弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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社内研修,勉強会,合宿研修への参加を拒否する。

2012-10-05 | 日記
Q8 社内研修,勉強会,合宿研修への参加を拒否する。

 まずは,社内研修,勉強会,合宿研修への参加が「義務」なのか「自由参加」なのかをはっきりさせる必要があります。
 参加が義務ということであれば,研修等に要する時間は社会通念上必要な限度で労基法上の労働時間に該当するため,時間外に行われた場合は時間外割増賃金の支払が必要になります。
 他方,自由参加ということであれば,当然,参加を義務付けることはできず,参加するかどうかは本人の意思に委ねられることになります。
 労働時間として扱ってでも参加させる業務上の必要があるようなものなのかどうかを,まずは判断する必要があります。

 使用者が社員に対し受講を命じることができる研修等の内容は,現在の業務遂行に必要な知識,技能の習得に必要な研修等に限られず,使用者が社員に命じ得ることができる教育訓練の時期及び内容,方法は,その性質上原則として使用者(ないし実際にこれを実施することを委任された社員)の裁量的判断に委ねられています。
 ただし,使用者の裁量は無制約なものではなく,その命じ得る研修等の時期,内容,方法において労働契約の内容及び研修等の目的等に照らして不合理なものであってはなりませんし,また,その実施に当たっても社員の人格権を不当に侵害する態様のものであってはならないことは,言うまでもありません。
 合理的教育的意義が認められない教育訓練,自己の信仰する宗教と異なる宗教行事への参加等を義務付けることはできないことになります。

 一般教養の研修への参加を義務付けることができるかは微妙なところですが,一般に本人の意思に反してでも受講させる必要があるような性質のものではないのですから,本人の同意を得た上で,受講させるようにすべきです。
 どうしても一般教養の研修への参加を義務付ける必要がある場合は,その必要性について合理的な説明ができるようにしておく必要があります。

 参加が義務付けられている社内研修,勉強会,合宿研修の期間中の年次有給休暇取得の請求(労基法39条5項本文)がなされた場合,研修期間,当該研修を受けさせる必要性の程度など諸般の事情を考慮した上で,時季変更権行使(労基法39条5項ただし書き)の可否が決せられることになります。
 例えば,社内研修等の期間が比較的短期間で,当該社内研修等により知識,技能等を習得させる必要性が高く,研修期間中の年休取得を認めたのでは研修の目的を達成することができない場合は,研修を欠席しても予定された知識,技能の習得に不足を生じさせないものであるような場合でない限り,年休取得が事業の正常な運営を妨げるものとして時季変更権を行使することができることになるでしょう(NTT(年休)事件最高裁第二小法廷平成12年3月31日判決参照)。
 一般教養の研修については,その性質上,時季変更権を行使して研修期間中の年休取得を拒絶することは難しいケースが多いものと思われます。

弁護士 藤田 進太郎

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転勤を拒否する。

2012-10-05 | 日記
Q7 転勤を拒否する。

 転勤を拒否する社員がいる場合は,まずは,転勤を拒否する事情を聴取し,転勤拒否にもっともな理由があるのかどうかを確認する必要があります。
 転勤が困難な事情を社員が述べている場合は,より具体的な事情を聴取するとともに裏付け資料の提出を求めるなどして対応することになります。
 認められる要望かどうかは別にして,本人の言い分はよく聞くことが重要です。

 本人の言い分を聞く努力を尽くした結果,転勤拒否にもっともな理由がないとの判断に至った場合は,再度,転勤命令に応じるよう説得することになります。
 それでも転勤命令に応じない場合は,懲戒解雇等の処分を検討せざるを得ませんが,懲戒解雇等の処分が有効となる前提として,転勤命令が有効である必要があります。

 転勤命令が有効というためには,①使用者に転勤命令権限があり,②転勤命令が権利の濫用にならないことが必要です。
 就業規則に転勤命令権限についての規定を置いて周知させておけば,通常は①転勤命令権限があるといえることになりますが,入社時の誓約書で転勤等に応じること,就業規則を遵守すること等を誓約させておくべきでしょう。
 社員から,勤務地限定の合意があるから転勤命令に応じる義務はないと主張されることがありますが,勤務地が複数ある会社の正社員については,勤務地限定の合意はなかなか認定されません。
 他方,パート,アルバイトについては,勤務地限定の合意が存在することが多いのが実情です。
 平成11年1月29日基発45号では,労働条件通知書の「就業の場所」欄には,「雇入れ直後のものを記載することで足りる」とされており,「就業の場所」欄に特定の事業場が記載されていたとしても,勤務地限定の合意があることにはなりません。
 ただし,それが雇入れ直後の就業場所に過ぎないことや支店への転勤もあり得ることをよく説明しておくことが望ましいことは言うまでもありません。

 ①使用者に転勤命令権限の存在が認定されると,次に,②転勤命令が権利の濫用にならないかどうかが問題となります。
 正社員については,通常は転勤命令が認められるため,②転勤命令が権利の濫用にならないかどうかが主要な争点になることが多くなっています。
 使用者による配転命令は,
① 業務上の必要性が存しない場合
② 不当な動機・目的をもってなされたものである場合
③ 労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき
等,特段の事情のある場合でない限り権利の濫用になりません(東亜ペイント事件最高裁第二小法廷昭和61年7月14日判決)。

 ①業務上の必要性については,東亜ペイント事件最高裁判決が,「右の業務上の必要性についても,当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく,労働力の適正配置,業務の能率増進,労働者の能力開発,勤務意欲の高揚,業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは,業務上の必要性の存在を肯定すべきである。」と判示していることもあり,企業経営上意味のある配転であれば,存在が肯定されることになります。
 ただし,①業務上の必要性の程度は,②③の要件を満たすかどうかにも影響するため,①業務上の必要性が高いことの主張立証はしっかり行う必要があります。

 ②不当な動機・目的に関しては,退職勧奨したところ退職を断られ,転勤を命じたような場合に,問題にされることが多い印象です。
 通常の対策としては,①業務上の必要性を説明できるようにしておけば足りるでしょう。
 また,退職勧奨は,行き当たりばったりで何となく行うのではなく,事前に十分に戦略を練ってから計画的に行う必要があります。

 ③通常甘受すべき程度を著しく超える不利益の有無に関しては,社員の配偶者が仕事を辞めない限り単身赴任となり,配偶者や子供と別居を余儀なくされるとか,通勤時間が長くなるとか,多少の経済的負担が生じるといった程度では,③労働者の不利益が配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとはいえません。
 必須のものではありませんが,③労働者の不利益が配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるか否かを判断する際は,単身赴任手当や家族と会うための交通費の支給,社宅の提供,保育介護問題への配慮,配偶者の就職の斡旋等の配慮がなされているか等も考慮されることになります。

 ③に関し,就業場所の変更を伴う配置転換について子の養育又は家族の介護の状況に配慮する義務があること(育児介護休業法26条)には,注意が必要です。
 育児,介護の問題ついては,本人の言い分を特によく聞き,転勤命令を出すかどうか慎重に判断する必要があります。
 本人の言い分をよく聞かずに一方的に転勤を命じ,本人から育児,介護の問題を理由として転勤命令撤回の要求がなされた場合に転勤命令撤回の可否を全く検討していないなど,育児,介護の問題に対する配慮がなされていない場合は,転勤命令が無効とされるリスクが高まることになります。
 裁判例の動向からすると,特に,家族が健康上の問題を抱えている場合や,家族の介護が必要な場合の転勤については,労働者の不利益の程度について慎重に検討した方が無難と思われます。

 転勤命令自体が無効の場合は,転勤命令拒否を理由とする懲戒解雇等の処分は認められません。
 有効な転勤命令を正社員が拒否した場合は重大な業務命令違反となるため,懲戒解雇等の処分は懲戒権の濫用(労契法15条)とはならず有効と判断されることが多いですが,焦って直ちに懲戒解雇等の処分をすると無効と判断されることがあります。
 有効な配転命令に従わないことを理由とする懲戒解雇が無効とされた事例では,懲戒解雇が性急に過ぎることが問題とされることが多くなっています。
 社員が転勤に伴う利害得失を考慮して合理的な決断をするのに必要な情報を提供する等して転勤命令に従うよう説得する努力を尽くし,転勤命令に従う見込みが乏しいことを確認してから,懲戒解雇等の処分を行うべきと考えます。

弁護士 藤田 進太郎

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転勤を拒否する。

2012-10-05 | 日記
Q7 転勤を拒否する。

 転勤を拒否する社員がいる場合は,まずは,転勤を拒否する事情を聴取し,転勤拒否にもっともな理由があるのかどうかを確認する必要があります。
 転勤が困難な事情を社員が述べている場合は,より具体的な事情を聴取するとともに裏付け資料の提出を求めるなどして対応することになります。
 認められる要望かどうかは別にして,本人の言い分はよく聞くことが重要です。

 本人の言い分を聞く努力を尽くした結果,転勤拒否にもっともな理由がないとの判断に至った場合は,再度,転勤命令に応じるよう説得することになります。
 それでも転勤命令に応じない場合は,懲戒解雇等の処分を検討せざるを得ませんが,懲戒解雇等の処分が有効となる前提として,転勤命令が有効である必要があります。

 転勤命令が有効というためには,①使用者に転勤命令権限があり,②転勤命令が権利の濫用にならないことが必要です。
 就業規則に転勤命令権限についての規定を置いて周知させておけば,通常は①転勤命令権限があるといえることになりますが,入社時の誓約書で転勤等に応じること,就業規則を遵守すること等を誓約させておくべきでしょう。
 社員から,勤務地限定の合意があるから転勤命令に応じる義務はないと主張されることがありますが,勤務地が複数ある会社の正社員については,勤務地限定の合意はなかなか認定されません。
 他方,パート,アルバイトについては,勤務地限定の合意が存在することが多いのが実情です。
 平成11年1月29日基発45号では,労働条件通知書の「就業の場所」欄には,「雇入れ直後のものを記載することで足りる」とされており,「就業の場所」欄に特定の事業場が記載されていたとしても,勤務地限定の合意があることにはなりません。
 ただし,それが雇入れ直後の就業場所に過ぎないことや支店への転勤もあり得ることをよく説明しておくことが望ましいことは言うまでもありません。

 ①使用者に転勤命令権限の存在が認定されると,次に,②転勤命令が権利の濫用にならないかどうかが問題となります。
 正社員については,通常は転勤命令が認められるため,②転勤命令が権利の濫用にならないかどうかが主要な争点になることが多くなっています。
 使用者による配転命令は,
① 業務上の必要性が存しない場合
② 不当な動機・目的をもってなされたものである場合
③ 労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき
等,特段の事情のある場合でない限り権利の濫用になりません(東亜ペイント事件最高裁第二小法廷昭和61年7月14日判決)。

 ①業務上の必要性については,東亜ペイント事件最高裁判決が,「右の業務上の必要性についても,当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく,労働力の適正配置,業務の能率増進,労働者の能力開発,勤務意欲の高揚,業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは,業務上の必要性の存在を肯定すべきである。」と判示していることもあり,企業経営上意味のある配転であれば,存在が肯定されることになります。
 ただし,①業務上の必要性の程度は,②③の要件を満たすかどうかにも影響するため,①業務上の必要性が高いことの主張立証はしっかり行う必要があります。

 ②不当な動機・目的に関しては,退職勧奨したところ退職を断られ,転勤を命じたような場合に,問題にされることが多い印象です。
 通常の対策としては,①業務上の必要性を説明できるようにしておけば足りるでしょう。
 また,退職勧奨は,行き当たりばったりで何となく行うのではなく,事前に十分に戦略を練ってから計画的に行う必要があります。

 ③通常甘受すべき程度を著しく超える不利益の有無に関しては,社員の配偶者が仕事を辞めない限り単身赴任となり,配偶者や子供と別居を余儀なくされるとか,通勤時間が長くなるとか,多少の経済的負担が生じるといった程度では,③労働者の不利益が配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとはいえません。
 必須のものではありませんが,③労働者の不利益が配転に伴い通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるか否かを判断する際は,単身赴任手当や家族と会うための交通費の支給,社宅の提供,保育介護問題への配慮,配偶者の就職の斡旋等の配慮がなされているか等も考慮されることになります。

 ③に関し,就業場所の変更を伴う配置転換について子の養育又は家族の介護の状況に配慮する義務があること(育児介護休業法26条)には,注意が必要です。
 育児,介護の問題ついては,本人の言い分を特によく聞き,転勤命令を出すかどうか慎重に判断する必要があります。
 本人の言い分をよく聞かずに一方的に転勤を命じ,本人から育児,介護の問題を理由として転勤命令撤回の要求がなされた場合に転勤命令撤回の可否を全く検討していないなど,育児,介護の問題に対する配慮がなされていない場合は,転勤命令が無効とされるリスクが高まることになります。
 裁判例の動向からすると,特に,家族が健康上の問題を抱えている場合や,家族の介護が必要な場合の転勤については,労働者の不利益の程度について慎重に検討した方が無難と思われます。

 転勤命令自体が無効の場合は,転勤命令拒否を理由とする懲戒解雇等の処分は認められません。
 有効な転勤命令を正社員が拒否した場合は重大な業務命令違反となるため,懲戒解雇等の処分は懲戒権の濫用(労契法15条)とはならず有効と判断されることが多いですが,焦って直ちに懲戒解雇等の処分をすると無効と判断されることがあります。
 有効な配転命令に従わないことを理由とする懲戒解雇が無効とされた事例では,懲戒解雇が性急に過ぎることが問題とされることが多くなっています。
 社員が転勤に伴う利害得失を考慮して合理的な決断をするのに必要な情報を提供する等して転勤命令に従うよう説得する努力を尽くし,転勤命令に従う見込みが乏しいことを確認してから,懲戒解雇等の処分を行うべきと考えます。

弁護士 藤田 進太郎

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金銭を着服・横領したり,出張旅費や通勤手当を不正取得したりして,会社に損害を与える。

2012-10-05 | 日記
Q6 金銭を着服・横領したり,出張旅費や通勤手当を不正取得したりして,会社に損害を与える。

 金銭の不正取得が疑われる場合,本人の説明なしでは不正行為がなされたかどうかが分かりにくいことも多いため,まずは,本人からよく事情聴取する必要があります。
 事情聴取に当たっては,事情聴取書をまとめてから本人に署名させたり,事情説明書を提出させたりして,証拠を確保することになります。
 事情説明書等には,問題となる「具体的事実」を記載させる必要があります。
 本人提出の事情説明書等に「いかなる処分にも従います。」と書いてあったとしても,問題となる具体的事実が記載されておらず,具体的事実を立証できないのであれば,懲戒処分等は無効となる可能性が高くなります。
 本人が提出した事情説明書等に説明が不十分な点や虚偽の事実や不合理な弁解があったとしても,突き返して書き直させたりしないで下さい。
 そのまま受領した上で,追加の説明を求めるようにして下さい。
 せっかく提出した書面を突き返したばかりに,必要な証拠が不足して,訴訟活動が不利になることがあるので,そのようなことがないよう,くれぐれも注意する必要があります。
 虚偽の事実や不合理な弁解が記載されている書面を確保することにより,本人の言い分をありのまま聴取していることや,本人が不合理な弁解をしていること等の証明もしやすくなります。

 不正があったことが証拠により証明できる場合は,事案の程度に応じた懲戒処分等を行うことになります。
 不正が疑われるだけで,本人も不正を認めておらず,客観的証拠が不十分な場合は,懲戒処分を行うことはできません。
 当該業務に従事する適格性が疑われる事情があれば,配転等の人事異動により対処することも検討することになります。

 どれくらい重い処分をするかを判断する際には,故意に金銭を不正取得したのか,単なる計算ミス等の過失に過ぎないのかの区別が重要です。
 社員が故意に金銭を不正取得したことが判明した場合は,懲戒解雇することも十分検討に値します。
 ただし,不正取得した金銭の額,会社の実質的な損害額,懲戒歴の有無,それまでの会社に対する貢献度,反省の程度等によっては,より軽い処分にとどめるのが妥当な場合もあるでしょう。
 他方,過失に過ぎない場合は重い処分をすることはできないケースがほとんどですから,注意,指導,教育,軽めの懲戒処分などにより対処することになります。

 不正に取得した出張旅費等は,「書面」で返還を約束させて下さい。
 返還方法としては,賃金全額払いの原則(労基法24条1項)との関係から,賃金から天引きするのではなく,当該金額を会社の預金口座に振り込ませて返還させるのが無難です。

 本人が自主退職を申し出た場合に,懲戒処分をせずに自主退職を認めるかは,重い懲戒処分をして職場秩序を維持回復させる必要性だけでなく,
① 自主退職を認めた方が紛争になりにくいこと
② 懲戒解雇・諭旨解雇等の退職の効力を伴う重い懲戒処分をした場合は紛争になりやすく,訴訟リスクが高いこと
③ 懲戒解雇に伴い退職金を不支給とした場合は紛争になりやすく,訴訟においては懲戒解雇が有効であっても,退職金の一部の支給が命じられることが多いこと
等を考慮して,冷静に判断する必要があります。

 「このままだと懲戒解雇は避けられず,懲戒解雇だと退職金は出ない。懲戒解雇となれば,再就職にも悪影響があるだろう。退職届を提出するのであれば,温情で受理し,退職金も支給する。」等と社員に告知して退職届を提出させたところ,実際には懲戒解雇できるような事案ではなかったことが後から判明したようなケースは,錯誤(民法95条),強迫(民法96条)等の主張が認められ,退職が無効となったり,取り消されたりするリスクが高いため,懲戒解雇の威嚇の下,自主退職に追い込んだと評価されないようにする必要があります。
 退職勧奨する場合は,「解雇」という言葉を使わないようにするべきでしょう。

弁護士 藤田 進太郎

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会社に無断でアルバイトをする。

2012-10-05 | 日記
Q5 会社に無断でアルバイトをする。

 会社に無断でアルバイトしている社員がいる場合は,まずはよく事情聴取する必要があります。
 アルバイトしている事実が確認され,それが企業秩序を乱すようなものである場合は,口頭で注意,指導して,アルバイトを辞めてもらうことになります。
 会社に無断でアルバイトしている社員に対し,アルバイトを辞めるよう促した場合,アルバイトを辞める旨の回答が得られるケースがほとんどです。

 単にアルバイトを辞めるよう説得するにとどまらず,会社に無断でアルバイトをした社員に対し,何らかの処分をしようとする場合は,話しは簡単ではありません。
 就業時間外の行動は自由なのが原則のため,社員の兼業を禁止するためには,就業規則に兼業禁止を定めて,兼業禁止を労働契約の内容にしておく必要があります。
 そして,何らかの処分をするためには,兼業により十分な休養が取れないなどして本来の業務遂行に支障を来すとか,会社の名誉信用等を害するとか,競業他社での兼業であるとかいった事情が必要となります。
 企業秩序を乱すようなアルバイトを辞めるよう注意,指導しても辞めようとしない場合は,書面で注意,指導し,それでも改善しない場合は,懲戒処分を検討することになります。
 解雇までは難しい事案が多く,紛争になりやすいので,解雇に踏み切る場合は,その有効性について慎重に検討すべきでしょう。

弁護士 藤田 進太郎

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注意するとパワハラだなどと言って,上司の指導を聞こうとしない。

2012-10-05 | 日記
Q4 注意するとパワハラだなどと言って,上司の指導を聞こうとしない。

 「パワーハラスメント」とは,一般に,「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」をいいます(『職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告』)。

 『職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告』では,パワハラの行為類型として,以下のようなものが挙げられ,コメントがなされています。
① 暴行・傷害(身体的な攻撃)
② 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
③ 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
④ 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
⑤ 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
⑥ 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
 まず、①については、業務の遂行に関係するものであっても、「業務の適正な範囲」に含まれるとすることはできない。
 次に、②と③については、業務の遂行に必要な行為であるとは通常想定できないことから、原則として「業務の適正な範囲」を超えるものと考えられる。
 一方、④から⑥までについては、業務上の適正な指導との線引きが必ずしも容易でない場合があると考えられる。こうした行為について何が「業務の適正な範囲を超える」かについては、業種や企業文化の影響を受け、また、具体的な判断については、行為が行われた状況や行為が継続的であるかどうかによっても左右される部分もあると考えられるため、各企業・職場で認識をそろえ、その範囲を明確にする取組を行うことが望ましい。

 近年では,上司の言動が気にくわないと,何でも「パワハラ」だと言い出す社員が増えているように思えます。
 そのような社員は,勤務態度等に問題があることが多く,むしろ,注意,指導,教育の必要性が高いことが多いという印象です。
 『職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告』でも,「個人の受け取り方によっては、業務上必要な指示や注意・指導を不満に感じたりする場合でも、これらが業務上の適正な範囲で行われている場合には、パワーハラスメントには当たらないものとなる。」とされていることからも分かるように,部下にとって不快な上司の言動が何でもパワハラに該当するわけではありません。

 上司の部下に対する注意,指導,教育は必要不可欠なものであり,上司に部下の人材育成を放棄されても困りますから,パワハラにならないよう神経質になるあまり,上司が部下に対して何も指導できないようなことがあってはなりません。
 『職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告』でも,「なお、取組を始めるにあたって留意すべきことは、職場のパワーハラスメント対策が上司の適正な指導を妨げるものにならないようにするということである。上司は自らの職位・職能に応じて権限を発揮し、上司としての役割を遂行することが求められる。」とされています。

 違法なパワハラに該当するかどうかは,行為のなされた状況,行為者の意図・目的,行為の態様,侵害された権利・利益の内容,程度,行為者の職務上の地位,権限,両者のそれまでの関係,反復・継続性の有無,程度等の要素を総合考慮し,社会通念上,許容される範囲を超えているかどうかにより判断されることになります。
 平均的な心理的耐性を有する者に心理的負荷を過度に蓄積させると客観的に評価されるような行為は,原則として違法となりますが,その行為が合理的理由に基づいて,一般的に妥当な方法と程度で行われた場合には,正当な職務行為として違法性が阻却される場合があります。

 部下に問題がある場合であっても,やり過ぎは良くありません。
 指導教育目的であっても,やり過ぎると違法と判断されることがあります。
 皆の前で叱責することや,大勢の社員が読むことができる電子メールで叱責することは,裁判所受けが良くありません。
 パワハラでなくても,名誉毀損となることもあります。
 電子メールにより部下を叱責する場合は,主に,メール送信の目的,表現方法,送信範囲等の要素をチェックする必要があります。
 最近では,訴訟で電子メールが証拠として提出されることが多くなっています。

 パワハラにより精神障害を発症した場合,労災となり,会社が安全配慮義務違反又は使用者責任を問われて,損害賠償請求されることになりかねません。
 心理的負荷による精神障害の労災請求事案において労業務上外を判断する際に用いられる「心理的負荷による精神障害の認定基準(平成23年12月26日基発1226第1号)」では,
① 部下に対する上司の言動が,業務指導の範囲を逸脱しており,その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ,かつ,これが執拗に行われた場合
② 同僚等による多人数が結託しての人格や人間性を否定するような言動が執拗に行われた場合
③ 業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が上司との間に生じ,その後の業務に大きな支障を来した場合
④ 業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が多数の同僚との間に生じ,その後の業務に大きな支障を来した場合
⑤ 業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が多数の部下との間に生じ,その後の業務に大きな支障を来した場合
等には,業務による強い心理的負荷が認められるものとしており,これらのいずれかに該当する場合には,業務上外を判断する場面のみならず,民事損害賠償請求訴訟においても,業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められるような場合を除き,パワハラと精神疾患発症との間に相当因果関係があると認定される可能性が高いと言わざるを得ません。

 パワハラを行う原因が上司のマネジメント能力の不足にある場合は,上司の懲戒処分だけ行うよりも,研修,降職,配置転換等により対処した方が有効な場合もあります。

 パワハラの状況は,部下により無断録音されて,証拠として提出されることが多く,訴訟では,無断録音したものが証拠として認められてしまいます。
 部下が上司をわざと挑発して,不相当な発言を引き出そうとすることもあります。
 無断録音されていても問題が生じないよう指導の仕方に気をつける必要があります。

弁護士 藤田 進太郎

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解雇した社員が加入した合同労組との団体交渉,会社オフィス前や社長自宅前での街宣活動

2012-10-05 | 日記
Q30 解雇した社員が合同労組に加入し,団体交渉を求めてきたり,会社オフィス前や社長自宅前で街宣活動をしたりする。

 解雇された社員であっても,解雇そのものまたはそれに関連する退職条件等が団体交渉の対象となっている場合には,労働組合法第7条第2号の「雇用する労働者」に含まれるため,解雇された社員が加入した労働組合からの団体交渉を拒絶した場合,他の要件を満たせば不当労働行為となります。

 多数組合との間でユニオン・ショップ協定(雇われた以上は特定の組合に加入せねばならず,加入しないときは使用者においてこれを解雇するという協定)が締結されていたとしても,ユニオン・ショップ協定は多数組合以外の組合に社員が加入することを禁止するものではありませんから,社員が合同労組の組合員となった場合に,合同労組が社員を代表することができないことにはなりません。
 社内組合が唯一の交渉団体である旨の規定(唯一交渉団体条項)のある労働協約が締結されていたとしても,団体交渉拒否の正当な理由とはなりません。
 社外の合同労組からの団体交渉申入れであっても,原則として応じる必要があります。

 会社オフィス付近での街宣活動が正当な組合活動と評価される場合には,懲戒処分,差止請求,損害賠償請求等をすることはできません。
 他方,正当な組合活動を逸脱するようなものについては,懲戒処分,差止請求,損害賠償請求等が認められます。

 労働組合が組合員の経済的地位の向上をはかる目的で,会社の経営方針や企業活動を批判する場合,文書の表現が激しかったり,多少の誇張が含まれているとしても,なお正当な組合活動といえ,そのために会社が多少の不利益を受けたり,社会的信用が低下することがあっても,会社としてはこれを受忍すべきものと判断される可能性が高いものと思われます。
 しかし,組合活動としてなされる文書活動であっても,虚偽の事実や誤解を与えかねない事実を記載して,会社の利益を不当に侵害したり,名誉,信用を毀損,失墜させたり,あるいは企業の円滑な運営に支障を来たしたりするような場合には,組合活動として正当性の範囲を逸脱すると評価することができ,懲戒処分,損害賠償請求等の対象となります。
 ビラ配りがなされた場合は,ビラを確保してビラの内容をチェックして下さい。

 労働組合またはその組合員が,使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは,原則として使用者の施設管理権を不当に侵害するものであり,正当な組合活動とはいえません。
 会社敷地内での組合活動であっても,一般人が自由に立ち入ることができる格別会社の職場秩序が乱されるおそれのない場所での組合活動は,使用者の施設管理権を不当に侵害するものとはいえないと評価される可能性が高いものと思われます。

 労働組合の諸権利は企業経営者の私生活の領域までは及びません。
 労働組合の活動が企業経営者の私生活の領域において行われた場合には,企業経営者の住居の平穏や地域社会における名誉・信用という具体的な法益を侵害しないものである限りにおいて,表現の自由の行使として相当性を有し,容認されることがあるにとどまります。

弁護士 藤田 進太郎

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社外の合同労組に加入して団体交渉を求めてきたり,会社オフィスの前でビラ配りしたりする。

2012-10-05 | 日記
Q23 社外の合同労組に加入して団体交渉を求めてきたり,会社オフィスの前でビラ配りしたりする。

 社内の過半数組合との間でユニオン・ショップ協定(雇われた以上は特定の組合に加入せねばならず,加入しないときは使用者においてこれを解雇するという協定)が締結されている会社の場合,ユニオン・ショップ協定を理由に,社内の労働組合を脱退して社外の合同労組に加入した社員を解雇することができないか検討したくなるかもしれませんが,「ユニオン・ショップ協定のうち,締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが,他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は,右の観点からして,民法90条の規定により,これを無効と解すべきである(憲法28条参照)。」とするのが最高裁判例(三井倉庫港運事件最高裁第一小法廷平成元年12月14日判決)ですので,ユニオン・ショップ協定を理由に,当該社員を解雇することはできません。

 社外の合同労組からの団体交渉申入れであっても,原則として応じる必要があります。
 社内組合が唯一の交渉団体である旨の規定(唯一交渉団体条項)のある労働協約が締結されていたとしても,団体交渉拒否の正当な理由とはならず,団交拒否は不当労働行為となります。

 会社オフィス付近での街宣活動が正当な組合活動と評価される場合には,懲戒処分,差止請求,損害賠償請求等をすることはできません。
 他方,正当な組合活動を逸脱するようなものについては,懲戒処分,差止請求,損害賠償請求等が認められることになります。

 労働組合が組合員の経済的地位の向上をはかる目的で,会社の経営方針や企業活動を批判する場合,文書の表現が激しかったり,多少の誇張が含まれているとしても,なお正当な組合活動といえ,そのために会社が多少の不利益を受けたり,社会的信用が低下することがあっても,会社としてはこれを受忍すべきものと判断される可能性が高いものと思われます。
 しかし,組合活動としてなされる文書活動であっても,虚偽の事実や誤解を与えかねない事実を記載して,会社の利益を不当に侵害したり,名誉,信用を毀損,失墜させたり,あるいは企業の円滑な運営に支障を来たしたりするような場合には,組合活動として正当性の範囲を逸脱すると評価することができ,懲戒処分,損害賠償請求等の対象となります。
 ビラ配りがなされた場合は,ビラを確保して内容をチェックし,対応を検討すべきです。

 労働組合またはその組合員が,使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは,原則として使用者の施設管理権を不当に侵害するものであり,正当な組合活動とはいえません。
 他方,会社敷地内での組合活動であっても,一般人が自由に立ち入ることができる格別会社の職場秩序が乱されるおそれのない場所での組合活動は,使用者の施設管理権を不当に侵害するものとはいえないのが通常と思われます。

弁護士 藤田 進太郎

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