それは一面では当たっています。しかし、両国はともに現代における〈共和国〉という点で同じなのです。「共和国」、“Repubique” “Republic”、と呼ばれる国々は、かのフランス大革命の精神を継承している国を指しています。すなわち「王」"King" (あるいは民族国家の「精神的支柱」) を排除してしまった国家です。両国は革命を経て、それ以前の社会体制、政治体制を覆して誕生している点で同じなのです。彼らは対立しているように見えて、「人造国家」としてある面で通じるものがあるのです。
アメリカという国が、ヨーロッパから逃れてきた人たちによって建国されたことは教科書に書かれている通りです。1620年に北アメリカに上陸した人々は「ピルグリム・ファーザーズ」と呼ばれました。1774年の『独立宣言』には「われわれは、自明の真理として、すべての人は平等に造られ、造物主によって、一定の奪いがたい天賦の権利を付与され、そのなかに生命、自由および幸福の追求のふくまれることを信じる」と書かれました。この文章にその後のアメリカの可能性も限界も示されています。その後、食糧危機に見舞われたヨーロッパ各地からの移民が次々と渡来し、また労働力としてアフリカから黒人を奴隷として連れて来て発展し、その後西へと拡大してきた「作られた国」がアメリカ合州国という国なのです(「合衆国」は誤訳です)。
一方の中国です。なぜ四千年の歴史を持つと誇る中国が〈人造国家〉であるのか。それは、この国が「革命」を経て伝統的な社会構造を破壊し、その後毛沢東の思想で作り直した国だからです。中華人民共和国という国名がそれを表しています。両国とも理念の上に成立している国なのです。それゆえ、多少無理があっても〈原理原則〉を守ろうとします。自分たちの考える〈理念〉に合わないことには腹を立てます。
中国は領土問題については一歩も譲るところがありません。経済協力を行い、時には支援している相手国とも、領土に関しては軍事行動を取ることがあります。南シナ海は風雲急を告げているようです。アメリカに至っては、いつもどこかで戦争をしている感があります。〈戦争中毒〉"war-holic" と形容されることがあるほどです。こんな二つの国が日本を含むアジアと太平洋を線引きすることを考えているとしたらオソロシイことでね。
アイゼンハワー大統領は1961年1月17日、上院での退任演説で重大なことを述べました。それは次のようなものです。
「軍産複合体による不当な影響力の獲得を排除しなければなりません。誤って与えられた権力の出現がもたらすかも知れない悲劇の可能性は存在し、また存在し続けるでしょう」
「この軍産複合体の影響力が、我々の自由や民主主義的プロセスを決して危険にさらすことのないようにせねばなりません」
「警戒心を持ち見識ある市民のみが、巨大な軍産マシーンを平和的な手段と目的に適合するように強いることができるのです。その結果として安全と自由とが共に維持され発展して行くでしょう」
アメリカが軍事大国と化したのはまさにこの前後のことです。それ以来ヴェトナム戦争に始まり今日に至るまで、ほとんどどこかで戦っていると言っても過言ではありません。まさにアイゼンハワーの懸念が実現しているのです。肥大化して自らコントロールを失っているかのようです。
つまり、問題はどちらの国も軍部が肥大化して議会に対し大きな影響力を行使していることです。オバマさんも胡錦濤さんも当人は物事を話し合いで決めたいと考えているような気がします。しかし、国家というものは最高権力者といえども動かしきれない部分があるものです。それこそ〈暴力装置〉と形容される軍隊とそれを取り巻く産・官・学の勢力なのです。
アメリカのモンスター性のもう一つの顔は〈強欲資本主義〉という顔ですが、それについては別に記したいと思います。
両国の名誉のために言えば、先の会議で、中国とアメリカは防衛、経済、エネルギー問題のほかに、「東日本震災後の復興に向け、日本政府と国民を支援する」ことでも合意していることを記さねばなりません。
日本としてはこの地域で主導すべきことがあるし、可能ではないかと考えますがどこまでできるかはビミョウですね。
(歴山)