弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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退職勧奨しても退職しない。

2012-10-03 | 日記
Q34 退職勧奨しても退職しない。

 退職勧奨の法的性格は,通常は,使用者が労働者に対し合意退職の申込みを促す行為(申込みの誘引)と評価することができます。
 労働者が退職勧奨に応じて退職を申し込み,使用者が労働者の退職を承諾した時点で退職の合意が成立することになります。

 退職勧奨を行うにあたっては,担当者の選定が極めて重要となります。
 退職勧奨が紛争の契機となることが多いこともあり,相手の気持ちを理解する能力を持っている,コミュニケーション能力の高い社員が退職勧奨を担当する必要があります。
 退職勧奨を受ける社員と仲の悪い上司が退職勧奨を行うとトラブルが多いので,できるだけ避けることが望ましいところです。
 同じようなケースであっても,退職勧奨の担当者が誰かにより,紛争が全く起きなかったり,紛争が多発したりします。

 解雇の要件を充たしていなくても退職勧奨を行うことができますが,有効に解雇できる可能性が高い事案であればあるほど,退職勧奨に応じてもらえる可能性が高くなります。
 退職勧奨に先立ち,問題点を記録に残し,十分な注意,指導,教育を行い,懲戒処分を積み重ねるなどして,解雇する際と同じような準備をしておく必要があります。

 退職勧奨のやり取りは,無断録音されていることが多く,録音記録が訴訟で証拠として提出された場合は,証拠として認められてしまいます。
 退職勧奨を行う場合は,感情的にならないよう普段以上に心掛け,無断録音されていても不都合がないようにして下さい。

 「事業主から退職するよう勧奨を受けたこと。」(雇用保険法施行規則36条9号)は,「特定受給資格者」(雇用保険法23条1項)に該当するため(雇用保険法23条2項2号),退職勧奨による退職は会社都合の解雇等の場合と同様の扱いとなり,労働者が失業手当を受給する上で不利益を受けることにはなりません。
 失業手当の受給条件を良くするために解雇する必要はありません。
 退職届を出してしまうと失業手当の受給条件が不利になると誤解されていることがありますので,丁寧に説明し,誤解を解くよう努力して下さい。
 なお,助成金との関係でも,会社都合の解雇をしたのと同様の取り扱いとなることには注意して下さい。

 退職届等の客観的証拠がないと,口頭での合意退職が成立したと会社が主張しても認められず,解雇したと認定されたり,職場復帰の受入れを余儀なくされたりすることがあります。
 退職の申出があった場合は漫然と放置せず,退職届を提出させて証拠を残しておいて下さい。
 印鑑を持ち合わせていない場合は,差し当たり,署名したものを提出させれば足ります。
 押印は,後から印鑑を持参させて面前でさせれば十分です。

 退職勧奨を受けた労働者が退職届を提出して合意退職を申し込んだとしても,社員の退職に関する決裁権限のある人事部長や経営者が退職を承諾するまでの間は退職の合意が成立しておらず,労働者は信義則に反するような特段の事情がない限り合意退職の申込みを撤回することができます。
 退職勧奨に応じた労働者から退職届の提出があったら,退職を承認する権限のある上司が速やかに退職承認通知書を作成して当該労働者に交付して下さい。
 退職承認通知書は事前に写しを取って保管しておくとよいでしょう。

 後日,錯誤(民法95条),強迫(民法96条)等を理由として,合意退職の効力が争われることがありますが,退職届が提出されていれば,合意退職の効力が否定されるケースはそれほど多くはありません。
 錯誤,強迫の主張が認められ,退職の効力が否定される典型的事例は,「このままだと懲戒解雇は避けられず,懲戒解雇だと退職金は出ない。ただ,退職届を提出するのであれば,温情で受理し,退職金も支給する。」等と社員に告知して退職届を提出させたところ,実際には懲戒解雇できる事案であることを主張立証できなかったケースです。
 退職勧奨するにあたり,「懲戒解雇」という言葉は使うべきではありません。
 同様の話は,普通解雇についても当てはまります。

 退職勧奨を行うことは,不当労働行為に該当する場合や,不当な差別に該当する場合などを除き,労働者の任意の意思を尊重し,社会通念上相当と認められる範囲内で行われる限りにおいて違法性を有するものではありませんが,その説得のための手段,方法がその範囲を逸脱するような場合には違法性を有し,使用者は当該労働者に対し,不法行為等に基づく損害賠償義務を負うことになります。

弁護士 藤田 進太郎

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精神疾患を発症したのは長時間労働や上司のパワハラ・セクハラのせいだと主張して損害賠償請求してくる。

2012-10-03 | 日記
Q33 精神疾患を発症したのは長時間労働や上司のパワハラ・セクハラのせいだと主張して損害賠償請求してくる。

 長時間労働や上司のパワハラ・セクハラが原因となって労働者が精神疾患を発症した場合,使用者は安全配慮義務違反(労契法5条,民法415条)又は使用者責任(民法715条)を問われ,損害賠償義務を負うことがあります。
 過去の裁判例,心理的負荷による精神障害の労災請求事案において労業務上外を判断する際に用いられる「心理的負荷による精神障害の認定基準(平成23年12月26日基発1226第1号)」(認定基準)等を参考にして,損害賠償義務の有無,賠償額等について検討することになります。

 認定基準は,心理的負荷による精神障害の労災請求事案について,行政機関が業務上外の判断に用いる内部基準に過ぎず,裁判所を拘束するものではないし,労災認定における相当因果関係や安全配慮義務違反等を理由とした民事損害賠償請求における相当因果関係と同じものではありません。
 しかし,認定基準は,最新の臨床経験上の知見を踏まえて作成されたものであり,労災認定における相当因果関係や安全配慮義務違反等を理由とした民事損害賠償請求における相当因果関係の判断に当たり,認定基準を参考にすることには合理性があるものと考えられます。
 訴訟や労働審判になっていない場合は,労災申請を促して労基署の判断を仰ぎ,審査の結果,労災として認められれば労災として扱い,労災として認められなければ私傷病として扱うこととすれば足りることが多いのではないでしょうか。

 労災保険給付がなされた場合,使用者は,同一の事由については,その価額の限度において民法の損害賠償の責を免れることになりますが(労基法84条2項類推),労災保険給付は,慰謝料は対象としておらず,休業損害や逸失利益の全額を補償するものではないため,労災保険給付がなされている場合であっても,使用者は,労働者から,慰謝料,休業損害や逸失利益で補償されなかった金額について,損害賠償義務を負担する可能性があります。
 精神疾患の発症が労災として認められた場合,業務と疾病等との間に法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係(相当因果関係)が認められたことになります。
 業務と疾病等との間に法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係(相当因果関係)があるにもかかわらず,民事損害賠償請求における相当因果関係,結果の予見可能性・回避可能性がない事例や,使用者が結果を回避しないことが違法と評価できないような事例は,それほど多くはありません。
 業務起因性が肯定されて労災保険給付が行われた場合は,使用者は民事損害賠償請求においても,安全配慮義務違反や使用者責任を問われて損害賠償義務を負う可能性が高いというのが実情です。

 電通事件最高裁第二小法廷平成12年3月24日判決は,「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして,疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると,労働者の心身の健康を損なう危険のあることは,周知のところである。」としており,長時間労働により疲労や心理的負荷等が過度に蓄積した場合において労働者の心身の健康を損なうことを通常損害と捉えていると考えられます。
 とすると,長時間労働により疲労や心理的負荷等が過度に蓄積した事実が認められれば,通常は労働者の心身の健康を損なうことの一態様であるうつ病等の精神疾患発症との間に相当因果関係が認められることになる可能性が高いものと思われます。

 認定基準では,長時間労働との関係では,
① 発病日直前の1か月におおむね160時間を超えるような,またはこれに満たない期間にこれと同程度の(例えば3週間におおむね120時間以上の)時間外労働(週40時間を超える労働時間数)を行った場合(休憩時間は少ないが手待ち時間が多い場合等,労働密度が特に低い場合を除く。)
② 発病直前の連続した2か月間に,1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行い,その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった場合
③ 発病直前の連続した3か月間に,1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行い,その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった場合
④ 具体的出来事の心理的負荷の強度が労働時間を加味せずに「中」程度と評価される場合であって,出来事の後に恒常的な長時間労働(月100時間程度となる時間外労働)が認められる場合
⑤ 具体的出来事の心理的負荷の強度が労働時間を加味せずに「中」程度と評価される場合であって,出来事の前に恒常的な長時間労働(月100時間程度となる時間外労働)が認められ,出来事後すぐに(出来事後おおむね10日以内に)発病に至っている場合,又は,出来事後すぐに発病には至っていないが事後対応に多大な労力を費しその後発病した場合
⑥ 具体的出来事の心理的負荷の強度が,労働時間を加味せずに「弱」程度と評価される場合であって,出来事の前及び後にそれぞれ恒常的な長時間労働(月100時間程度となる時間外労働)が認められる場合
等が客観的に対象疾病を発病させるおそれのある強い心理的負荷であるとされています。

 男女雇用機会均等法11条は,第1項において,「事業主は,職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け,又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう,当該労働者からの相談に応じ,適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と定め,第2項において,「厚生労働大臣は,前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して,その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。」と定めています。
 第2項を受けて定められた指針が,「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)」(セクハラ指針)です。
 セクハラ指針は,行政指導の根拠規定であって,直ちに安全配慮義務違反の有無を判断する際の基準となるわけではありませんが,使用者にはセクハラ指針が定める措置を講じる義務がありますし,その内容にも合理性が認められますので,安全配慮義務違反の有無を判断する際にも参考にされるものと考えられます。

 認定基準では,セクハラとの関係では,
① 強姦や,本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクシュアルハラスメントを受けた場合
② 胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラスメントであって,継続して行われた場合
③ 胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラスメントであって,行為は継続していないが,会社に相談しても適切な対応がなく,改善されなかった又は会社への相談等の後に職場の人間関係が悪化した場合
④ 身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハラスメントであって,発言の中に人格を否定するようなものを含み,かつ継続してなされた場合
⑤ 身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハラスメントであって,性的な発言が継続してなされ,かつ会社がセクシュアルハラスメントがあると把握していても適切な対応がなく,改善がなされなかった場合
等が客観的に対象疾病を発病させるおそれのある強い心理的負荷であるとされています。

 認定基準では,「② いじめやセクシュアルハラスメントのように,出来事が繰り返されるものについては,発病の6か月よりも前にそれが開始されている場合でも,発病前6か月以内の期間にも継続しているときは,開始時からのすべての行為を評価の対象とすること。」とされています。
 また,認定基準では,以下のような留意事項が定められています。
① セクシュアルハラスメントを受けた者(以下「被害者」という。)は,勤務を継続したいとか,セクシュアルハラスメントを行った者(以下「行為者」という。)からのセクシュアルハラスメントの被害をできるだけ軽くしたいとの心理などから,やむを得ず行為者に迎合するようなメール等を送ることや,行為者の誘いを受け入れることがあるが,これらの事実がセクシュアルハラスメントを受けたことを単純に否定する理由にはならないこと。
② 被害者は,被害を受けてからすぐに相談行動をとらないことがあるが,この事実が心理的負荷が弱いと単純に判断する理由にはならないこと。
③ 被害者は,医療機関でもセクシュアルハラスメントを受けたということをすぐに話せないこともあるが,初診時にセクシュアルハラスメントの事実を申し立てていないことが心理的負荷が弱いと単純に判断する理由にはならないこと。
④ 行為者が上司であり被害者が部下である場合,行為者が正規職員であり被害者が非正規労働者である場合等,行為者が雇用関係上被害者に対して優越的な立場にある事実は心理的負荷を強める要素となり得ること。

 違法なパワハラに該当するかどうかは,行為のなされた状況,行為者の意図・目的,行為の態様,侵害された権利・利益の内容,程度,行為者の職務上の地位,権限,両者のそれまでの関係,反復・継続性の有無,程度等の要素を総合考慮し,社会通念上,許容される範囲を超えているかどうかにより判断されることになります。
 平均的な心理的耐性を有する者に心理的負荷を過度に蓄積させると客観的に評価されるような行為は,原則として違法となります。
 ただし,その行為が合理的理由に基づいて,一般的に妥当な方法と程度で行われた場合には,正当な職務行為として違法性が阻却される場合があります。

 認定基準は,パワハラとの関係では,
① 部下に対する上司の言動が,業務指導の範囲を逸脱しており,その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ,かつ,これが執拗に行われた場合
② 同僚等による多人数が結託しての人格や人間性を否定するような言動が執拗に行われた場合
③ 業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が上司との間に生じ,その後の業務に大きな支障を来した場合
④ 業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が多数の同僚との間に生じ,その後の業務に大きな支障を来した場合
⑤ 業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が多数の部下との間に生じ,その後の業務に大きな支障を来した場合
等が客観的に対象疾病を発病させるおそれのある強い心理的負荷であるとされています。

弁護士 藤田 進太郎

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管理職なのに部下を管理できない。

2012-10-03 | 日記
Q32 管理職なのに部下を管理できない。

 まずは,自分で仕事をこなす能力と,部下を管理する能力は,別の能力であることをよく理解した上で,人員の配置を行うことが重要です。
 自分で仕事をこなす能力が高い社員であっても,部下を管理する能力は低いということは,珍しくありません。

 部下を管理できない理由が,単なる経験不足によるものである場合は,部下の管理方法について指導しながら経験を積ませたり,研修を受けさせたりして教育することにより,管理職としての育成を図れば足ります。
 当該社員が管理職としての適性がないことが原因で部下を管理できない場合は,当該社員の能力でも対応できるレベルの管理職に降格させるか,管理職から外して対応するのが原則となります。

 人事権の行使としての降格処分は,就業規則等の根拠規定がなくても会社の裁量的判断により行うことができるのが原則です。
 ただし,その裁量も無限定のものではなく,相当な理由がないのに労働者に大きな不利益を課したような場合には,人事権の濫用により無効と判断されることがあります。

 賃金減額を伴う降格処分も行うことができますが,賃金の減額を伴う場合は,降格の効力を争われるリスクが比較的高くなります。
 賃金減額の程度は,人事権の濫用の有無を判断する際に考慮され,賃金減額の程度が大きい場合は人事権の濫用と判断されやすくなります。
 降格を行う必要性と賃金減額の相当性について,説明できるようにしておく必要があります。
 可能であれば,賃金減額を伴う降格に同意する旨の書面を取ってから降格させることが望ましいところです。

 新卒採用されて管理職に昇格した社員や,地位を特定しないで中途採用された社員については,部下を管理する能力に欠けていたとしても,平社員として最低限の勤務をする能力がない場合でない限り,解雇することはできません。
 初めから地位を特定して管理職として中途採用した社員については降格が予定されていないため,本人の同意を得ずに降格処分を行うことはできません。
 地位特定者については,原則として,降格ではなく解雇を検討することになります。

 部下に問題があるために上司が部下を管理できていない場合は,上司に任せきりにせず,組織として対応することが何よりも重要です。
 問題行動が多い部下がいることを役員等が知りながら,本腰で対策を練らずにそのまま放置した結果,問題をこじらせるケースが多くなっています。
 問題から逃げずに正面から向き合い,組織として対応すれば,余程難易度の高い事案でない限り,問題は解決に向かうという印象です。

弁護士 藤田 進太郎

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ソーシャルメディアに社内情報を書き込む。

2012-10-03 | 日記
Q31 ソーシャルメディアに社内情報を書き込む。

 ソーシャルメディアへの不適切な社内情報の書き込みを防止するための事前対応としては,ソーシャルメディアの利用に関するガイドラインを作成し,ガイドラインの遵守義務を就業規則で定めて周知させ,繰り返しガイドライン遵守の重要性を伝えること等が考えられます。

 就業時間内は,社員は職務専念義務を負っているため,書き込みの内容にかかわらず,就業時間内にソーシャルメディアへの書き込みを行わないよう命じることができます。
 また,社員は企業秩序遵守義務を負っているため,書き込みの内容にかかわらず,会社が所有し,社員に貸与しているパソコン等の通信機器を利用してソーシャルメディアへの書き込みを行わないよう命じることもできます。

 ソーシャルメディアに不適切と思われる社内情報の書き込みがなされていることが発見された場合,その画面をプリントアウトしたりPDFに保存したりして,証拠を確保する必要があります。
 証拠を確保していない状態で書き込み内容を削除されると,事実関係の確定が困難になることがあります。

 ソーシャルメディアに書き込まれた社内情報の内容を検討し,ソーシャルメディアに対する当該書き込みの当否について検討します。
 会社にとって好ましくない内容の書き込みであれば,本人と話し合って削除させることになります。
 当該書き込みが,単に会社にとって好ましくないという程度にとどまらず,会社の名誉信用等を毀損したり,顧客のプライバシーを侵害したりするようなものである場合には,単に書き込みを削除させるだけでは足りず,十分な事実調査をした上,懲戒処分等の対応を検討せざるを得ません。

 事実関係の調査としては,本人からの事情聴取が中心となります。
 当該社員が書き込みを行ったということで間違いがないか,動機・目的,社内情報の取得経路,それ以外の社内情報の書き込みの有無等を聴取して書面にまとめます。
 聴取書は,当該社員に内容を確認させてから,その内容に間違いない旨記載させます。
 本人に事情説明書・始末書等を作成させて提出させるという方法も考えられますが,重要な事実関係の確認については,十分な事情聴取を行い,漏れがないようにしておく必要があります。
 書き込みを行った社員が作成・提出した事情説明書・始末書等の内容が不合理・不十分だったとしても,突き返して書き直させたりせずに,受領して会社で保管して下さい。
 事実関係の解明に役立つこともありますし,本人が不合理な弁解をしている証拠にもなります。
 不合理・不十分な点については,別途,追加説明を求めれば足ります。

 書き込み内容がインターネット上で拡散したり,ニュース報道されたりして会社に対する批判が高まった場合は,会社として謝罪を検討します。
 謝罪内容としては,社員教育を徹底し,再発防止に全力を尽くすこと等を約束することが多いです。

 書き込み内容の悪質性の程度に応じて,懲戒処分を検討します。
 労契法15条では「使用者が労働者を懲戒することができる場合において,当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。」と定められており,懲戒事由に該当する場合であっても,懲戒処分が有効となるとは限らないことに注意が必要です。
 軽度の懲戒処分であれば使用者の裁量の幅が広く,有効と判断されるケースが多いし,訴訟等で争われるリスクも低いです。
 他方,退職の効果を伴う懲戒解雇・諭旨解雇・諭旨退職等の処分については,訴訟等で争われるリスクが高く,無効と判断されるリスクを慎重に検討する必要があります。

 ソーシャルメディアへの書き込みにより会社が損害を被った場合は,書き込みを行った社員やその身元保証人に対し,損害賠償請求をすることも考えられますが,余程悪質な事案でない限り,思ったほどの賠償金を取得できないことが多いことが予想されます。
 また,損害の性質上,損害額の立証が困難なことが多いです。
 裁判所は,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定することができる(民訴法248条)ため,損害額の立証ができない場合であっても,損害が生じていることさえ立証することができれば,相当な損害額は認定してもらえますが,思ったほどの金額にならないことが多いものと思われます。
 労働契約の不履行について違約金を定め,損害賠償額を予定する契約をすることは禁止されているため(労基法16条),社員がソーシャルメディアへの書き込みをした場合に賠償すべき損害額を予め定めても無効となります。

 営業秘密がソーシャルメディアに書き込まれた場合は,不正競争防止法に基づき,差止めや損害賠償請求をすることも考えられますが,同法の保護が及ぶ「営業秘密」とは,「秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないもの」をいい,
① 秘密管理性
② 有用性
③ 非公知性
の要件を満たす必要があります(不正競争防止法2条6項)。
 実際の事案では,①秘密管理性の有無が問題となることが多いです。
 不正競争防止法にいう営業秘密の要件としての秘密管理性が認められるためには,①当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていることや,②当該情報にアクセスできる者が制限されていることが必要であるとか(東京地裁平成12年9月28日判決),少なくとも,これに接した者が秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理している実体があることが必要である(東京地裁平成21年11月27日判決)とされています。
 社員の多くがアクセスできるような情報は,事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であっても,①秘密管理性の要件を欠き,不正競争防止法では保護されません。

弁護士 藤田 進太郎

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