昼食のために外に出ると「どこにしましょうか」というのが合言葉になっている。沢山ある飲食店のいくつかを順番に回っているけれど、やはり「どこにしましょうか」と尋ねてしまう。開花宣言を聞いた翌日の冷たい雨が降る日の昼食も同じように一瞬悩んだふりをしながら近所の喫茶店のような店に入り、ランチメニューにはないナポリタンを注文して、入口にあった『週刊現代』を読んでいると、おそらく有線放送だろうムードミュージックが耳に入ってきた。スピーカーのせいで低音は弱いけれど、ドロシー・アシュビーを思わせるようなハープが格好良い。思わずグラビアを捲る手が止まった。
かつて安価な中古レコードを求めてリサイクルショップを回っている時に、古いムードミュージック集をいくつも買い求めた。ジャケットだけでゲンナリしてしまうものや、ジャケットすらもどうしようもない物など、指を真っ黒にして長時間レコードの山と格闘して見つけ出す悦びは思い出すと楽しいけれど、今もう一度チャレンジするかどうか問われると「Yes」と即答する自信はない。
『Secondhand Sureshots』がDVDになったことを知った。1ドルの中古レコード5枚を使って、4人のプロデューサーが音楽の奇跡を起こすというドキュメンタリー。DVDのおまけで貰ったJ RoccのMixCDも全く想像もしていなかった内容が最高。映画の詳細を書いても、正しい説明にはならないだろうから、ここには書かないけれど、レコードショップが無くなって、CDすら時代遅れのメディアになろうとしている中で、久しぶりにヒップホップのアイデンティティを感じた。
自分も屑レコードの山でバーブラ・ストレイサンドに何回会ったことだろう。そしてリサイクルショップでどれだけのアリスや安全地帯のレコードを見たことか。もう一度、あの埃まみれのレコードの山に挑むのは遠慮したいけれど、おまけのMixCDを聞いていると、神保町のレコード屋辺りならば覗いてみようかと思ってしまう。雨はいつ上がるのか、週末の天気が急に気になってきた。