2023-07-25修正追記。条文を最新に改め、文献を追加した。
[所有者による自動車の登録]
・軽自動車等を除いた「自動車」一般につき、運行の用に供する前提として「自動車登録ファイルへの登録」が義務づけられている(道路運送車両法4条)。さらに、後述の「自動車の検査を受けること」と「有効な自動車検査証の交付を受けること」も必須である(道路運送車両法58条1項)。
・この登録を申請すべき主体は当該自動車の所有者である(道路運送車両法7条1項など)。登録には、新規登録(現所有者の申請:道路運送車両法7~11条)、変更登録(現所有者の申請:道路運送車両法12条,14条)、移転登録(新所有者の申請:道路運送車両法13条,14条)、永久抹消登録(現所有者の申請:道路運送車両法15条)、輸出抹消登録(現所有者の申請:道路運送車両法15条の2)、一時抹消登録(現所有者の申請:道路運送車両法16条)、などがある。□山崎51
・登録を受けた「登録自動車」の所有権の得喪は、引渡し(民法178条)ではなく「自動車登録ファイルへの登録」によって公示される(道路運送車両法5条)。
・登録申請にあたっては、(1)登録原因証明書面(自動車登録令14条1項1号)としての完成検査終了証(道路運送車両施行規則36条7項1号)や譲渡証明書(道路運送車両法33条、同論運送車両法施行規則64条、同21号様式)、(2)申請人の印鑑証明書(自動車登録令16条1項 ※作成後3か月以内を要す:同3項)、(3)使用者の住民票(道路運送車両法施行規則36条1項柱書など)、を添付しなければならない。□検討会資料8
・不動産登記にならい、登録を申請した(新)所有者のうちで希望者には「登録識別情報」が通知される(道路運送車両法18条の2第1項)。
[使用者による登録自動車の検査等]
・道路運送車両法は、無定義で「使用者」なる用語を用い(例として道路運送車両法47条)、登録自動車に「所有者ではない使用者」が関与する余地を認めている。使用者の意義は「正当な使用権限に基づき、自動車を実際に継続的に管理し、使用している者」とされる(※)。□自動車局229
※道路運送車両法は、主として点検整備を負う主体として「運行する者」という用語も使う(41条2項、47条の2第2項、57条柱書)。事業用バスを例に取れば、バス会社が使用者(所有者)、運転者が運行する者となる。□自動車局229
・自動車を運転の用に供するためには検査(いわゆる車検)を受けている必要がある(道路運送車両法58条1項)。この検査を要求される主体は使用者であり(道路運送車両法59条1項など)、その種類には新規検査(道路運送車両法59~59条)、継続検査(道路運送車両法62条)、臨時検査(道路運送車両法63~64条)がある。□山崎54
・自動車検査の際に、自賠責保険証明書の提示(自動車損害賠償保障法9条1項)、自動車重量税の納付の確認(道路運送車両法97条の4第1項)、自動車税種別割の納付の確認(道路運送車両法97条の2第1項)、が各々要求される。□山崎55
・なお、継続検査とは別に、自動車の「使用者」には一定期間毎(3月~1年)の定期点検整備(いわゆる法定点検)が課せられている(道路運送車両法48条)。法定点検の懈怠自体に罰則はないが、整備不良車両の運転には罰則がある(道路交通法119条1項5号、同62条)。□カーリース86
[自動車検査証の意義]
・自動車検査証の交付を受けていることは自動車使用の必要条件であり(既述)、かつ、自動車には自動車検査証を備え付けなければならない(道路運送車両法66条1項)。
・自動車検査証の有効期間は、「初の交付か否か/自動車の種類は何か」により1~3年と定められている(道路運送車両法61条1項2項3項)。
・自動車検査証には、使用者の氏名等が記載されるところ(道路運送車両法58条2項、道路運送車両法施行規則35条の3)、2008年11月4日施行の登録識別情報制度の開始により、次のとおり様式が変更された。
[Aタイプ]旧来と同じ様式であり、使用者欄と所有者欄がそれぞれ設けられる。使用者と所有者が同一の場合や、所有者が登録識別情報の通知を希望しなかった場合(道路運送車両法18条の2第1項ただし書、道路運送車両法施行規則35条の3第1項4号)。
[Bタイプ]所有者欄が廃止され、使用者の氏名と住所のみが記載される。所有者情報は、備考欄に記載される。使用者と所有者が異なり、かつ、所有者が登録識別情報の通知を希望した場合。Bタイプを新設した狙いは、使用者に関与させることなく所有者のみの移転登録を実現させるため。
[軽自動車の相違点]
・軽自動車には「公示としての登録」という概念がない。そのため、他の動産と同じく所有権移転の対抗要件は引渡し(民法178条)である。
・他方、軽自動車にあっても、「自動車の検査を受けること」と「有効な自動車検査証の交付を受けること」は要求される(道路運送車両法58条1項)。この検査の記録は、「軽自動車検査ファイル」「二輪自動車検査ファイル」に記録される(道路運送車両法72条1項)。□軽自動車検査協会ウェブサイト
・対抗要件としての登録がなされない以上、法定手続を義務付けられる者は「検査を申請する使用者」のみである。そのため、自動車検査証の所有者欄には使用者による届出がそのまま記載され(所有者欄の押印は認印でOK)、何らの裏付けも伴わない。□検討会資料8
[「公証」としての自動車登録?]
・自動車の登録については、厳正な手続を背景として、「自動車検査証上の所有者=真の所有者」との事実上の推定ができる。□自動車局84-5
・他方で、軽自動車には登録制度がない。上述の「自動車検査証の所有者欄には、使用者の届出がそのまま記載される」という運用を前提にすれば「軽自動車上の所有者名義」の権利推定の力は相当に劣るというべきであろう(たぶん)。□自動車局366
[公租公課等の負担]
・所有者と使用者には「自動車への強制保険加入と納税」が要求され、確実に実施させるために有効な車検を受けることと連動させている。
[1]運行の用に供する自動車には、自賠責保険の付保が要求される(自動車損害賠償保障法5条)。
[2]車検証の交付を求める者は、自動車重量税の納税義務を負う(自動車重量税法4条1項)。
[3]自動車の所有者には原則として自動車税種別割が課税され(地方税法146条1項)、その例外として所有権留保売買の場合は留保買主に課税される(地方税法147条1項)。□愛知県ウェブサイト
[人身事故と運行供用者責任]
・所有使用と運行供用者責任:ある者を加害者として運行供用者責任(自動車損害賠償保障法3条本文)を追及したい被害者は、請求原因事実として「当該人物が加害自動車の所有権や使用権を有すること(※)」を主張立証すればよい(抽象説=抗弁説)。名指しされた所有者や使用者は、抗弁として「運行の時点で運行支配及び運行利益を失っていたこと(譲渡、盗難など)」を主張立証することになる。□LP46-7
※所有者又は使用者のうち、さらに運行供用者である者が「保有者」と定義される(自動車損害賠償保障法2条3項)。被害者が16条請求できるのは「自賠法3条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したとき」に限られるので(16条1項)、無権限者(窃盗犯など)が加害者となる場合は16条請求がワークしない(政府保障事業に依るしかない)。□LP42-3
・被用者や親族の無断運転:所有者使用者は原則有責。□LP48-9
・窃盗犯の無断運転:所有者使用者の責任はケースバイケース。「黙示的容認といえるか否か」が一応の基準となるか。□LP49
・使用借主の運転:所有者使用者は原則有責。□LP49-50
・顧客の運転:レンタカー業者は原則有責。□LP50
・割賦売買買主の運転:割賦売買売主(留保所有権者)は原則無責。□LP50
・ユーザー(レッシー)の運転:リース会社(レッサー)は原則無責。□LP50
[無登録、無検査、無保険に対する罰則]
・無登録自動車の運行:名宛人は「道路運送車両法4条の規定に違反した者」であり(道路運送車両法108条1号)、同条によれば「違反者=運行の用に供したもの」となろう(たぶん)。両罰規定により法人も処罰される(道路運送車両法111条2号)。□加藤457
・無検査自動車の運行(いわゆる車検切れ):名宛人は「道路運送車両法58条1項の規定に違反した者」であり(道路運送車両法108条1号)、同条によれば「違反者=運行の用に供したもの」となろう(たぶん)。両罰規定により法人も処罰される(道路運送車両法111条2号)。なお、工場内作業車のように「一般交通の用に供する場所」以外の場所のみで使用される自動車には、検査は要求されない(※登録は?)。□加藤458、自動車局275
・無保険自動車の運行:名宛人は「自賠法5条の規定に違反する行為をした者」であり(自動車損害賠償保障法86条の3第1項1号)、同条によれば「違反者=運行の用に供したもの」となろう(たぶん)。車検切れであれば、無保険にもなることが通常だろう。□加藤458-9
[オートクレジットの所有者と使用者]
・信用購入あっせん:ディーラー(売主)に代わって、メーカー系ファイナンス会社がユーザー(買主)に割賦金融を提供するもの(※1)(後述の「ローン提携販売」と異なり、ディーラーには連帯保証をしなくてよいというメリットがある)。自動車を購入したユーザーは自動車検査証の「使用者」となり、ディーラーに自動車の所有権が留保され(自動車検査証の「所有者」)、ファイナンス会社からディーラーに代金が交付された時点で留保所有権がファイナンス会社に移転する約定がなされる(※2)。□大垣113-5,128-9、大澤197-8、山本敬383ー4
※1:個別の売買契約について立替払契約が締結される場合と、あらかじめファイナンス会社からクレジットカードが交付される場合がある。前者はより規制が強い。
※2:従前の管財実務では、約定の留保所有権の移転後も自動車登録上の所有者がディーラーのままとされている場合に、ファイナンス会社が留保所有権を別除権として行使できるかが問題となった。最二判平成22年6月4日民集64巻4号1107頁は立替払方式の事案で別除権行使を否定し、最一判平成29年12月7日民集71巻10号1925頁は保証委託方式(←平成22年以降のトレンドか)の事案で別除権行使を肯定した。□堀内335-7、江頭138
・ローン提携販売:ディーラーと提携した金融機関がユーザーに貸付けをし、ディーラー(or保証会社)がこの貸付金への連帯保証をするもの。所有権留保がされずに、いきなりユーザーが「所有者」となる例が多いか(たぶん)。□大垣107-9、大澤197、山本敬383
・自社割賦:売主であるディーラーと買主であるユーザーとの間で、売買代金の支払を後履行かつ分割とするもの(あくまで売買契約の形式)。現在では自動車を自社割賦で販売する例は少ないが、仮に利用される場合は、ディーラーが「所有者」として所有権を留保し、ユーザーは「使用者」となろう(たぶん)。□大垣102-3
[オートリースの所有者と使用者]→《ファイナンス・リースの法的意義》
・「使用者」であるユーザーが、法定期間毎に、定期点検整備、継続検査、自賠責保険の更新、自動車税種別割の納税を行う義務を負う。□カーリース85-7
・リース会社の維持管理の関与の有無により、「メンテナンスリース/ファイナンスリース」と区分できる。前者の方式では、ユーザーに代行してリース会社が車検の手続を行うことになる。□有吉原田86-7、カーリース139
山崎真紀「道路運送車両法について」リース研究第1号49頁[2005]
山本敬三『民法講義4ー1契約』[2005]
自動車登録のあり方に関する検討会(国土交通省)「第1回検討会資料」[2010]
大垣尚司『金融から学ぶ民事法入門』[2012]
佐久間邦夫・八木一洋『交通損害関係訴訟〔補訂版〕』[2013]
江頭憲治郎『商取引法〔第8版〕』[2018]
堀内有子「判批」ジュリスト編集室編『最高裁 時の判例9(平成27年~平成29年)』[2019]
有吉尚哉・原田伸彦編著『リース法務ハンドブック』[2020] ※2023-07-25追記
加藤俊治編著『警察官のための充実・犯罪事実記載例ー特別法犯ー〔第5版〕』[2021] ※2023-07-25追記
一般社団法人日本自動車リース協会連合会編『改訂カーリースQ&A〔第12版〕』[2021] ※2023-07-25追記
大澤彩『消費者法』[2023] ※2023-07-25追記
国土交通省自動車局監修『改訂版 道路運送車両法の解説〔第2版〕』[2023] ※2023-07-25追記