実は、国際情勢を読み解く上で、「漁業」は大きな意味を持っている。
食卓にのぼるサカナが日本の食を支えていることは言うまでもないが、実は国防とも密接に関わっている現実を、あなたは考えたことがあるだろうか。
漁業は海軍(海自)、海上警察(海保)に続く『第三の海軍』。東シナ海の現状にこそ、国境問題も包括する日本漁業における問題の真相と指摘されている北海道大学の漁業経済学者・佐々木准教授へのジャーナリストの小川匡則氏がインタビューされた記事がありました。
領土・領海の安全や食の安全保障を論じる専門家は数多いますが、食の恩全補償に必須の漁業が、国境維持に通じる重要な役目を果たしていると、具体的改善策も含めて展開されている貴重な視点で、備忘録として取り上げさせていただきました。
「尖閣諸島や大和堆など、我が国周辺海域を取り巻く情勢は依然として大変厳しい状況にあることから、海上保安体制の強化を継続して行う必要があります」と岸田首相。
安倍元首相も「一方的な現状変更の試みを続けているが、尖閣諸島を私たちの手で守り抜いていくという決意を見誤らないでもらいたい」と中国を牽制。
尖閣諸島を含む「東シナ海」は、一触即発の緊張に包まれた中国、台湾との「国境」なのであると。
日本の為政者の多くは国境で生じる問題を、海上保安体制や軍事力の観点から語ってきた。しかし、漁業経済学者の佐々木貴文氏はそこに一石を投じる主張を展開しているのです。
「漁業こそがカギを握る」と。
70年代から中国が漁業に力を入れ始め、80年代末には日本近海までやってくるようになります。日中の立場が逆転したことで、中国の漁業は技術的にも日本をキャッチアップしてしまった。
以降、人手不足などで漁業が衰退してきた日本と、統制され国策として食料問題にあたる中国との差が顕著に。
「世界に漁船団を展開する中国の漁業戦略は、東シナ海はまず第一歩と言えるでしょう。中国は世界最大の水産物輸出国になりましたが、いまや食料確保だけがその目的ではありません。漁業はサカナの輸出で外貨を稼ぐことができるだけでなく、漁業海域・テリトリーも広げられる。一石二鳥です。」と佐々木准教授。
その中で大きな存在感を示すのが『中国農業発展集団』。実は農業だけでなく水産業も守備範囲とする随一の国有企業で、中国における遠洋漁業生産量の半分はここの関連会社による漁獲とされているのだと。
中国における遠洋漁業生産量の半分はここの関連会社による漁獲とされているのだそうです。
国策に支えられ拡大する中国の漁業は、当然、その漁業海域の拡大にも関心を寄せるようになる。そして日本のEEZ(排他的経済水域)や敏感な海域にまで踏み込んで漁獲量を増やしてきた。
「外務省は東シナ海においては『中国との境界が未画定』のままになっているとしています。国力を増大させる中国に対して、立ち往生し、問題の解決を先送りしている尖閣諸島の領土問題は、まさに日本の漁業問題の最前線でもあるのです」と、佐々木准教授。
多勢に無勢の東シナ海のこの現状にこそ、国境問題も包括する日本漁業における問題の真相が隠されていると、小川氏。
「我々は漁業の衰退を真剣に考えるべき時に来ています。日本の漁業は慢性的な労働力不足。現状でも日本人の漁業の就業者はわずか15万人です。たった15万人が1億2600万人に水産食品を提供しているこの構造のいびつさを理解するべきでしょう。しかも、水産庁はあと30年もしないうちに半減してしまうと予測しています」と佐々木准教授。
人手不足でもなんとか漁業が成り立っているのは外国人の技能実習生のおかげだという。現場を支えているのは、インドネシア人など東南アジアの若者たちとは、諸兄がご承知のこと。
この外国人頼みが抜本的な改革を先送りすることになっていると小川氏。
日本には外交・防衛問題に深刻な懸念を示す為政者や国民は少なからず存在するが、その実、そこに通底する自国産業の衰退にはあまりにも無頓着だったと。
東シナ海では、中国だけでなく、台湾とも漁業において衝突が鮮明になっている。
2012年の尖閣国有化後、台湾は中国と歩調を合わせるかのように反発を強めた。
「2013年4月に『日台民間漁業取決め』を締結しましたが、クロマグロの最優良漁場も含む台湾に有利な条件を日本が認める内容でした。
水産庁は抵抗しましたが、政府・外務省は地政学的に台湾を重視しています。結果、ここでも日本の漁業権益を切り売りする結果となってしまった」
と、佐々木准教授。
当時の菅義偉官房長官の主導で、不利益を被る沖縄県の漁業者に対しては100億円規模の基金を作り、実質的な補償をすることを決定した。だが、補償はすれども漁業の再興策は講じられることはなかった。漁業は確かに「切り売り」されていると言わざるを得ないと。
危機は東シナ海に限った話ではない。
日本海の大和堆では北朝鮮との国交がない(最近は北朝鮮が中国に譲っているので尖閣近海の中国漁船は減)し、韓国との竹島問題もある。オホーツク海では北方領土をめぐってロシアとの緊張が続いている。これらの海域でもEEZは相互承認されていないと小川氏。
「尖閣諸島や大和堆など、我が国周辺海域を取り巻く情勢は依然として大変厳しい状況にあることから、海上保安体制の強化を継続して行う必要があります」と岸田首相。毎度のことですが、具体策は見えない。
中国海警船の接続海域での活動はほぼ毎日のように繰り返され、尖閣諸島周辺をめぐる緊張は高まる一方だ。安倍元首相も「一方的な現状変更の試みを続けているが、尖閣諸島を私たちの手で守り抜いていくという決意を見誤らないでもらいたい」と中国を牽制。
尖閣諸島を含む「東シナ海」は、一触即発の緊張に包まれた中国、台湾との「国境」。
日本の為政者の多くは国境で生じる問題を、海上保安体制や軍事力の観点から語ってきた。しかし、漁業経済学者の佐々木貴文氏はそこに一石を投じる主張を展開している。
「漁業こそがカギを握る」と。
「東シナ海における漁業は60年代までは日本の独壇場でした。これが70年代から中国が漁業に力を入れ始め、80年代末には日本近海までやってくるようになります。日中の立場が逆転したことで、中国の漁業は技術的にも日本をキャッチアップしてしまったのです」と佐々木准教授。
以降、人手不足などで漁業が衰退してきた日本と、統制され国策として食料問題にあたる中国との差が顕著に現れ始めると小川氏。
「世界に漁船団を展開する中国の漁業戦略は、東シナ海はまず第一歩と言えるでしょう。中国は世界最大の水産物輸出国になりましたが、いまや食料確保だけがその目的ではありません。漁業はサカナの輸出で外貨を稼ぐことができるだけでなく、漁業海域・テリトリーも広げられる。一石二鳥です。」と佐々木准教授。
国策に支えられ拡大する中国の漁業は、当然、その漁業海域の拡大にも関心を寄せるようになる。そして日本のEEZ(排他的経済水域)や敏感な海域にまで踏み込んで漁獲量を増やしてきた。
外務省は東シナ海においては『中国との境界が未画定』のままになっているとしています。国力を増大させる中国に対して、立ち往生し、問題の解決を先送りしている尖閣諸島の領土問題は、まさに日本の漁業問題の最前線でもあると佐々木准教授。
多勢に無勢の東シナ海のこの現状にこそ、国境問題も包括する日本漁業における問題の真相が隠されていると。
更に追い打ちとなるのが、日本人の漁業就労者。
「我々は漁業の衰退を真剣に考えるべき時に来ています。日本の漁業は慢性的な労働力不足。現状でも日本人の漁業の就業者はわずか15万人です。たった15万人が1億2600万人に水産食品を提供しているこの構造のいびつさを理解するべきでしょう。しかも、水産庁はあと30年もしないうちに半減してしまうと予測しています」と佐々木准教授。
それでもなんとか漁業が成り立っているのは外国人の技能実習生のおかげだという。現場を支えているのは、インドネシア人など東南アジアの若者たちのおかげなのですね。
しかし、彼らが日本に定着して漁業を支える担い手にはなりません。日本の漁業を支えてきた技術やノウハウは、日本の誰にも受け継がれていかないのです。これでは日本の漁業はやがて途絶えてしまう。
日本には外交・防衛問題に深刻な懸念を示す為政者や国民は少なからず存在するが、その実、そこに通底する自国産業の衰退にはあまりにも無頓着。
東シナ海ではさらに深刻な事態が進んでいる。中国だけでなく、台湾とも漁業において衝突が鮮明になっている。
「2013年4月に『日台民間漁業取決め』を締結しましたが、クロマグロの最優良漁場も含む台湾に有利な条件を日本が認める内容でした。
水産庁は抵抗しましたが、政府・外務省は地政学的に台湾を重視しています。結果、ここでも日本の漁業権益を切り売りする結果となってしまった」と佐々木准教授。
佐々木氏は、本書で漁業の国有化論を議論すべきだと唱えている。それは、口先だけの「国防」や「食料安全保障」の議論ばかりで具体的な戦略を持とうとしない国家への警鐘に他ならないと小川氏。
食料安保の観点からも、我が国は漁獲が減れば他国から買えばいいという考えは、中国の爆発的な経済発展で水産資源の争奪戦の最中にある現状では通用しない。
そんな国家の重要な役割を担う漁業が人手不足で存亡の危機にあることこそが、問題なのです。現行の『船員法』では、漁師に残業という概念が適用されないなど現代の働き方とは乖離が激しく、また、漁獲高に応じた歩合給は労働者の生活を不安定にしたままです。さらに、農業従事者には『農業者年金基金』があって、ちゃんとした年金制度が整備されているが、漁業従事者にはそんなささやかな生活補償の仕組みすらない。こうした実態を深刻に捉えてほしいと小川氏。
「日本の漁業人材を守り、さらに増やしていくには、国が漁業を支える姿勢を示すことが、まずは何より必要なのです」
佐々木氏の警句に耳を傾けるときが来ていると小川氏。
# 冒頭の画像は、一斉に出漁する超国漁船
この花の名前は、ヒナソウ
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遊爺さんの写真素材 - PIXTA
食卓にのぼるサカナが日本の食を支えていることは言うまでもないが、実は国防とも密接に関わっている現実を、あなたは考えたことがあるだろうか。
漁業は海軍(海自)、海上警察(海保)に続く『第三の海軍』。東シナ海の現状にこそ、国境問題も包括する日本漁業における問題の真相と指摘されている北海道大学の漁業経済学者・佐々木准教授へのジャーナリストの小川匡則氏がインタビューされた記事がありました。
領土・領海の安全や食の安全保障を論じる専門家は数多いますが、食の恩全補償に必須の漁業が、国境維持に通じる重要な役目を果たしていると、具体的改善策も含めて展開されている貴重な視点で、備忘録として取り上げさせていただきました。
「漁業敗戦」を放置すれば日本は東シナ海を奪われるはめに 漁業は国境維持産業、なのに中国の圧倒的力に太刀打ちできぬ現実 | JBpress (ジェイビープレス) 2022.1.14(金) 小川 匡則
日々、食卓にのぼるサカナが日本の食を支えていることは言うまでもないが、実は国防とも密接に関わっている現実を、あなたは考えたことがあるだろうか。
実は、国際情勢を読み解く上で、「漁業」は大きな意味を持っている。
北海道大学の佐々木貴文准教授がこのほど上梓した『東シナ海 漁民たちの国境紛争』(角川新書)は、漁業と国境紛争のリアリティに迫っている。「漁業経済学者」として活躍する佐々木氏の目には、尖閣諸島をめぐる東シナ海の現状と漁業の栄枯盛衰は一体の問題と映る。
佐々木氏に今、東シナ海で何が起きているのかを聞いた。
漁業と国境の知られざる関係
「尖閣諸島や大和堆など、我が国周辺海域を取り巻く情勢は依然として大変厳しい状況にあることから、海上保安体制の強化を継続して行う必要があります」
岸田文雄首相は、昨年12月24日に行われた関係閣僚会議でこう述べた。
中国海警船の接続海域での活動はほぼ毎日のように繰り返され、尖閣諸島周辺をめぐる緊張は高まる一方だ。安倍晋三元首相も「一方的な現状変更の試みを続けているが、尖閣諸島を私たちの手で守り抜いていくという決意を見誤らないでもらいたい」と中国を牽制する。
尖閣諸島を含む「東シナ海」は、一触即発の緊張に包まれた中国、台湾との「国境」なのである。
日本の為政者の多くは国境で生じる問題を、海上保安体制や軍事力の観点から語ってきた。しかし、漁業経済学者の佐々木貴文氏はそこに一石を投じる主張を展開している。
「漁業こそがカギを握る」と言うのだ。
「尖閣諸島でできる唯一の経済活動は漁業です。そして、私たちが尖閣諸島のリアルに接近できるほとんど唯一の媒介が漁業なのです」(以下、断りのない限り「」は佐々木氏のコメント)
尖閣諸島で劣勢を強いられるワケ
東シナ海は極めて優良な漁業海域であり、実際にかつては日本の漁船団が席巻していた。
「東シナ海の約8割は水深200メートル未満の浅い海で、アジやサバなどの黒潮に沿って回遊する浮魚類の絶好の産卵場・住処になっています。大衆魚だけでなくマグロやタチウオなどの高級魚も獲れ、全面が優良漁場です。
東シナ海における漁業は60年代までは日本の独壇場でした。これが70年代から中国が漁業に力を入れ始め、80年代末には日本近海までやってくるようになります。日中の立場が逆転したことで、中国の漁業は技術的にも日本をキャッチアップしてしまったのです」
以降、人手不足などで漁業が衰退してきた日本と、統制され国策として食料問題にあたる中国との差が顕著に現れ始める。
「世界に漁船団を展開する中国の漁業戦略は、東シナ海はまず第一歩と言えるでしょう。中国は世界最大の水産物輸出国になりましたが、いまや食料確保だけがその目的ではありません。漁業はサカナの輸出で外貨を稼ぐことができるだけでなく、漁業海域・テリトリーも広げられる。一石二鳥です。
その中で大きな存在感を示すのが『中国農業発展集団』。実は農業だけでなく水産業も守備範囲とする随一の国有企業で、従業員は8万人、総資産は150億元(約2730億円)の規模を誇ります。中国における遠洋漁業生産量の半分はここの関連会社による漁獲とされています」
国策に支えられ拡大する中国の漁業は、当然、その漁業海域の拡大にも関心を寄せるようになる。そして日本のEEZ(排他的経済水域)や敏感な海域にまで踏み込んで漁獲量を増やしてきたという。
「日本政府は、日本のEEZ(排他的経済水域)が世界第6位で広大であることをアピールし、日本人もそれを疑うことはありません。しかし同時に、外務省は東シナ海においては『中国との境界が未画定』のままになっているとしています。国力を増大させる中国に対して、立ち往生し、問題の解決を先送りしている尖閣諸島の領土問題は、まさに日本の漁業問題の最前線でもあるのです」
データが示す「漁業敗戦」
実際、現在の東シナ海における日中の漁獲量の差は拡大の一途をたどっている。
中国との漁業協議で決められている漁獲割当量(暫定措置水域での漁獲量の上限目標値)は「中国側164.4万トン」に対して「日本側10.9万トン」と圧倒的に中国有利な状況が続いている。操業できる漁船も「中国側1万7307隻以内」に対して「日本側800隻以内」。日本の漁船は中国のたった5%以下しか操業が認められていないのだ。
「日本の漁船にとって東シナ海での操業は熾烈を極めている。例えば、日本の大型のまき網漁船が操業していると、それを目印に中国漁船が周囲を取り囲む。そして日本では使われていない高出力の集魚ライトを灯し、真横で魚を持ち去ってしまう。圧倒的多数の中国船を前に、日本漁船は意欲を失い操業を諦めるようになってしまった。東シナ海は中国漁船の独壇場となっているのです」
多勢に無勢の東シナ海のこの現状にこそ、国境問題も包括する日本漁業における問題の真相が隠されている。
「我々は漁業の衰退を真剣に考えるべき時に来ています。日本の漁業は慢性的な労働力不足。現状でも日本人の漁業の就業者はわずか15万人です。たった15万人が1億2600万人に水産食品を提供しているこの構造のいびつさを理解するべきでしょう。しかも、水産庁はあと30年もしないうちに半減してしまうと予測しています」
後継者が育つわけがない
それでもなんとか漁業が成り立っているのは外国人の技能実習生のおかげだという。現場を支えているのは、インドネシア人など東南アジアの若者たちだ。
「テレビ番組でもよく取り上げられるカツオの一本釣りの雄姿に皆さんもあこがれたことがあるでしょう。しかし、いまや釣り師の多くがインドネシアの若者たちに置き換わっています。もちろん、これは漁業を永続させるための一つの方法ではある。しかし、こうした外国人頼みが抜本的な改革を先送りすることになっている。
当然ですが、彼らは技能実習生。ノウハウを学んでも、彼らが日本に定着して漁業を支える担い手にはなりません。日本の漁業を支えてきた技術やノウハウは、日本の誰にも受け継がれていかないのです。これでは日本の漁業はやがて途絶えてしまう」
日本には外交・防衛問題に深刻な懸念を示す為政者や国民は少なからず存在するが、その実、そこに通底する自国産業の衰退にはあまりにも無頓着だったのだ。
事態は刻々と悪化している
漁業従事者15万人の声は、少数がゆえになかなか政治には届かない。手をこまねいている間にも東シナ海ではさらに深刻な事態が進んでいる。中国だけでなく、台湾とも漁業において衝突が鮮明になっているのだ。
特に2012年の尖閣国有化後、台湾は中国と歩調を合わせるかのように反発を強めた。
「2013年4月に『日台民間漁業取決め』を締結しましたが、クロマグロの最優良漁場も含む台湾に有利な条件を日本が認める内容でした。
水産庁は抵抗しましたが、政府・外務省は地政学的に台湾を重視しています。結果、ここでも日本の漁業権益を切り売りする結果となってしまった」
当時の菅義偉官房長官の主導で、不利益を被る沖縄県の漁業者に対しては100億円規模の基金を作り、実質的な補償をすることを決定した。だが、補償はすれども漁業の再興策は講じられることはなかった。漁業は確かに「切り売り」されていると言わざるを得ない。
危機は東シナ海に限った話ではない。
日本海では北朝鮮との国交がないし、竹島問題もある。オホーツク海では北方領土をめぐってロシアとの緊張が続いている。これらの海域でもEEZは相互承認されていないのだ。
漁業は国有化するべきだ
「GDPから見ると漁業生産なんて微々たるもの。だから漁業を捨ててでも外交努力で領海を維持すればよいと政府は考えているのでしょうか。しかし、これまで見てきたように各国と我が国の漁業の勢力関係図を見れば、この考え方が正しいとは思えません。
私は本書で『本当にそれでいいんですか』と問いたい。魚は日本人にとって主たる食料です。危機感がないと言わざるを得ません」
佐々木氏は、本書で漁業の国有化論を議論すべきだと唱えている。それは、口先だけの「国防」や「食料安全保障」の議論ばかりで具体的な戦略を持とうとしない国家への警鐘に他ならない。
「21年の国防費は補正予算も含めて6兆円を超えました。しかし、漁業国有化にはアイデアさえあれば多額な予算は必要ない。漁船はそれほど高価ではない。操業することで運用経費も回収できる。
そんな“低予算”で展開できる漁業は、尖閣諸島におけるわが国唯一の経済活動であり、中国漁船がそうであるように、幸か不幸かは別として尖兵の役割を担うケースもある。漁業は海軍(海自)、海上警察(海保)に続く『第三の海軍』の性格を秘めており、いわば国境維持産業なのです。
食料安保の観点からも、我が国は漁獲が減れば他国から買えばいいという考えは、中国の爆発的な経済発展で水産資源の争奪戦の最中にある現状では通用しない。
そんな国家の重要な役割を担う漁業が人手不足で存亡の危機にあることこそが、問題なのです。現行の『船員法』では、漁師に残業という概念が適用されないなど現代の働き方とは乖離が激しく、また、漁獲高に応じた歩合給は労働者の生活を不安定にしたままです。さらに、農業従事者には『農業者年金基金』があって、ちゃんとした年金制度が整備されているが、漁業従事者にはそんなささやかな生活補償の仕組みすらない。こうした実態を深刻に捉えてほしい。
日本の漁業人材を守り、さらに増やしていくには、国が漁業を支える姿勢を示すことが、まずは何より必要なのです」
佐々木氏の警句に耳を傾けるときが来ている。
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小川 匡則(おがわ・まさのり)のプロフィール
ジャーナリスト。1984年、東京都生まれ。講談社「週刊現代」記者。北海道大学農学部卒、同大学院農学院修了。政治、経済、社会問題などを中心に取材している。
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日々、食卓にのぼるサカナが日本の食を支えていることは言うまでもないが、実は国防とも密接に関わっている現実を、あなたは考えたことがあるだろうか。
実は、国際情勢を読み解く上で、「漁業」は大きな意味を持っている。
北海道大学の佐々木貴文准教授がこのほど上梓した『東シナ海 漁民たちの国境紛争』(角川新書)は、漁業と国境紛争のリアリティに迫っている。「漁業経済学者」として活躍する佐々木氏の目には、尖閣諸島をめぐる東シナ海の現状と漁業の栄枯盛衰は一体の問題と映る。
佐々木氏に今、東シナ海で何が起きているのかを聞いた。
漁業と国境の知られざる関係
「尖閣諸島や大和堆など、我が国周辺海域を取り巻く情勢は依然として大変厳しい状況にあることから、海上保安体制の強化を継続して行う必要があります」
岸田文雄首相は、昨年12月24日に行われた関係閣僚会議でこう述べた。
中国海警船の接続海域での活動はほぼ毎日のように繰り返され、尖閣諸島周辺をめぐる緊張は高まる一方だ。安倍晋三元首相も「一方的な現状変更の試みを続けているが、尖閣諸島を私たちの手で守り抜いていくという決意を見誤らないでもらいたい」と中国を牽制する。
尖閣諸島を含む「東シナ海」は、一触即発の緊張に包まれた中国、台湾との「国境」なのである。
日本の為政者の多くは国境で生じる問題を、海上保安体制や軍事力の観点から語ってきた。しかし、漁業経済学者の佐々木貴文氏はそこに一石を投じる主張を展開している。
「漁業こそがカギを握る」と言うのだ。
「尖閣諸島でできる唯一の経済活動は漁業です。そして、私たちが尖閣諸島のリアルに接近できるほとんど唯一の媒介が漁業なのです」(以下、断りのない限り「」は佐々木氏のコメント)
尖閣諸島で劣勢を強いられるワケ
東シナ海は極めて優良な漁業海域であり、実際にかつては日本の漁船団が席巻していた。
「東シナ海の約8割は水深200メートル未満の浅い海で、アジやサバなどの黒潮に沿って回遊する浮魚類の絶好の産卵場・住処になっています。大衆魚だけでなくマグロやタチウオなどの高級魚も獲れ、全面が優良漁場です。
東シナ海における漁業は60年代までは日本の独壇場でした。これが70年代から中国が漁業に力を入れ始め、80年代末には日本近海までやってくるようになります。日中の立場が逆転したことで、中国の漁業は技術的にも日本をキャッチアップしてしまったのです」
以降、人手不足などで漁業が衰退してきた日本と、統制され国策として食料問題にあたる中国との差が顕著に現れ始める。
「世界に漁船団を展開する中国の漁業戦略は、東シナ海はまず第一歩と言えるでしょう。中国は世界最大の水産物輸出国になりましたが、いまや食料確保だけがその目的ではありません。漁業はサカナの輸出で外貨を稼ぐことができるだけでなく、漁業海域・テリトリーも広げられる。一石二鳥です。
その中で大きな存在感を示すのが『中国農業発展集団』。実は農業だけでなく水産業も守備範囲とする随一の国有企業で、従業員は8万人、総資産は150億元(約2730億円)の規模を誇ります。中国における遠洋漁業生産量の半分はここの関連会社による漁獲とされています」
国策に支えられ拡大する中国の漁業は、当然、その漁業海域の拡大にも関心を寄せるようになる。そして日本のEEZ(排他的経済水域)や敏感な海域にまで踏み込んで漁獲量を増やしてきたという。
「日本政府は、日本のEEZ(排他的経済水域)が世界第6位で広大であることをアピールし、日本人もそれを疑うことはありません。しかし同時に、外務省は東シナ海においては『中国との境界が未画定』のままになっているとしています。国力を増大させる中国に対して、立ち往生し、問題の解決を先送りしている尖閣諸島の領土問題は、まさに日本の漁業問題の最前線でもあるのです」
データが示す「漁業敗戦」
実際、現在の東シナ海における日中の漁獲量の差は拡大の一途をたどっている。
中国との漁業協議で決められている漁獲割当量(暫定措置水域での漁獲量の上限目標値)は「中国側164.4万トン」に対して「日本側10.9万トン」と圧倒的に中国有利な状況が続いている。操業できる漁船も「中国側1万7307隻以内」に対して「日本側800隻以内」。日本の漁船は中国のたった5%以下しか操業が認められていないのだ。
「日本の漁船にとって東シナ海での操業は熾烈を極めている。例えば、日本の大型のまき網漁船が操業していると、それを目印に中国漁船が周囲を取り囲む。そして日本では使われていない高出力の集魚ライトを灯し、真横で魚を持ち去ってしまう。圧倒的多数の中国船を前に、日本漁船は意欲を失い操業を諦めるようになってしまった。東シナ海は中国漁船の独壇場となっているのです」
多勢に無勢の東シナ海のこの現状にこそ、国境問題も包括する日本漁業における問題の真相が隠されている。
「我々は漁業の衰退を真剣に考えるべき時に来ています。日本の漁業は慢性的な労働力不足。現状でも日本人の漁業の就業者はわずか15万人です。たった15万人が1億2600万人に水産食品を提供しているこの構造のいびつさを理解するべきでしょう。しかも、水産庁はあと30年もしないうちに半減してしまうと予測しています」
後継者が育つわけがない
それでもなんとか漁業が成り立っているのは外国人の技能実習生のおかげだという。現場を支えているのは、インドネシア人など東南アジアの若者たちだ。
「テレビ番組でもよく取り上げられるカツオの一本釣りの雄姿に皆さんもあこがれたことがあるでしょう。しかし、いまや釣り師の多くがインドネシアの若者たちに置き換わっています。もちろん、これは漁業を永続させるための一つの方法ではある。しかし、こうした外国人頼みが抜本的な改革を先送りすることになっている。
当然ですが、彼らは技能実習生。ノウハウを学んでも、彼らが日本に定着して漁業を支える担い手にはなりません。日本の漁業を支えてきた技術やノウハウは、日本の誰にも受け継がれていかないのです。これでは日本の漁業はやがて途絶えてしまう」
日本には外交・防衛問題に深刻な懸念を示す為政者や国民は少なからず存在するが、その実、そこに通底する自国産業の衰退にはあまりにも無頓着だったのだ。
事態は刻々と悪化している
漁業従事者15万人の声は、少数がゆえになかなか政治には届かない。手をこまねいている間にも東シナ海ではさらに深刻な事態が進んでいる。中国だけでなく、台湾とも漁業において衝突が鮮明になっているのだ。
特に2012年の尖閣国有化後、台湾は中国と歩調を合わせるかのように反発を強めた。
「2013年4月に『日台民間漁業取決め』を締結しましたが、クロマグロの最優良漁場も含む台湾に有利な条件を日本が認める内容でした。
水産庁は抵抗しましたが、政府・外務省は地政学的に台湾を重視しています。結果、ここでも日本の漁業権益を切り売りする結果となってしまった」
当時の菅義偉官房長官の主導で、不利益を被る沖縄県の漁業者に対しては100億円規模の基金を作り、実質的な補償をすることを決定した。だが、補償はすれども漁業の再興策は講じられることはなかった。漁業は確かに「切り売り」されていると言わざるを得ない。
危機は東シナ海に限った話ではない。
日本海では北朝鮮との国交がないし、竹島問題もある。オホーツク海では北方領土をめぐってロシアとの緊張が続いている。これらの海域でもEEZは相互承認されていないのだ。
漁業は国有化するべきだ
「GDPから見ると漁業生産なんて微々たるもの。だから漁業を捨ててでも外交努力で領海を維持すればよいと政府は考えているのでしょうか。しかし、これまで見てきたように各国と我が国の漁業の勢力関係図を見れば、この考え方が正しいとは思えません。
私は本書で『本当にそれでいいんですか』と問いたい。魚は日本人にとって主たる食料です。危機感がないと言わざるを得ません」
佐々木氏は、本書で漁業の国有化論を議論すべきだと唱えている。それは、口先だけの「国防」や「食料安全保障」の議論ばかりで具体的な戦略を持とうとしない国家への警鐘に他ならない。
「21年の国防費は補正予算も含めて6兆円を超えました。しかし、漁業国有化にはアイデアさえあれば多額な予算は必要ない。漁船はそれほど高価ではない。操業することで運用経費も回収できる。
そんな“低予算”で展開できる漁業は、尖閣諸島におけるわが国唯一の経済活動であり、中国漁船がそうであるように、幸か不幸かは別として尖兵の役割を担うケースもある。漁業は海軍(海自)、海上警察(海保)に続く『第三の海軍』の性格を秘めており、いわば国境維持産業なのです。
食料安保の観点からも、我が国は漁獲が減れば他国から買えばいいという考えは、中国の爆発的な経済発展で水産資源の争奪戦の最中にある現状では通用しない。
そんな国家の重要な役割を担う漁業が人手不足で存亡の危機にあることこそが、問題なのです。現行の『船員法』では、漁師に残業という概念が適用されないなど現代の働き方とは乖離が激しく、また、漁獲高に応じた歩合給は労働者の生活を不安定にしたままです。さらに、農業従事者には『農業者年金基金』があって、ちゃんとした年金制度が整備されているが、漁業従事者にはそんなささやかな生活補償の仕組みすらない。こうした実態を深刻に捉えてほしい。
日本の漁業人材を守り、さらに増やしていくには、国が漁業を支える姿勢を示すことが、まずは何より必要なのです」
佐々木氏の警句に耳を傾けるときが来ている。
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小川 匡則(おがわ・まさのり)のプロフィール
ジャーナリスト。1984年、東京都生まれ。講談社「週刊現代」記者。北海道大学農学部卒、同大学院農学院修了。政治、経済、社会問題などを中心に取材している。
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「尖閣諸島や大和堆など、我が国周辺海域を取り巻く情勢は依然として大変厳しい状況にあることから、海上保安体制の強化を継続して行う必要があります」と岸田首相。
安倍元首相も「一方的な現状変更の試みを続けているが、尖閣諸島を私たちの手で守り抜いていくという決意を見誤らないでもらいたい」と中国を牽制。
尖閣諸島を含む「東シナ海」は、一触即発の緊張に包まれた中国、台湾との「国境」なのであると。
日本の為政者の多くは国境で生じる問題を、海上保安体制や軍事力の観点から語ってきた。しかし、漁業経済学者の佐々木貴文氏はそこに一石を投じる主張を展開しているのです。
「漁業こそがカギを握る」と。
70年代から中国が漁業に力を入れ始め、80年代末には日本近海までやってくるようになります。日中の立場が逆転したことで、中国の漁業は技術的にも日本をキャッチアップしてしまった。
以降、人手不足などで漁業が衰退してきた日本と、統制され国策として食料問題にあたる中国との差が顕著に。
「世界に漁船団を展開する中国の漁業戦略は、東シナ海はまず第一歩と言えるでしょう。中国は世界最大の水産物輸出国になりましたが、いまや食料確保だけがその目的ではありません。漁業はサカナの輸出で外貨を稼ぐことができるだけでなく、漁業海域・テリトリーも広げられる。一石二鳥です。」と佐々木准教授。
その中で大きな存在感を示すのが『中国農業発展集団』。実は農業だけでなく水産業も守備範囲とする随一の国有企業で、中国における遠洋漁業生産量の半分はここの関連会社による漁獲とされているのだと。
中国における遠洋漁業生産量の半分はここの関連会社による漁獲とされているのだそうです。
国策に支えられ拡大する中国の漁業は、当然、その漁業海域の拡大にも関心を寄せるようになる。そして日本のEEZ(排他的経済水域)や敏感な海域にまで踏み込んで漁獲量を増やしてきた。
「外務省は東シナ海においては『中国との境界が未画定』のままになっているとしています。国力を増大させる中国に対して、立ち往生し、問題の解決を先送りしている尖閣諸島の領土問題は、まさに日本の漁業問題の最前線でもあるのです」と、佐々木准教授。
多勢に無勢の東シナ海のこの現状にこそ、国境問題も包括する日本漁業における問題の真相が隠されていると、小川氏。
「我々は漁業の衰退を真剣に考えるべき時に来ています。日本の漁業は慢性的な労働力不足。現状でも日本人の漁業の就業者はわずか15万人です。たった15万人が1億2600万人に水産食品を提供しているこの構造のいびつさを理解するべきでしょう。しかも、水産庁はあと30年もしないうちに半減してしまうと予測しています」と佐々木准教授。
人手不足でもなんとか漁業が成り立っているのは外国人の技能実習生のおかげだという。現場を支えているのは、インドネシア人など東南アジアの若者たちとは、諸兄がご承知のこと。
この外国人頼みが抜本的な改革を先送りすることになっていると小川氏。
日本には外交・防衛問題に深刻な懸念を示す為政者や国民は少なからず存在するが、その実、そこに通底する自国産業の衰退にはあまりにも無頓着だったと。
東シナ海では、中国だけでなく、台湾とも漁業において衝突が鮮明になっている。
2012年の尖閣国有化後、台湾は中国と歩調を合わせるかのように反発を強めた。
「2013年4月に『日台民間漁業取決め』を締結しましたが、クロマグロの最優良漁場も含む台湾に有利な条件を日本が認める内容でした。
水産庁は抵抗しましたが、政府・外務省は地政学的に台湾を重視しています。結果、ここでも日本の漁業権益を切り売りする結果となってしまった」
と、佐々木准教授。
当時の菅義偉官房長官の主導で、不利益を被る沖縄県の漁業者に対しては100億円規模の基金を作り、実質的な補償をすることを決定した。だが、補償はすれども漁業の再興策は講じられることはなかった。漁業は確かに「切り売り」されていると言わざるを得ないと。
危機は東シナ海に限った話ではない。
日本海の大和堆では北朝鮮との国交がない(最近は北朝鮮が中国に譲っているので尖閣近海の中国漁船は減)し、韓国との竹島問題もある。オホーツク海では北方領土をめぐってロシアとの緊張が続いている。これらの海域でもEEZは相互承認されていないと小川氏。
「尖閣諸島や大和堆など、我が国周辺海域を取り巻く情勢は依然として大変厳しい状況にあることから、海上保安体制の強化を継続して行う必要があります」と岸田首相。毎度のことですが、具体策は見えない。
中国海警船の接続海域での活動はほぼ毎日のように繰り返され、尖閣諸島周辺をめぐる緊張は高まる一方だ。安倍元首相も「一方的な現状変更の試みを続けているが、尖閣諸島を私たちの手で守り抜いていくという決意を見誤らないでもらいたい」と中国を牽制。
尖閣諸島を含む「東シナ海」は、一触即発の緊張に包まれた中国、台湾との「国境」。
日本の為政者の多くは国境で生じる問題を、海上保安体制や軍事力の観点から語ってきた。しかし、漁業経済学者の佐々木貴文氏はそこに一石を投じる主張を展開している。
「漁業こそがカギを握る」と。
「東シナ海における漁業は60年代までは日本の独壇場でした。これが70年代から中国が漁業に力を入れ始め、80年代末には日本近海までやってくるようになります。日中の立場が逆転したことで、中国の漁業は技術的にも日本をキャッチアップしてしまったのです」と佐々木准教授。
以降、人手不足などで漁業が衰退してきた日本と、統制され国策として食料問題にあたる中国との差が顕著に現れ始めると小川氏。
「世界に漁船団を展開する中国の漁業戦略は、東シナ海はまず第一歩と言えるでしょう。中国は世界最大の水産物輸出国になりましたが、いまや食料確保だけがその目的ではありません。漁業はサカナの輸出で外貨を稼ぐことができるだけでなく、漁業海域・テリトリーも広げられる。一石二鳥です。」と佐々木准教授。
国策に支えられ拡大する中国の漁業は、当然、その漁業海域の拡大にも関心を寄せるようになる。そして日本のEEZ(排他的経済水域)や敏感な海域にまで踏み込んで漁獲量を増やしてきた。
外務省は東シナ海においては『中国との境界が未画定』のままになっているとしています。国力を増大させる中国に対して、立ち往生し、問題の解決を先送りしている尖閣諸島の領土問題は、まさに日本の漁業問題の最前線でもあると佐々木准教授。
多勢に無勢の東シナ海のこの現状にこそ、国境問題も包括する日本漁業における問題の真相が隠されていると。
更に追い打ちとなるのが、日本人の漁業就労者。
「我々は漁業の衰退を真剣に考えるべき時に来ています。日本の漁業は慢性的な労働力不足。現状でも日本人の漁業の就業者はわずか15万人です。たった15万人が1億2600万人に水産食品を提供しているこの構造のいびつさを理解するべきでしょう。しかも、水産庁はあと30年もしないうちに半減してしまうと予測しています」と佐々木准教授。
それでもなんとか漁業が成り立っているのは外国人の技能実習生のおかげだという。現場を支えているのは、インドネシア人など東南アジアの若者たちのおかげなのですね。
しかし、彼らが日本に定着して漁業を支える担い手にはなりません。日本の漁業を支えてきた技術やノウハウは、日本の誰にも受け継がれていかないのです。これでは日本の漁業はやがて途絶えてしまう。
日本には外交・防衛問題に深刻な懸念を示す為政者や国民は少なからず存在するが、その実、そこに通底する自国産業の衰退にはあまりにも無頓着。
東シナ海ではさらに深刻な事態が進んでいる。中国だけでなく、台湾とも漁業において衝突が鮮明になっている。
「2013年4月に『日台民間漁業取決め』を締結しましたが、クロマグロの最優良漁場も含む台湾に有利な条件を日本が認める内容でした。
水産庁は抵抗しましたが、政府・外務省は地政学的に台湾を重視しています。結果、ここでも日本の漁業権益を切り売りする結果となってしまった」と佐々木准教授。
佐々木氏は、本書で漁業の国有化論を議論すべきだと唱えている。それは、口先だけの「国防」や「食料安全保障」の議論ばかりで具体的な戦略を持とうとしない国家への警鐘に他ならないと小川氏。
食料安保の観点からも、我が国は漁獲が減れば他国から買えばいいという考えは、中国の爆発的な経済発展で水産資源の争奪戦の最中にある現状では通用しない。
そんな国家の重要な役割を担う漁業が人手不足で存亡の危機にあることこそが、問題なのです。現行の『船員法』では、漁師に残業という概念が適用されないなど現代の働き方とは乖離が激しく、また、漁獲高に応じた歩合給は労働者の生活を不安定にしたままです。さらに、農業従事者には『農業者年金基金』があって、ちゃんとした年金制度が整備されているが、漁業従事者にはそんなささやかな生活補償の仕組みすらない。こうした実態を深刻に捉えてほしいと小川氏。
「日本の漁業人材を守り、さらに増やしていくには、国が漁業を支える姿勢を示すことが、まずは何より必要なのです」
佐々木氏の警句に耳を傾けるときが来ていると小川氏。
# 冒頭の画像は、一斉に出漁する超国漁船
この花の名前は、ヒナソウ
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