yuuの夢物語

夢の数々をここに語り綴りたい

雪が降る (Yuki ga Furu)

2011-02-14 18:25:22 | 創作の小部屋
雪が降る (Yuki ga Furu)

麗老(11) 
妙子は昼間に雄吉の家に現れるようになった。「草餅が美味しそうだから買ってきた」「アイスクリームが食べたいから・・・」 妙子は土産をいつも買って来た。夕餉を作り一緒に食べることもあり、寿司やラーメンを食べに行くこともあった。 妙子が来る様になって部屋は綺麗になっていた。大人しそうに見えるが、よく笑い良く喋った。雄吉はその明るさに救われた。じめじめしとした性格だったら付き合って行けなかっただろう。リードするのは妙子だった。「苗床を手伝って欲しいの」「いいよ」「去年は一人でやった」「疲れたね」「ほっといたから収穫はあまりなかった」「でも、食べられるだけあったんだろう」「十分に」「稲は作ったことがないから・・・」「ここを引き払って私の所に来たら」 妙子は突然に言った。「ここに出入りしていると奥さんに焼き餅を焼かれるわ」「そんなことを気にしていたの」「するは・・・」 雄吉はこれも定めかという風に従うことにしたのだった。家は長男に譲ることにした。「親父大丈夫なの」「騙されてない」「歳が離れすぎていない」「捨てられて、泣くんじゃない」「はっきりとした方がいいよ、俺たちはどちらも賛成だから」「家は貰っておく」「弟には山をやって」 長男はさばさばと言い放ったのだった。「何もなくなった」 と、妙子に言った。「私だけの人になった」  妙子は笑った。 籾を蒔いて黒いビニールで覆いをした。「さてと、夕食を奢らなくては・・・行きましょう」 妙子がハンドルをとった。山間のレストランで食事をした。帰りに車は池の側にあるラブホテルに吸いこまれて行った。
麗老(12) 
雄吉は夢のような生活だと思った。人生に流されることも流れることもそれが定めなら甘んじて受けようという気持ちが沸いてきていた。今までは受け身の生活をしていたのだ、拘束と約束の中で生きていたと言うことだ。それに理性が・・・。少し考えを変え、少し道を違えば新しい生活が待っていたというのか・・・。変わらぬ日々のなか子供たちを育て仕事一筋の人生に何があったというのか・・・。それはそれなりに充実したものであったが。 雄吉は目の前が開け今の幸せを噛みしめていた。 妙子の家には簡素な山水の庭があって池に鯉が泳いでいた。「籾の芽が出た」「暖かい日が続いているから」 妙子はそう言って雄吉の側に座って庭石を眺めた。妙子の肌はしっとりとし前よりまして女らしくなっていた。「こうしているとまるで夫婦みたい」「ご近所から何か言われないかい」「言われたっていい」「勇気があるね」「もう、人の眼を気にして生きる事は辞めた」「だけど・・・」「さんざん言われた、男を引き込んでいるって・・・」「平気なの」「誰にも迷惑を掛けていないもの」「私のように年寄りでは・・・」「言わないで、私があなたを好きだと言うことだけでいい」「これからどうすれば・・・」「田植えを手伝って欲しい」「手伝うよ」「愛してくれなくていい・・・愛させて・・・」「こんな気持ち何十年ぶりだろう」「心臓に良くない」「落としていたものを見つけた気分だよ」「落としていたの」「ああ、探さなかった」「探せば良かったのに」「足下に落ちていたのに見つけようとしなかった」「私は探した、探す場所を間違えてた」「君に見つけて貰った」「今度は見つけてよ、迷子になったら・・・」「いいよ、必ず見つけるよ」 雄吉は妙子の肩を抱いた。 前向きに歩き続けなくてはならない、これから妙子探しの旅が始まるのだと思った。