よく立ち寄る近所の酒場はL字型のカウンターと4人掛けのテーブルが2つ。Lの字の底辺の席に座ると、その日のお薦めが見えない代りに魚をおろす様子やら、冷蔵庫へ行ったり来たりする様子が見える。前回立ち寄った時も空いていたのが一番入口に近い、L字の底辺(と書くと非常に感じが悪いが決してそんなことはない)の席に座り、鯵とアオヤギ、地ダコの刺身とソラマメを注文した。下ろされた鯵が盛りつけられているのを眺めながら、ビールを飲んだ。暖かい夜だったからだろうか、春を実感しながら、瓶ビールがあっという間に空になった。
翌日、仕事の外出の帰りに寄り道をした。初めて入ったその店は直線のカウンターにスツールが幾つか並んでいた。一番入口に近い席に空きを見つけて腰をかけた。カウンターの中で調理をしたり、ワインの栓が抜かれていくのも楽しい。掲げられた品書きを見ながら悩む。何品も注文できないのが一人の辛いところだけれども、その代わりに他の客が注文した料理が作られていく様子を観察しているうちにワインのグラスは空になった。
その週の土曜日の午後、少し前にオープンしたコーヒーショップを訪ねた。小さな店を改装した店でドリップコーヒーとコーヒークリームパンを頼んで暫く待つ。交差点に面した大きな窓に直線のカウンターだけの店、椅子はない。その日のカウンターからは作業の様子が見えない代りに、目の前の交差点の赤い郵便ポストが見える。ポストを眺めたり、たまに交差点を過ぎる人たちを眺めているうちに何だか旅先にいるような気分になってきた。このカウンターで短い手紙を書いて、出掛けに投函して、と勝手な想像をしている内にコーヒーは空になった。
素材も長さも異なるカウンターから見えるのは異なった景色。おいしい物がある場所ならば、良い景色が見えるようだ。勿論、長居と飲みすぎを気をつけるようにしなければいけないけれど、なかなか難しい。