温室の2つのドアと、窓という窓に施錠してやった。
「ママ、どうして温室に鍵がかかってるの?」
「理由は2つある。1つ目は、何日か前から温室に暖房入れてるでしょ? あんた、灯油さわってるよね。火事になるよ。大やけどするよ。死ぬよ。それに設定温度を36度なんかにしたら、2日で灯油がなくなる。ひと月10万円以上の灯油代がかかるんだよ。そんなお金、うちには、ない。うちはあんたが思ってるよりずっと貧乏なんだよ。貯金ゼロのうちなんて今時どこにもないよ。借金で暮らしてるんだからね」
「……もう1つの理由は?」
「104計画」
「……104計画って、なに?」
「とぼけるんだね」
「え? だって、ほんとに知らないよ!」
「そうやって嘘ばかりついてると、ママはこの家からいなくなるからね。脅しじゃないよ、家出して二度と戻ってこないからね。あんたのズボンのポケットから104計画のメモが出てきたんだから、さ」
「え?なんのメモ?」
「あんたは、ここにメモとか蘭の鉢とか証拠をズラッと並べなきゃ、ほんとのことを言わないわけ? それって情けないよね? 悲しいよね? 嘘を吐かれると、どんどんどんどん悲しくなるんだよ」
そして……
息子は、彼の財布から1万円札を抜いたことと、
平塚の「相模洋蘭園」で合計8千円・4鉢の蘭を購入したことを白状した。
「温室の鍵はいつ開けてくれるの?」
「それは、あんたの様子を見て判断する。温室には鍵をかけなければならなくなった。財布は隠さなければならなくなった。あんたは信用を失くしたんだよ。信じてもらえないあんたも悲しいけど、あんたを信じられないママも悲しい……」
その後、夕食の席で……
「あぁあ……ぼくの自転車、もう帰ってこないのかなぁ……」
「自転車は盗まれたけど、あんたは1万円を盗んだ。同じことだよね? だれも見てないと思ったら大間違いだよ。自分は見てるし、神様だって見てるからね」
明日、「相模洋蘭園」に電話をして、息子が購入した洋蘭の正確な金額を確認する。
しばらく(おそらく3月、温室の暖房が必要なくなるまで)ランヤは休業、ランヤ本部長は停職です。