Photo(カルナタカ州政府庁舎、インド)
我が国で小選挙区制度を導入した時に「二大政党による健全な政治が実現する、云々」ということが宣伝されました。
小選挙区では一つの選挙区で一人しか当選しません。その結果、大きな政党が有利となり、確かに民主党と自民党という二大政党体制が出来上がりました。三位以下の政党の候補者の当選は極めて難しくなります。比例区で中小政党の主張を尊重すべく仕組みを考えてある、とのことですが、果たしてこれが健全な民主主義といるのでしょうか。
わが国にはこの二つ以外に十に近い全国政党があります。現在、民主党と国民新党が与党を組み、それ以外が野党とされています。この線引きもすこし変ですね。各党の選挙の際の政策(「マニフェスト」)や日頃の主張・行動などを見る限り、事態はもっと複雑なような気がします。
そもそも、二大政党が民主主義政治の発展に寄与するとの根拠はどこにあるのでしょうか。「二大政党による政治」といえばイギリスとアメリカとをお手本として説明されることが多かったのですが、イギリスでは先の選挙で第三党が勢力を伸ばし、保守党、労働党、自由党が三つ巴の戦いをしました。アメリカでは民主、共和の二大政党に飽き足らない人びとが「オキュパイ(Occupy)」の掛け声で大都市に集結し、社会を揺るがしかねない運動体となっているようです。どちらも、長年の二大政党体制が疲弊していく中で政府や国会に届かない声を代弁して脚光を浴びているのではないかと思われます。
現在、わが国の衆議院議員選挙において有権者は小選挙区では候補者を、比例区では政党を選んで投票用紙に書いています。2009年の総選挙では、第一党となった民主党が選挙区で五割の得票率で七割の議席を占めた、といわれました。正確には、47.4% の得票率で63.7%の議席を占めたのです。その前の衆議院選挙では逆の現象がありました。かように、小選挙区とは小さな票数の変化が拡大されて投影される不安定な制度なのです。
有権者にとって選択肢が二つしかないということは社会全体にとって不幸なことです。また、二つの政党は与党と野党に分かれ、争点をはっきりと、白黒を決着させようとする傾向がでてくることは避けられません。そうでないとマスコミで報道されないし、政党も政治家は注目を浴びる機会が少なくなります。それゆえ、さほど差のない論点をことさら大きくしてみせる傾向が見られます。その結果ひとつの論点を極端へと進めることで、政策がゆがめられることになります。こうして、皮肉なことに本来の民主主義とはだんだんと離れて行くことになるのです。
メディア操作に長けた権力者が政権党の主導権を掌握すると、世論誘導しそれを背景に重要案件に党議拘束をかけて自分の主張を押し通してしまう恐れがあります。つい数年前に実際にわが国でもあった事象です。
政党とは離合集散の集団であり、時代とともに変幻に形を変えて行くところに意味があります。この中に入って自己の政治的信条を貫き通すことは極めて困難なことのようです。
聞いた話ですが、政治の世界に飛び込んだ政治家は、一個人としては政党への不本意な服従を強いられ、政党内での派閥争いに巻き込まれ、時に変節し、また自分の信条を裏切るか政党への反逆へと至たり、ついには除名されることになりかねません。そしてその結果として周囲の失望を買い、一族郎党知人友人へのお詫びの連続となるらしいのです。
七億人の有権者がいるインドの政治のあり方は興味深いものがあます。わが国の政治の将来への参考になるかもしれません。2009年の総選挙では33の政党が争いました。
自分と近い政党とゆるい連合を組むのですが、何から何まで同じということはあり得ませんから、争点となるイシューの中でも重要な政策で同盟を組んで選挙戦に臨むことになれます。コングレス(国民会議派)がUPA: United Progress Ally統一進歩同盟、BJP(インド人民党)がNDA: National Democratic Ally国民民主同盟という連合体を組み、さらに統一国民進歩同盟、左翼戦線などが選挙を戦います。
UPAの主な参加政党は、もともと会議派から分派した全インド草の根会議派と国民会議党、ドラヴィダ進歩党、全インド統一ムスリム評議会、インド連盟ムスリム連盟、さらにケラーラ、ジャンムー・カシミール、ジャールカンド州などの州単位の政党が続きます。
対するNDAにジャナタ・ダル(統一会派)、シヴ・セナ、アカリ・ダル、全国ローク・ダルにラダック、ナガランド、ウッタラーカンド、ミゾラム、テランガナ、などの地域政党が参加しています。
第三戦力としてはジャンタ・ダル世俗派、インド共産党マルクス主義派、テルグ・デサム、全印アンナ・ドラヴィダ進歩同盟、大衆社会党、などがあります。
新しい政治的問題が持ち上がると組み換えが微妙に変わっていくところにインドの政党政治の特徴があります。小さな政党も発言力が強いのです。少数意見が国政に反映されています。急激な変化は起こらないが、安定的に推移しています。
議論の分かれている案件を与党の指導者が党議拘束で強行する、などしてもあまり意味がないのです。
政治の組み合わせがたびたび変わることは悪いことではありません。首相も国民が必要とするのであれば、一年どころか半年ごとに代わっていくのもいいでしょう。自国の真の国益、国民の福祉の向上のためであれば、政党も政治家も常に変化し前進してもらいたいものです。
(歴山)