楽々雑記

「楽しむ」と書いて「らく」と読むように日々の雑事を記録します。

美術館の庭。

2008-03-26 23:14:30 | 散歩。
行ったことがあるような気になって行ったことがない場所はいくつもある。聴いたことはないけれど、きっと良いと思う音楽を他人に薦めるのと同じ。東京都庭園美術館もそんな場所のひとつだ。何度もその前を通り、入口近くのカフェで酒を飲んだ記憶もある。過去に興味引かれる展示もあったと思うが、結局は行かずじまいで今に至っている。そんな場所がまだまだたくさんあることを恥ずかしく思う。
晴れた日曜日に白金台で下車し「建築の記憶」展を見に行った。咲き始めた桜を見ながら歩くと、じきに美術館に着いた。休日だけに人が多い。建物の中に入るとその多さは更に際立っていた。どこに行っても人だかりだから、ゆっくり見ることは諦めて、気になる物だけを眺めて歩くことにしよう。勿論、写真は興味深かったが、やはり初めて見た旧朝香邸の内装に目が行く。照明や空調周りのレリーフやタイルの設えは、今まで自分がイメージしていたアールデコとは随分違って見えた。そもそもアールデコについて自分がきちんと理解してはいないことを確認したに過ぎないのだが。
上階に登って進んでいくと庭を見下ろすテラスに出た。それほど大きくはないけれど、建物とはちょうど良いバランスの庭。展示を見なくても庭には入れるから、家族連れやカップルがのんびりと日曜の昼下がりを過ごしていた。幸せな風景だと思っていると、独りの男性が目に入った。庭をバックに携帯電話で写真を撮りたいのだろうか、必死にアングルを調整するために、かなり無理な格好をしている。まるでブレイクダンスのような格好だが、おかしさはそれ以上。どうやらうまくいかないようで必死の形相をしている。そんな姿を見下ろしながら微妙な優越感に浸る。隣の見学者も気付いたようで笑い始めた。
全ての展示を見終えてから、持参した牡丹餅を食べようと庭に出た。随分と時間が経っただろうか、先ほどの男性は芝生の上で大の字に寝ていた。キチンと写真は取れたのだろうか。牡丹餅を食べながら、既に興味の対象が美術館でも展示でもなくなっていることに気付いた。これではいけない。改めてゆっくり美術館を楽しみに来よう。

眠くなる場所。

2008-03-22 10:07:41 | 散歩。
いつものように髪を切りに行く。自宅から目白まで決して近くはないけれど、他に行きたい美容院もないので、十年近く変わらずに毎月目白まで足を運ぶ。美容院の近くに吉村順三の事務所だった建物があったり、古道具の坂田があるという偶然も目白に足を運ばせる理由かもしれない。もしくは徳川コンパウンド。少し前だったなら夜の盛り場やラブホテル街をフラフラとあてもなく散歩するのも楽しかったけれど、今は昼の住宅街を歩く方が気分。こうやって書くと非常に不審な感じですね。
雨の祝日にいつものように予約の時間ぎりぎりに美容院に到着すると店の主人はボンヤリと外を眺めていた。やはりいつものように「どうぞ」と言われて腰を下ろす。何も言わなくてもいつものように切ってくれるし、「今日はどうしましょうか」と尋ねられても、結局は「いつものように」と答えるのだから何も言わずにいると手際よく髪を濡らし始めた。規則的な鋏の音を聞きながら、次第に眠くなってくる。ガランとした美容院に流れるFMラジオを聴いていると無性に眠くなる。客も美容師も一人しかいないし、必要以上にお互いに言葉を交わすこともなく過ぎる数十分は、眠くなるくらいの脱力と眠ってはいけない緊張が同居する奇妙な時間だ。
髪を切り、やはりいつものようにブックオフを物色して山口瞳の文庫本を一冊購入してから家に戻る途中、有楽町の交通会館の地下でコーヒーを飲む。有線からイージーリスニングが流れている。聞き覚えのあるメロディーを頭の中で呟きながら、先日購入した本を読む。面白く読んでいるのだけれども、読んでいないようなボンヤリした感覚。髪を切られながら感じた眠気にも似ている。目覚ましにならないコーヒーを飲みながら、よい美容院と喫茶店にはぼんやりとした共通点があるかもしれないとふと思い、面白く呼んでいた本の続きは、また楽しい場所で読もうと頁を閉じた。

陽だまりのチーズケーキ。

2008-03-21 00:33:33 | 食べもの。
以前住んでいた部屋の窓は肩よりも高い位置にあった。日に数時間、陽が差し込むだけで、一日中明かりをつけていないと何だか薄ら寒い感じの部屋だった。平日の日中は殆どいないし、休日も出かけることが多かったから、住んでいる本人はそれほど気にしたことはなかったけれど、思い返せば一日中家にいることがなかったのは、やはり日当たりが悪かったからかもしれない。それに比べると今の部屋には窓も陽もある。決して広いとはいえない部屋だけれども、陽があるというだけで随分と落ち着く。そう思っているのは相方も同じらしく、晴れている昼下がりにお茶を飲むようになった。陽のあたるスペースにテーブルを運んで飲むこともあれば、もっと簡単に小さなスツールに乗せたトレイをテーブル代わりにして済ませることもある。陽はあたるようになっても、別に絶景が広がっている訳でもなく、ショッピングセンターの駐車場の壁しか目に入らないのだけれど、陽の当たる場所でのんびり過ごせる時間をもつことができるというのは、想像したことがなかっただけに幸せな気がする。
相方が職場でもらったケーキを持って帰ってきた。昼下がりに一緒に食べようということになる。コーヒーを淹れるのは、いつのまにか自分の仕事になっているから、頼まれるでもなくお湯を沸かし始めた。慌しく淹れるインスタントコーヒーも決して嫌いではないけれども、ゆっくり淹れたコーヒーには少しだけ幸せが足されるような気がする。そうしてゆっくり淹れたコーヒーを陽のあたる場所に持っていく。頂き物のチーズケーキも一緒に。こう書くと何だか優雅に聞こえるけれど、オットマンにトレイを乗せた即席のテーブルに所狭しとマグカップとケーキが並んでいるのは少々窮屈か。たとえ窮屈だろうとも、陽のあたる窓辺でお茶を飲むのは幸せだ。並んでいるのがヨハンのチーズケーキなら尚更だ。確か定年退職した三人の男たちが前職の工場勤務の経験を活かして完全にその工程を標準化したというような話をテレビで見たことを思い出した。いつ作っても同じ美味しさを作れるようにした、という話。勿論そんな話を知らなくても同じ美味しさなのだろう。夏でもきっと同じ美味しさを味わえるのだろうけれども、昼下がりの陽だまりで食べることのできる時期は限られているはず。休日が晴れないかと今も天気予報が気になってきた。

シンスケの二階席。

2008-03-18 22:11:11 | 食べもの。
久しぶりにANKと酒を飲もうという話になった。暫く会う機会が減りそうなようなので、いつもと違った場所で飲もうとリクエストを聞くと「できれば和食。花粉症なので屋内希望」という返事が返ってきた。和食は良いとして、一体自分がいつもどこで飲んでいると思っているのだろう。いくつか頭の中に店が思い浮かぶ。行ったことがない場所を堂々と提案するというのは苦手だけれども、湯島の「シンスケ」にしようと決めて連絡をした。土曜日の夕方から居酒屋で飲み始められるというのは、思い浮かべただけで口許が緩む。気まで緩んでいたのか、土曜の開店時間が少し早いことに気付いて慌てて家を出た。ゆったり飲もうというのに相応しくないのはわかっているが、やはり人を待たせておきながら悠長に飲めるほど肝は据わっていない。
開店時間より前に湯島に到着して、天神参りまで済ませたANKは二階のテーブル席で待っていた。ジョッキの中の半分程度になったビールを見て、改めて遅れてきたことを詫びる。さすがに待たせておきながら、できれば一階で飲みたかったということなど言える由もない。見回すと雰囲気に気兼ねすることなく飲むならばこちらの方がいい気もしてきた。そう思いながら、メニューを眺めると「きつねラクレット」の上に緑色のシールが貼ってある。これを頼もうと思っているのだとANKに言うと「それだけ品切れ。チーズが入荷していないらしい」と教えられた。お目当てのメニューがないことがわかったが、他のものだってきっと美味いに違いない。早々にビールを空けて燗酒を頼む。つまみにおしたしと〆鯖、葱のぬた。どれもつまみとしては申し分ない。店の名が入った徳利が届いては下げられるのを繰り返す。そしてお薦めらしい「いわしの岩石揚」を頼んで杯を重ねているうちに、自分たちの外に二組の熟年グループしかいなかったガランとした二階の席はすっかり埋まっていた。賑やかになれば、一階にはなさそうな雰囲気が漂う。外も暗くなってきた。そろそろ腰を上げようかと時計を見るとまだまだ時間はありそうだ。銀座に戻って、いつもの店に行こうという話になった。やはり早く飲み始めるのは楽しい。

ホワイトデーの胡桃。

2008-03-16 22:35:25 | 食べもの。
職場でバレンタインデーのチョコレートをもらった。勿論、義理チョコ。輸入雑貨店で売っていそうなてんとう虫の包みのチョコレートが4つ。同じ物をもらった周りの人たちは一体お返しをするのかどうかも訊けずにホワイトデーが近づいた。もらったからには返さねばなるまい、と思ったけれども、何を返せば良いかに悩む。鑓ヶ崎のピカソルのクッキーがちょうど良いかと思ったが、5個入りというのは少々大げさに思えてきた。それにわざわざ買いに行くというのも何だか大げさだ。そんなことを思いながら代わりの品も思いつかずにホワイトデーの前日を迎えた。仕方がないと諦めながら、会社帰りに見つけようと寄り道をして銀座に立ち寄った。
有楽町のビルの下にある洋菓子店は、いつも見ることの無いような男性客で溢れかえっていた。ダゴワーズをいくつか包んでもらおうかと思っていたが、そんな悠長な状況ではない。高価な菓子が飛ぶように売れている。どの商品も予算はオーバーだから、早々に店を出た。銀座に向かう途中にあるデパートの店先にも沢山の商品が特設のワゴンに並ぶ。こうなったらどれでもいいとは思いながらも、実際に買うとなると悩む。ちょうど良い値段でそれほど大げさでないパッケージ、そして美味しいに越したことはないけれども、そんなに都合よい商品があるわけがないし、あったとしてもホワイトデー前日の午後7時に店頭に並んでいる可能性は極めて低い。別のデパートの地下に降りた。ここも人で溢れている。比較的人の少ない和菓子売り場を歩いていると和久傳の売り場が見えた。以前食べた「くるみ」を思い出した。乾煎りした胡桃に和三盆糖をまぶしただけの控えめな甘み。少し予算をオーバーしているとは思いつつ、良い物を思い出したと喜びながら、4つを包んで欲しいと頼む。勿論ひとつは自宅用だ。包装されている「くるみ」を見ていると以前とパッケージが変わっている、缶に入った大きな包みになっている。そして会計をして驚いた、以前よりも値段が上がっていた。完全に予算オーバー、てんとう虫を何匹もらったら割にあうのか。しかし、他に思いつくものもないし、これでよいのだと諦めた。早く帰って、お茶を入れて「くるみ」を食べよう。久しぶりに食べる機会ができたのだ、と慰めながら食べたが「くるみ」はやはり美味い。