よのなか研究所

多価値共存世界を考える

日本はやや大きな「島嶼」の国

2011-04-20 18:01:18 | 島嶼

                                                                       屋久の森 ©r.ikeda

ヒマラヤ山系の東端ブータンから雲南、華南、台湾から九州を経て西日本までを覆っている森を照葉樹林と呼んでいます。亜熱帯から温帯にかけて葉の照りの強い常緑樹が生い茂っています。その中にあって、屋久島、吐喝喇列島、奄美群島、沖縄諸島と繋がる「海の上の照葉樹林帯」は特別な存在です。そこには濃い緑の森林と黒潮が渦巻く海洋が一体となった環境があり、また地質学的な時間感覚で独特の進化を遂げた希少種の動植物が多数見られます。生物多様性の見本のような環境です。その中には絶滅危惧種と指定されているものも少なくありません。

そんな光景を目の当たりにしてきたわれわれの先祖は森の深さを恐れ、その霊気に畏れを覚えたことでしょう。むやみに木を切ったり、生物を捕獲したりすることを自重するようになったことが想像されます。人間が自然の中で生かされているということを感じ取るのはそんなに難しいことではなかったでしょう。この地域に住み着いた人々がそこに感じとった「カミ」は、中東の地のキリスト教やイスラームの「神」とは異なるものであったのは当然のことでしょう。

先に挙げた島々も一様ではありません。シイ、カシ、タブ、クス、イヌマキなどの照葉の森が広がる屋久島、吐喝喇の島々、奄美大島、徳之島、沖縄本島のヤンバル地方、石垣島、西表島など高い山岳を持つ島と、隆起珊瑚礁など低い島である喜界島、沖永良部島、与論島、伊平屋島、慶良間列島、久高島、久米島、宮古島、八重山の島々とは植生が微妙に異なっています。それでも屋敷をフクギの並木で囲い、ガジュマルなどの榕樹が横に広がり、棕櫚(クバ)が風に揺れている光景はだいたい同じでした。

 そんな光景が崩れてきたのはこの数十年ほどのことのようです。外来種が入ってきたことで在来生物が減少しました。よく知られているのはジャワ・マングースが猛毒蛇ハブ駆除を目的に持ち込まれると、たちまちに繁殖してアマミノクロウサギやカエル、ネズミなどの希少種を捕食し、その数を減らしてしまいました(現在、環境庁の指揮下全国からの若者たちの働きでマングースの駆除は成功しつつあります)。廃棄物や廃油の害と乱獲でウミガメやカニ、エビ、貝類も減少してしました。鳥類、昆虫の減少に加え、植物の危惧種の数は数百に上ります。

近年の問題は人間の営為によるものが目立ちます。つまり「カネ儲け」のために自然環境が劣化しています。チップ材料を得るための山林の伐採、ネット販売を目的とした希少生物、特に爬虫類、昆虫類、また希少種のラン、エビネ、アオイ、ハコベなどの花にシダ類、コケ類の乱獲が続いています。これらの不法採集業者はカーフェリーでやってきて、そのまま自動車で山に入り、獲物をそのまま都会へ持ち帰る、または配送していることが分かっています。規制を強化しようにも、今のところ巧妙な相手に役所もボランティアも手を焼いているようです。

地元の責任もないわけではありません。一部の自覚のない住民がイヌやネコを里や山や放置するために、野良化した犬猫が希少生物を襲う事態も目撃されています。山を走る自動車による事故で小動物が被害にあっています。また一部ながら不法業者の手引きをしている人もいるようです。

私たちが考えるべきことは、少数の人たちが「おカネ」のために地域の資産を収奪し、環境を劣化させていることです。また、自分の生活を充実させるために自然環境に圧力を掛けることになっていることです。本来、島嶼の持つ多様性は経済競争には合致しないものが沢山あります。スピードと効率を競う近代経済社会のなすがままに放置できない地域がある、ということを都会の人々は知る必要があります。 

日本列島はやや大きな「島嶼」の集まりのようなものです。島国には島国にふさわしい生活があり、仕事があり、また周りの人々との付き合い方があります。大陸の国々とは成り立ちが異なっているのです。まずわれわれが自覚する必要がある、そんなことを考えさせられる出来事が多い昨今です。

(歴山)  



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1 コメント

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Unknown (みゅうゴン)
2011-04-23 01:52:11
自然のあり方については考えさせられますよね。
壊すのは簡単ですが、再生させるのは時間が掛かる。
このままではすべての動植物が二度と見られなくなってしまう可能性があります。
しかし、絶滅危惧種と知らせたら「金儲け」と結びつける人間がまだまだいる。
売る方が悪いのか買う方が悪いのか・・・。
私たちに出来る事は、守りつつ増やしていく。
希少種が沢山増えたら誰も買わないかな~?

しかし良い文ですね~。
何か機会があったら使わせて頂きます(^^
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