人権思想とその実定化

2019-10-05 12:04:37 | 基本権

[近代自然権思想と社会契約論]

・現代の「人権(human rights,individual rights)」観念の直接的な起源は、17~18世紀の自然権(natural rights)思想に求められる。その代表的な論客であるロックは、「…自然状態はそれを支配する自然法をもち、すべての人間がそれに拘束される。そして、その自然法たる理性は、それに耳を傾けようとしさえすれば、全人類に対して、すべての人間は平等で独立しているのだから、何人も他人の生命、健康、自由あるいは所有物を侵害すべきではないということを教えるのである。」と説き、その根拠を「人間=造物主の作品=神の所有物」に求めた(→関連記事;ジョン・ロックの固有権イギリス17世紀政治史とホッブズとロック)。□見平148-9、尾形16

・ロックによれば、この自然権(固有権)を保全すべく、人々は国家の設立に合意する(社会契約論)。国家がこの目的に反する行動を取った場合、人々は国家に抵抗することが可能となる。□見平149-50、南野126-7

・以上の自然権的人権の出自からは、何人に対しても「人権侵害を止めよ」と主張することが許されよう。□南野130

 

[自然権的人権の実定化]

・自然権思想を初めて実定化したのは、1776年に起草された「ヴァージニア権利宣言」である(独立宣言の1か月前→関連記事;アメリカ合衆国の誕生)。ここでは「すべて人は生来ひとしく自由かつ独立しており、一定の生来の権利を有するものである。…かかる権利とは、すなわち財産を取得所有し、幸福と安寧とを追求獲得する手段を伴って、生命と自由とを享受する権利である。」と宣明された。□見平150-1

・つづく1789年には、フランス国民議会が「人および市民の権利宣言(フランス人権宣言)」を採択した。ここでは、「人の譲渡不能かつ神聖な自然権」「あらゆる政治的団結の目的は、人の消滅することのない自然権を保全すること」「自由・所有権・安全および圧政への抵抗」が宣言された(→関連記事;フランス革命の進路(1))。さらに、「人(homme)」と区別された「市民(citoyen)」の権利(参政権)も規定された。□見平151、初宿辻村280、樋口人権16-8

・「人権=人一般の権利」との定式化は、身分制から個人が解放され、単一の国民が国家と対峙したことを意味する。この文脈では、中間団体(結社)からの自由が強調されることになろう。現に、フランス人権宣言(1789)やアメリカ合衆国憲法修正10か条(1791)には「結社の自由」が書き込まれていない。□樋口憲法152-7、長谷部3

 

[自然権思想の衰退]

・アメリカ合衆国やフランスに習って「人権の実定化」が進むのに反比例して、自然権的人権の概念は衰退していく。その背景には、法実証主義や保守主義の高まりがあった。□見平151

 

[「人権」から「憲法上の権利」へ]

・全方位に主張しうる自然権的人権は、憲法典に取り込まれることで「対国家的」との限定を付されることになった。すなわち、「国家による人権侵害は憲法問題/私人による人権侵害は法律問題」と区分けされることになる。□南野132

・さらに、憲法典には、「狭義の人権(=前国家的な自由権)」のみならず、「参政権」や「社会権」も取り込まれるようになった。この意味で「憲法問題=憲法上の権利(constitutional rights)=人権+α」となった。□南野133-4、長谷部2

 

樋口陽一『一語の辞典 人権』[1996]

樋口陽一『憲法〔第3版〕』[2007]

南野森「人権の概念-憲法・憲法学と「人権」」南野森編『憲法学の世界』[2013]

見平典「人権の観念」曽我部真裕・見平典『古典で読む憲法』[2016]

尾形健「人権」大林啓吾・見平典『憲法用語の源泉を読む』[2016]

初宿正典・辻村みよ子『新解説世界憲法集〔第4版〕』[2017]

長谷部恭男「前注(第10条~第40条)」長谷部編『注釈日本国憲法(2)』[2017]

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