梨と球体

前回、福岡を訪れた際に移転中だった「ｇｉ」の新しい店舗を訪ねた。薬院の駅を降りて、移転のお知らせを頼りに歩き始める。目印となるはずのけやき通りも護国神社も駅前の地図には見つからなかったから勘を頼りにする他ない。見当をつけて歩き始めると、それらしき通りが見つかった。ひと安心して歩き続けると、急に空が黒い雲に覆われて、雨粒が落ちてきた。ようやく目的の「ｇｉ」を見つけて駆け込むと同時に大雨が降りだした。

店内では先客が木製の球体を３つ並べて悩んでいた。何に使うものか見当はつかないけれども、魅力的なかたちをしている。店主はエアプランツを入れているという。自分ならば何に入れようかと悩んでいると先客と目があった。「悩ましいですよね」と笑顔で返すと、悩ましい笑顔が返ってきた。結局、１つだけ選んでいった。

残された２つの球体を見ていたら、自分も欲しくなってきた。まだ、大雨が続いているから、しばらく悩もうと決心して、触って、眺めて、悩んでいる内に、やっと雨が弱くなってきた。最初に気になった球体をもらうことにして会計をしていると、また雨足が強まってきた。残る１つも買うことになってしまっては大変だから、雨宿りの間に教えてもらった近くのお薦めのギャラリーに向かって走り出した。

数日後に自宅に球体が届いた。まだ何を入れるか決められないまま梨が置かれた皿と並んでいる。梨と並ぶと不思議と収まりが良いから、食べては補充する日が続いている。勿論、梨は好物だ。梨を買う言い訳が増えるにこしたことはない。