Photo (遠望する新宿方面のオフィスビル群、東京)
ものごとをやたら複雑にして一般人には容易に理解できないようにする。そこに官と民の専門家が登場し、マスコミで都合のよい情報を流し、学会も巻き込んで解説する。原発のことではない、金融の世界でこそ展開されているのだ。
どの新聞にも「LIBOR問題」の解説記事が掲載されている。いくら記事を読んでも良く分からないというのが一般の受け止めようのようだ。端から自分たちは関係ないことと感じている者もいる。
「ライボー」という言葉をはじめて聞かされたのは、国内の某大学ビジネス・スクールに通っていた時だ。当時の教授の講義は現実味に乏しく、その説明はなかなか理解できなかった、仕事の現場でも直接関係がなくほとんど忘れていたところに「LIBOR問題」なることばが出回り記憶を呼び戻した。LIBORとはLondon Inter-Bank Offered Rateロンドン銀行間取引金利のことだった。
英国銀行協会が集計して発表する、複数の有力銀行から報告された11:00時点のレートの平均値、それで、正確には ” BBA LIBOR “ というらしい(BBA:British Bank Association)。これが「資金調達コスト」の基準として用いられることになる。それゆえ、0.1、否0.01の数字の変動でも大きく経済活動に影響を及ぼす。
こんなものが不正に操作されていたことが判明したとなれば問題は大きい。公正な市場活動をゆがめた不正行為で利益を生み出され、その分われわれを含め世界中が被害を受けていることになる。以前から疑いの目で見られていたらしく、訴訟・提訴が相次いでいたようだ。疑惑は日本にも飛び火し、東京市場でも不正が行われていた可能性があるとして操作に入っていると伝えられる。
銀行や保険会社と云えば最も固い会社組織であり、その社員も信用に値する人たちと考えられてきた。ことにわが国では銀行の信用は今も高い。たしかに今も現場の社員たちはそれなりに信用のおけそうな人が多いが、経営陣はそうではなかった。
為替や株式の取引は0.0000…1秒の取引で億円単位の利益を生み出す技術が確立されており、そこに国籍の定かでないファンドが登場して荒稼ぎをしている。ほとんど「やりたい放題」である。租税回避地(タックス・ヘヴン)に法人登録することでほとんど納税していない。
捕捉できないほどの巨大な資金を有するファンドが特定の企業に市場で「カラ売り」を仕掛けると、その企業は極端に株式価格が低下し、市場での信用を失い、倒産か売却を迫られる。今、日本の有力家電メーカーにもその危機が迫っている。
さすがに欧州では「空売り規制」、「ファンド活動の制限」が議題に上がっている。その声は主として英米系の金融機関に向けられている。日本ではその声はなかなか大きくならないどころか、発言すらはばかられる雰囲気がある。
他方、そのファンドの出資者はどういう人なのか。そこに中国、台湾、インド、ロシア、サウジ、ほかの資産家や資産運用会社が入っていない、とは言い切れない。いったい誰が利益を享受しているのか、それすら複雑になっている。
金融関係の一部の経営陣は収奪を合法的に行うために、つぎつぎと新しい金融商品、取引の仕組み、その評価会社、格付け会社まで生み出していく。デリバティヴ、レバレッヂ、最近猛威を振るっているのがCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)という商品ということになる。その名の通り、債権や社債の焦げ付きを予想してそのリスクを売買するオプション取引、つまり債務の不履行や経営破綻などによる「焦げ付く」可能性のある債権を束ねて多様な商品とし、それに名前を付けて取引する。極めて投機性の高い商品であることは間違いない。昔の日本人なら「人の不幸を金儲けのネタにする」ということだろう。
あたらしい商売のネタとはこういうものなのだ。一般投資家には理解できないほどに複雑な形態とし、企業の財務担当者たちがやっと理解できるほどの仕組みでおカネをかき集める。訴訟が起こされてもこれを十分に理解して判決を言い渡すことのできる司法関係者は少ない。やっと覚えた頃にはまた新しい商品が登場して世間を惑わしているだろう。
ビジネス・スクールで机を並べた某社財務担当者も、「いくら金儲けのためとはいえここまでやることはないと思う」ともらした。
(歴山)