中国は、戦略を建てたら、アドバルーンをあげたり、ジャブを繰り出して反応をみながら時間をかけて押したり引いたりしながらステップアップさせ戦略目標に近づけるのが常套手段です。
今回の設定が、人民解放軍主導の発案であれば指導力基盤の弱い習近平政権が後退させることが出来るはずもなく、一歩後退二歩前進で、これまでの重要戦略の「接近阻止・領域拒否」(A2AD)成就を推進することは明らかです。
米軍のB52の出動で、出鼻をくじいてもらい一息つけましたが、中期戦略への備えは急がねばなりません。
【ワシントン=今井隆】中国が東シナ海に防空識別圏(ADIZ)を設定した問題で、米政府がB52戦略爆撃機2機を日本時間の26日に圏内で訓練飛行させ、その事実を公表したのは、中国による地域の「現状変更」の動きを拒否する考えを、強い行動で示す狙いがある。
核爆弾を搭載できるB52は、米国による「抑止力」の象徴ともいえる。過去、朝鮮半島情勢が緊張した際に、米韓合同軍事演習にB52を参加させて北朝鮮をけん制したこともある。日米関係筋によると、米軍はB52の訓練飛行に関し、日本に事前に説明しなかったといい、今回の問題を日中間の対立というより、米国自身の問題と受け止めていることをうかがわせた。
カーネギー国際平和財団のジェームズ・ショフ上級研究員(元国防総省上級顧問)は「武力や脅しを背景に尖閣諸島上空を防空識別圏として設定するのは、これまでと異なる新しい状況だ。B52の飛行は、80%は米国自身のため、20%が日本のため」と解説する。
米国は自衛隊と中国の軍用機がこの空域で衝突し、米軍が巻き込まれることを懸念する一方、中長期的には、西太平洋地域で米軍の接近を阻む「接近阻止・領域拒否」(A2AD)といわれる中国の戦略を進めるうえで、防空識別圏設定が一里塚になるとみており、危機感は強い。
今回、ヘーゲル国防長官が出した声明には、尖閣諸島には米国の対日防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条が適用されると明記された。「これまで米政権は、口頭でこうした立場を示しても、文書で示したことはない」(日本政府筋)といい、「尖閣を巡る立場があいまいだから中国につけ込まれる」(政策研究機関研究員)とも批判されてきた米国の姿勢に、変化が表れている。
第二次オバマ政権は、クリントン前長官からケリー長官に代わり、アジアより中東寄りで、日本にはクールな態度に変わった思っていたのですが、ヘーゲル国防長官は、尖閣への日米同盟適用を文書で明言する、一歩踏み込んだ姿勢を示したのだそうですね。
防空識別圏設定が、米国に対する「接近阻止・領域拒否」(A2AD)の一環と捉えたからですね。
中国は、第二列島線以内への米空母の接近を抑止するASBMを、固定された陸上ではなく、潜水艦に搭載し東シナ海の中で移動しながら配備する戦術には、東シナ海の制海・制空権の確立が必要なのですね。
尖閣の近海や空を管理することで、米国が日米同盟の適用をする根拠としている日本の管理下にある状況を崩すレベルを超えた狙いが露呈したのでした。
繰り返しになりますが、世界世論の攻撃にはあいましたが、「接近阻止・領域拒否」(A2AD)戦略の推進は、人民解放軍の海洋進出戦略の核をなす戦略です。
防空識別圏設定という大きな実績は実現されてしまいました。
南シナ海や、尖閣への押したり引いたりの波状攻撃同様に、今後、徐々にレベルアップして来ることは明らかです。
日本は、他国と連携を深めて中国への国際法順守を求めると同時に、B52は持てませんが、対中抑止力を強化せねばなりません。
中国の失政などと安心している場合ではないのです。
余談ですが、森本元防衛大臣があちこちで、中国が尖閣の領有権を主張するために、ADIZの設定をすることは予測していたと語っています。
前防衛相の森本敏・拓殖大特任教授は27日、BS日テレの「深層NEWS」に出演し、中国が尖閣諸島を含む東シナ海に防空識別圏を設定した問題に関し、「(中国の)軍人が英雄になろうと行動したらリスクは高い」と懸念を示した。その上で「防空識別圏をもっと(中国寄りに)引いて作り直すよう、日本がイニシアチブをとり国際社会で中国に働きかけることが重要だ」と述べた。
また、「(尖閣諸島の)領有権を主張するわけだから、防空識別圏の設定はあると予想していた」と語り、民主党政権の防衛相在任中に今回の事態を想定していたことを明らかにした。
予測していて、どんな対抗策を準備していたのでしょうか。その時は、評論家ではなく防衛大臣だったのですから。
B52の飛行を、上記の読売の記事では日本に連絡が無かったと報じていますが、日本には事前通報していたとの報道が多数です。
米当局、B52爆撃機による中国の防空識別圏進入を日本に事前通知 - WSJ.com
予知していたのなら、そうした日米の事前情報交換があり、B52の出動が用意されていたのなら日米同盟は盤石と言えるのですが。
従中の韓国でさえ自重したのに、JALや、ANAのフライングを許したのは、現政権にも責任があるにしろ、事前に知っていたと自慢たらしく話す資格はないでしょう。青山繁晴氏は、司令官クラスは知っていたが政府に伝わっていなかったと言っています。森本氏が止めていた犯人?政権交代時に引き継がれなかったのでしょうか。
中国の東シナ海防空識別圏設定は、日米安保条約への挑戦 - 遊爺雑記帳
# 冒頭の画像は、イラクの砂漠の嵐作戦で大量爆撃をするB52
この花の名前は、ギボウシ・ウィールウィンド
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中国軍人が英雄になろうとすると危険というのは、中国の戦争リスクと共に、事大主義を象徴するものだと思います。戦争を出世の機会と捉えているのでは尚危険だと思いますし、いずれにしても、中国は党の力が絶対ですが、中国の政治家が、日本は一撃を加えれば屈するだろう、という蔑視を持たれる事が最も危険でしょう。戦前日本と同質性の危険さだとすれば、自国の力量を過大評価する自尊心の強さにあると思います。
中国は、日本を屈服させる戦略を取って来ると思いますし、日本が、今までのチベット・ウイグルといった中国の植民地には無く、近代先進化には必須であるハイテク技術とソフトパワーを持っている事から、著作権問題で揺れる中国は、日本の領有権は喉が手から出るほどに欲しいのだと思います。第一列島線の最深部の沖縄が手に入るだけでも、日本の国防上の要、政治体制や市場が引っくり返される事になります。あり得ないシュミレーションですが、独自の文化を持つ沖縄には単に、海底資源などを想定した領土以外に価値がありますし、アジアへのシーレーンの要です。ですので、前線の尖閣諸島は譲れない一線です。
第一列島線という事ですが、前線の台湾や尖閣はともかく、沖縄、さらには九州までをも、現場の自衛隊などが把握しているとは思えません。真っ先に侵攻を想定する台湾と尖閣とは、侵攻想定の順番と立地が全く違うので。
中国版NSCによって、党と軍の距離が近づくというのは、危機的だと思います。軍人が、出世を考える余地が生まれる、という事だと思いますし、党が問題となっている汚職や権力の中枢に居る事に対して、軍部がクーデターなどの切り札を残している事は、逆転すれば、軍部が人民のための大義を得て、革命勢力の中心にすらなりかねません。中国軍部に、政界への進出を考えるような、人物が居ない事を願うばかりです。