楽々雑記

「楽しむ」と書いて「らく」と読むように日々の雑事を記録します。

眠くなる場所。

2008-03-22 10:07:41 | 散歩。
いつものように髪を切りに行く。自宅から目白まで決して近くはないけれど、他に行きたい美容院もないので、十年近く変わらずに毎月目白まで足を運ぶ。美容院の近くに吉村順三の事務所だった建物があったり、古道具の坂田があるという偶然も目白に足を運ばせる理由かもしれない。もしくは徳川コンパウンド。少し前だったなら夜の盛り場やラブホテル街をフラフラとあてもなく散歩するのも楽しかったけれど、今は昼の住宅街を歩く方が気分。こうやって書くと非常に不審な感じですね。
雨の祝日にいつものように予約の時間ぎりぎりに美容院に到着すると店の主人はボンヤリと外を眺めていた。やはりいつものように「どうぞ」と言われて腰を下ろす。何も言わなくてもいつものように切ってくれるし、「今日はどうしましょうか」と尋ねられても、結局は「いつものように」と答えるのだから何も言わずにいると手際よく髪を濡らし始めた。規則的な鋏の音を聞きながら、次第に眠くなってくる。ガランとした美容院に流れるFMラジオを聴いていると無性に眠くなる。客も美容師も一人しかいないし、必要以上にお互いに言葉を交わすこともなく過ぎる数十分は、眠くなるくらいの脱力と眠ってはいけない緊張が同居する奇妙な時間だ。
髪を切り、やはりいつものようにブックオフを物色して山口瞳の文庫本を一冊購入してから家に戻る途中、有楽町の交通会館の地下でコーヒーを飲む。有線からイージーリスニングが流れている。聞き覚えのあるメロディーを頭の中で呟きながら、先日購入した本を読む。面白く読んでいるのだけれども、読んでいないようなボンヤリした感覚。髪を切られながら感じた眠気にも似ている。目覚ましにならないコーヒーを飲みながら、よい美容院と喫茶店にはぼんやりとした共通点があるかもしれないとふと思い、面白く呼んでいた本の続きは、また楽しい場所で読もうと頁を閉じた。