楽々雑記

「楽しむ」と書いて「らく」と読むように日々の雑事を記録します。

型染の縁。

2009-06-28 23:20:59 | Weblog
少し前に渋谷のギャラリーに型染の展覧会を見に行った。少し蒸し暑い会場で見た作品は昨秋にパリで受けた印象とは随分と異なる。会場に置いてあったパンフレットを読むと「昨年の秋の展示では思うようなものができなかったので、改めて挑戦した」ということが書かれていた。パリでは旧作が多かったけれども、今秋の展示に向けて新作を作っているようだ。パリでお会いしたスタッフも顔を覚えていてくれたようで嬉しい。やはり顔が分かるというのは気持ちが良い。
大きくない会場の展示なので、それほど時間もかからずに見終えてしまったが、少し奥に談話室のようなスペースがあるのが見えた。「もしよろしければ」と声をかけていただいたので、奥の部屋に入って振り向くと紺色の布が壁にかかっていた。大きな作品ではないけれども、その日の展示で最も気になる作品だ。じっくりと眺めていると以前にも見たような気がしてきた。あまりに気になるので尋ねると展示されているものの中で唯一、昨秋のパリでも展示していたという。「やはり」と思いながら、前回見たときもとても気になる作品だったから、これはただの偶然ではない。そう思い始めると気になって仕方がなくなってきた。改めてじっくり眺めながら懐を考える。談話室のような場所でサラリと掛けてあるのを見ると売り物ではないかもしれない。しかし、この偶然を逃したらと思ったら二度と会うこともないだろう。手に入れなくても困る物ではないけれども、何かの縁を勝手に感じてしまったのだから、このまま帰るのも惜しい。気付けば値段を尋ねていた。決して手の出ない値段ではないけれども、安い買い物ではない。いくつかの言い訳を頭の中で拵えながら、思い切って購入することにした。
談話室を出ると、風にあおられないようにと閉め切っていたホールの窓が開いていた。その横で涼をとっていた作家が「風が涼しいですね」と言う。作品を手に入れたお礼を言いながら改めてぐるりと展示を眺めた。風で大きな型染めがふわりと浮かんだ。

日帰りの京都。

2009-06-16 22:19:59 | Weblog
春先に大山崎に行くために購入した京都までの切符の使用期限が迫っていることに気付いた。見ようと思っていた大山崎山荘の展示は既に終わっているし、特に何が見たいというわけでもないままに早起きをして東京駅に向かった。近所まで行くような感覚で到着した東京駅で適当に空席のある列車を予約してから新しい地下街で朝食を購入した。
そうして向かった京都だったからか、寺社仏閣には立ち寄る事も無く、飲み食いと本屋を眺めただけだ。日帰りで時間が無かったというのも言い訳にしかならないだろう。開店時間を改めて確認してまで行きたかった居酒屋の開けっ放しの戸から夕方の陽光が差し込むのを眺めながら、冷酒を飲んでいたら鴨川の風がスッと流れてきた。隣で飲んでいた二人組の男性と目が合う。まるで外で飲んでいるような気持ち良さだと笑いながら追加の肴を注文した。しめ鯖に鱧落とし、味の沁みた大根も砂ズリの焼きものも申し分なく美味い。それに加えて小気味良い距離の接客も申し分ない。三度目にして入れた嬉しさも手伝ってスルスルと酒が入っていく。ふらりと歩いて本屋を眺めて、夕方からのんびりと飲んでいるのなら、いつもと変わらないと相方と顔を見合わせて笑う。確かにどこに行っても同じような行動ばかりしている。けれども、どこかに出かけて他所の土地をフラフラする楽しみは、じっとしていては決して味わえない。酒の味を偉そうに言えるほどの舌は持ってはいないけれども、味が変わったように思いたいから他所の場所に出かけるのかもしれない。
店を出ると、まだ明るさが残っている。東京より少しだけ西にいることを思い出しながら京都タワーを見上げた。やはり日帰りの京都旅行というのも悪くない。

買い物の後の楽しみ。

2009-06-07 13:36:10 | Weblog
予想外の晴天と収穫で楽しめたあがたの森から駅に向かう道を歩く。見覚えのある角を曲がって笊の店へ向かうと人が溢れていた。外には大きな犬が飼い主を待ちながら寝そべっている。きっと遠方から来たのだろう、見知らぬ街の笊が並んだ店はどのように映るのだろうか。混雑する店内を手早く見回して選んだ二つの笊の説明を受けてから一つを選び、サッと店を出た。三度目ともなると要領が良くなったと自己満足に浸りながら、買い物を終えたからか腹が急に減ったことに気付いた。
女鳥羽川を渡るとぐっと地方都市色らしくなる。そんな場所にある少し大きな菓子店をひやかしてゴーフルを買った。周りには洋菓子店「マサムネ」の本店やら、美味そうなアイスクリーム屋、餅屋が並んでいて地方都市らしい落ち着きが漂う。観光客の多い本町通りよりも自分はこちらのほうが好みかもしれないと眺めながら、もう少し先に進むと目的地の酒屋が見えてきたが、その酒屋に併設されている立ち呑み屋はまだ準備中のようだ。急に降り出した大粒の雨を避けるために軒先を借りていると程なく「営業中」の札がかかった。一番乗りというのは少々気恥ずかしいけれど、帰りの列車まで時間がなかったので急いでビールを注文して一息つく。そう広くないけれど不思議と落ち着く店内にある今日のお薦めを眺めてから、チーズオムレツとナゲットを注文した。品書きにあるメニューだけでもかなりな数がある。これはまた来年の楽しみということになるのだろう。カウンターの奥に見える小さな調理台から出てきた温かいオムレツを食べながらビールとハイボールを飲んでいると戸口のガラス越しに晴れ間が見えた。そろそろ列車の時間も近くなってきた。隣のカップルが食べている茹でたブロッコリーも美味そうだと眺めながら店を出て、混雑する街を急ぐタクシーの中で来年は何を食べようかと思いながら、最後に飲んだモルトの味を思い出した。