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夢見るババアの雑談室

たまに読んだ本や観た映画やドラマの感想も入ります
ほぼ身辺雑記です

澤田ふじ子著「足引き寺閻魔帳」徳間文庫

2007-09-10 19:11:17 | 本と雑誌

澤田ふじ子著「足引き寺閻魔帳」徳間文庫
澤田ふじ子著「足引き寺閻魔帳」徳間文庫
足を引く
邪魔な相手を処分してもらう

やたら賢い雄の紀州犬っぽい豪

元武士で今は住職の宗徳 その親友で同心の蓮根左仲
後家で絵師のお琳
羅宇屋の与惣次

彼等が依頼を調べ確認し 恨みをはらすのだ

「地蔵寺の犬」騙され弄ばれて娘は自殺 大事な品を企みもって取り上げられ 男は 恨みをはらしてもらいたく―

「唐橋屋の賊」出先で夫が殺された後家は 商いより男に溺れ 娘の世話も人任せ
更に悪い企みの渦中にあるに気付いていなかった

「冬の刺客」羅宇屋の与惣次はお菰さんを狙う二人の武士に気付き 彼を助ける
打ち明けられた事情から 命を狙われた彼の代わりを 左仲がし 狙われる的になる
果たして刺客は襲ってきた

「比丘尼坂」島流しになった男の唯一の身内 妹のお高が 命を狙われた
左仲も宗徳も敵わぬ凄腕の武士の命を奪ったのは―

「吉凶の駕籠」犬の豪は妙な気配に男を尾行する
同業者の妬みから始まっていた

「通夜の客」宗徳は頼まれて行った通夜で 気掛かりな雰囲気に―出会い 調べると・・・

「閑吟の鐘」身投げした娘は身に覚えがないことで強請られて 破談になったのだ

その卑劣な手口に制裁が下される


長男の昼食 一部

2007-09-10 13:49:05 | 子供のこと身辺雑記

長男の昼食 一部
キャベツ ししとう 豚ミンチ炒めて味付けは回鍋肉ふうに
ラーメンとで簡単に
昨日 学園祭の片付けで日曜登校したから 今日は学校休みなのです

今夜のおかずは天麩羅を予定しています
茄子 竹輪 かき揚げ 唐揚げ
あとは思案中です


「菩薩」

2007-09-10 00:44:55 | 自作の小説

島に一つしかない寺の住職が亡くなり その住職の遺言で友人だった男の二男の僧に 住職になるバトンが回ってきた

「二男坊主です」という寒いギャグが決めセリフの 月秀 四十半ばでまだ独身の彼が島へ渡ったのは そんな理由からだった

何にも無い島
それが月秀の抱いた最初の印象だった

地理を覚えなければと とにかく歩くことにする
走ることを日課としているので 体力には自信があった

人家は浜辺より高い所に固まっているのだが ぽつんと一軒離れて飲み屋があった

赤提灯が昼の光の中では寂しげだ

僧でありながら だからこそと言うべきか 月秀は酒は嫌いではなかった
むしろ好きなほうである

何時から開けるのか この島の人間は坊主が飲み屋に行くことに抵抗を示さないだろうか

それにしても喉が渇いた 自動販売機でもないだろうか

もの欲しげに赤提灯の店を見ていると 白っぽい浴衣を着た女が出てきた
若くはなさそうだが 姿が良い

知らぬうちに男を誘うような色っぽさがあった

視線があい 女が軽く会釈する

それに勇気を得て 声を掛けてみた

「わたしは その先の寺に住職としてきた月秀と申す者ですが
飲み物を売る店をご存じないだろうか」

思案しながら女は 言葉を選ぶように 少しの間のあと口を開いた「24時間営業でないコンビニなら 入り江の反対側
ぐるりと海岸沿いに回っていけば着きます
学校も診療所も駐在さんも その近くですわ」 一旦言葉を切り「お茶で良ければ 」 店に戻りペットボトルのお茶を取り戻って来た

「どうぞ お持ち下さい
だけど これから 私みたいな売女に声をかけてはいけませんよ
ご住職に悪い噂が立ってしまいます」

それだけ言って浴衣の女は店に入り 今度は出てこなかった

店の名前は 何処にもない
赤提灯が出てなければ飲み屋だと 外からは判らないだろう

売女と自分で言ったが悪い女にも 月秀には見えないのであった

第一言葉遣いが あれはきちんとした教育を受けた人間のものだ―と月秀は不思議に思うのだ

飲み屋の女は 僅かな時間に月秀に強い印象を残した

狭い島ではあるが 月秀は毎日歩いた

少しずつ顔見知りもできてくる

ちらちらと{飲み屋の女}の情報も入ってきた

大抵は堅い仕事のちゃんとした奥さんの立場にある女性が なかばおためごかしに 嬉しげに 言いつけてきた
男達の場合は 何やら得意げな笑みで だらしない表情になる
だが 確かな話を聞いたのは 半世紀連れ添った女房に死なれた宿屋の主人が 葬儀が終わり泥酔した時のことだった

「女房は止めたんや そないな事したらあかんことや―そう言うた
けど儂は あの時 金が欲しかった」

続く言葉は懺悔であった

島は 遊びに行くところが少ない
はっきり言えば 自由に抱ける女を持つ男は少なく
きちんとした恋愛でなく夜這いをかける男は 狭い島の中の社会 厳しい罰が与えられた

男達は{抱ける女}に飢えていた

ある年の祭りの集まりで
「女がおらんとつまらんわい
ちゃんと抱ける女が
お前んがとこに 泊まる女で ええのは おらんがや」

「博打の分の肩代わりくらいしてやらあなよ」

その場は冗談と思えたが
「お前のとこの娘も なんや良い体つきになってきたがな」と 乱暴者の男がいやらしい目付きで笑いかけてきた時
追い詰められたような気持ちになった

台風で日頃はコースにない連絡船が身をよせ 乗客達を宿屋に預かることになった

中の一人が 身近な家族がないことを 女中達が話していた

宿の主人は 静かな場所が落ち着くだろうと 亡き父親が隠居生活していた離れに 女の部屋を移した

「そんな手頃な女がありゃ 離れに置いてやる
女の身に何が起きるか 儂は知らん」宿の主人は 前に そう言ってやった

女を移しておいて 魚を届けにきた男に 「離れのお客さんにも出させてもらうわ
上物じゃて」

嵐の夜 何が起きたのか
大勢の男達が離れに向かい
暫く体を壊し 医者にかかっていた女は 民家から離れた場所で暮らすようになった

女は 宿屋の亭主に恨み言一つ 言わなかった

宿屋の女房の方が気に病み 体を壊した

嵐の夜 雨戸け破り押しかけた男達
一人の女に群がり

島の共有財産のように押しかける男達

一人のものにしようと女を争う

女は人生を諦めたのだろうか

苦労していないせいか月秀は 女のことが 気になった

普通に会話したい―と願うようになる

「何故 島を出ていかないのです」月秀は問うた

店へ続く坂道の草むしりをしていた女は差し出されたペットボトルの水とタオルを受け取り
唐突な問いに 月秀を眺め 納得した表情になる

「お寺まで 参りましょう ここやと人目につきやすいでしょう」

後から行く―と飲み屋の女は言ったのだった

月秀は女から ひどく疲れる話を聞かされた 「私の身の上なんて たかがしれていますけど―」

女は死のうと思って旅を続けていたのだ
事故で夫と子供が死んだ
傷が癒え 一通りの葬儀が終わった女は 保険金は入り 暫くは働く必要はなく
生き続ける理由も見出だせず
ただ旅を続けるうち乗った船が嵐の為 この島の宿屋に

大きな音がした時 風で雨戸が飛んだのだと思った
土足のまま服を脱ぎながら入ってくる男達の群れ
何が目的か その表情を見れば判った

宿屋の主人が自分だけをここに入れた理由も
助けを呼んでも誰も来ないというわけだ

台風の中を女抱きたさに集まった男達
逃げようがないと判った女は ―勝手にすればいい

ひどく醒めた気分で思った

宿の寝間着の浴衣など無いも同じ
次から次に女に乗り勝手に果てていく

他の男が入った後 舐めた後すら気にならない男達

女は呆れ果てていた

嵐が遠ざかり 男達が去った後 覗いた宿の女将は 体を拭いてくれ 自分達の住居スペースに女を移し 医者を呼んでくれた

亭主のしでかしたことを言葉にはしなかったが
かなりな罪悪感を覚えていたようだった

その気遣いぶりが 気の毒で 女は頼んで別に家を借りた

条件は人家から離れていること

だが宿の女将は余程 心配だったのか 数日泊まり込んでくれた
ある夜などは 押しかけてきた男達を一喝していた
「それだけの数で よってたかって まだ医者にかかっている人を
死んでしまいますよ 」

「そやかて 今は抱ける女がいる
わしらは たまらんのや」

その夜 島の人間のしたことを 女将は土下座して謝った

「死のうと思った体が必要とされるなら かまいはしませんよ 」
女は答え

男達は女を抱きにくる時間と順番を決めたらしい

おかしいのは どの男も自分が一番 抱き方が巧みだろう
大きいだろうと 子供っぽくも拘り 褒められたがることだ

男が自分の中で動いている間 女はあとどのくらいで離れてくれろか頭の中で数を数えている
自分のモノを咥えてもらいたがる男もいたが それだけはしてやらなかった
「勃起(た)たないなら 女を抱きにくる必要ないでしょう
体は開いてあげてるけど 娼婦ではないわ
何か寄越そう 金なんて置いていったら 次から抱かれてあげないからね」
この脅しは効いた

そんな怠惰な汚れた暮らしも五年になる

女は そろそろ島を離れるつもりになっていた

「死のうという気持ちは逆に消え果てました
ただ 私が何考えていたか
お気になるようでしたので ―」

女は微笑み ふいっと出て行った

それから数日後 身一つで女は島からいなくなった

荷物は何も持っていかなかったらしい

月秀は結局 島に馴染めず 数年後 他の僧と入れ替わりに 島を出た

月秀は晩年 女と再会した

島を出て 死ぬことも男に抱かれることも辞めた女は―出家し尼になっていた

写経をし 絵を描き 寺の掃除をし 仏像を眺める

静かな日々の中に 女は平安を見出だしていた

月秀は終生 妻帯せず 理由を尋ねられると ただ静かに笑った

呆れられようと月秀も あの頃 女にひかれていた

男達に押さえ付けられる女の白い肌

妄想は眠れぬほどに 月秀を苦しめた

女が 自分の事を売女と言おうと 公衆便所と言い募ろうと
飢えた男達に体を開き続けた女は その身を与えることで 他の女達を守り 一人生き残ってしまった自分の生きる意味を捜していたのではないかと思う

恋であったのだと

女が平安を得たことを知った時 月秀の心もまた満たされた

女は月秀の心を知らない

幾度か言葉を交わしただけの女

その人が今は月秀と同じ世界に身をおく

縁の不思議さが月秀を微笑まさせるのだ