映画で楽しむ世界史

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アメリカで西部劇NO、1「捜索者」

2010-12-26 11:45:18 | 舞台はアメリカ

8月27日衛星映画劇場でジョンウエインの「捜索者」

 

 この映画、初期の西部劇(典型的には「駅馬車」)のように、野蛮なインディアン対正義感溢れるヒーロー、そして追いつ追われつの活劇といったものとは少し違う。

しかしアメリカ映画協会が映画生誕100周年を期して行なった人気映画ベスト100では、西部劇部門でナンバーワンに選ばれている。ストリーも勧善懲悪型ではなく、劇的要素もさほどのことの無い地味な映画なのだが、何故ランキングが高いのであろうか。

 

 この映画は冒頭に時代背景として「1868年」と出てくるが、当時の西部はどういう雰囲気だったのか。南北戦争が終わるのが1864年、この年にはサンドクリークの大虐殺(映画で言えば「ソウルジャーブルー」)、1868年にはカスター将軍の第七騎兵隊全滅事件(映画「カスター将軍」など)といった大事件があった。

 この頃になると政府当局や開拓者側、インディアン側もある程度双方に関する知識も積み重なり、何よりも経済的そして人的交流もかなりなものになっている。白人対先住民族の関係も、征服者対野蛮人といった単純なものではなく、第二、第三ラウンドに入りつつある。

しかしそうはいっても、長年に亘って醸成された敵対意識は容易には抜けない、いやむしろ憎悪が内訌していて小競合いは尽きない。南北戦争後の10年間に陸軍と先住民との衝突は200回にも及ぶという。(そしてアメリカ当局は1890年のサウスダゴタ「ウーンデッド・ニー 」でのスー族との戦いをもって先住民との戦いは目処がついたと発表する。)

 

そう見てくると、この映画の主人公ジョンウェインの言動にはなんともいえぬ時代遅れ、寂寥感が漂うことがわかる。彼に自身の家族がいないこともさることながら、ジェフリーハンター扮する彼の相棒はインディアンとの混血児であるし、彼が捜し求めるナタリーウッド扮する姪っ子はインディアアン部族に味方するまでになっているのだ。

 

 いずれにしても先ほどの西部劇ランキングは現代のアメリカ人の投票によるもので、これがもっと昔、違った時代の投票であれば全く違った結果になっているのではないかと思う。

 


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