楽々雑記

「楽しむ」と書いて「らく」と読むように日々の雑事を記録します。

新酒の味

2009-11-26 00:52:06 | Weblog
久しぶりに訪れたイタリア料理店で何を飲もうかと迷っていると新酒を薦められた。カンティーナ・アルデーノ社のテロルデゴ・ノヴェッロの2009年、とこうして書いてはいるけれど、持ち帰った手許のコルク栓を見ながら書いているから特段ワインに詳しいというわけではない。グラスに注がれた赤ワインの香りを確かめながら口に含むと想像していた味とは全く違う、若さというより新鮮といったほうが相応しい味に驚いた。酒というよりも葡萄のジュースのような感覚ですいすいと喉を通り抜けていく。追加した瓶も気付けば空になっていた。知識が必要と思いこんで敬遠していたワインという飲み物に少しだけ興味が湧いた気がしたけれど、同時にそんな思いつきも楽しい時間と酒に流されてしまうのだろうと、中身が減ったグラスを見ながら思った。
次の日、見ようとしていた映画の時間を間違えて時間が中途半端に余ってしまった。遅い昼食を食べようと店を探したけれど、日曜日の外食というのは難しい。知っている店の多くは日祝日は閉まっているし、入ってみようと思わせる店はなかなか見つけらない。その日もなかなか見つからずに同じ場所を何度も行ったり来たりして諦めかけているとイタリア国旗を掲げた小さな店があったから昼はイタリア料理に決めた。目立たない入口も好ましい。テーブルについてから前日の晩にイタリア料理を食べたことを思い出した。気が急いているとろくなことはないと思いながらパスタとデザートのセットを注文する。改めて店内を見回すと、「沢山の働き者がいる小さな店」という自分の理想のタイプの店であることに気付いた。そして想像したとおりやってきた料理も美味しかったから、思わぬ発見にひとり喜ぶ。これなら映画の時間をもう一度間違えても良い。店を出てからも清々しい気分で、映画館へ向かう足取りも軽い。思わぬ美味しい昼食のせいかしらと思い返すと、酒を注文しなかったことに気付いた。酒を頼まないという選択のお陰かと一瞬ひらめきいたが、あの店で飲む酒の味を想像して、次は注文を忘れてはいけないと思い直して映画館に急いだ。

半歩以上の遅れ

2009-11-14 09:01:41 | Weblog
すっかりDJから遠ざかってしまったから、ターンテーブルに続いてCDJの調子まで怪しくなってきた。一旦、電源を切ってしまうと不具合を起こすものだから、メインスイッチを入れっぱなしにしている。これは何かの暗示なのかしらと思いながら、今日も買ってきたCDをスロットに突っ込んだ。世の中はCDどころかPCを使ったDJが主流になっているということを聞かされながら、自分は10年前に購入したPCを使い続けている。DJ用のソフトが入る代物ではないのは勿論、この雑文を書く程度にしか使っていないから、特に不自由はない。こうやっている内に世の中のDJの流れから遠ざかってしまっているのかもしれない。
ネット通販も便利だけれど、何だか気後れしてしまいあまり使うことがない。検索してクリックするだけで自宅に商品が届くというのは素晴らしい。考案者には敬意を表したいけれど、店まで出かけて類似の商品が並ぶ中で手にとって確かめて買いたいと望むのは、既に「おじさん」ということだろうか。
けれども、今すぐに欲しい商品が手に入るという誘惑はいつも渦巻いている。鎌倉での偶然に喜んで矢内原伊作の『モンマルトル便り』が読みたくなり、いくつかの古本屋を覗いたのだけれど、そう偶然の出会いは続かない。その数日後、ほろ酔いで帰宅して検索サイトに書名を打ち込んでクリックするとすぐに見つかったから、その中でも比較的安い商品をそのまま注文した。届いた封を開けてから図書館リサイクル本であることに気付く。注文を見直すとその旨が明記されていたから、完全に自分の見落としである。調子に乗って買い物などするものではないと後悔する。オリジナルの帯封とビニールカバーがないことを気に病んでいると、相方は「そんなもの読むにはいらない」と全く意に介していない様子だ。全く羨ましい。もう少々便利に使えるよう整えるべきは環境なのか、それとも自分の姿勢だろうか。

つばさの後

2009-11-12 01:02:27 | 気になる。
「対照 佐内正史の写真」展
Contrast: The Photography of Masafumi Sanai

2009年10月10日(土)~2010年1月11日(月・祝)
休館日 月曜日(祝日を除く)、11月24日(火)、12月24日(木)、
12月28日(月)~2010年1月4日(月)
午前9時30分~午後5時(入館は4時30分まで)
川崎市岡本太郎美術館
川崎市多摩区枡形7-1-5 Tel 044-900-9898
http://www.taromuseum.jp/

神奈川近代美術館のコインロッカーの隣にある棚の案内が目に入った。少し前までやっていた連続テレビ小説『つばさ』は実家に近い川越が舞台だったから、出支度をしながら毎日眺めていると、オープニングタイトルが佐内さんの制作だと気付いた。それ以来、毎回オープニングを眺めるのを楽しみにしていたのだけれど、先日訪れて、偶然が続いた鎌倉で、この展示のチラシが目に入ったのも何かの縁だと改めて気になっている。

※「つばさ」役の多部美華子が気になっているのではないことは蛇足ながら付け加えておきます。全く蛇足。

鎌倉の偶然

2009-11-09 23:59:59 | Weblog
少し寝坊した。「気になる」と書いておきながら、「結局見られませんでした」という報告もしたくないから昼下がりの東京駅から横須賀線に乗って鎌倉に出かけた。勿論、遅い昼食と少しの酒をいつものとおりトートバッグに納めて車窓を眺めながらプルトップを開ければ、すっかり休日気分だ。ひとつ手前の駅で降りるように勧められていたから、北鎌倉で下車してバザーのような小さな市を覗いて何も買わずに樽に入った地ビールだけを飲んで鎌倉へ向けて歩き始めた。行楽シーズンだけに人が多い。少し暑いくらいの陽気の中をしばらく歩いて近代美術館の敷地に入ると意外と人が少なかったので、少々拍子抜けしながらチケットを購入した。
麻生三郎のことも知らないで、わざわざ鎌倉まで展示を見に来たというのも間抜けな話だけれど、入ってすぐ、二つ目の小品が目に入った時に間は抜けてはいなかったと思い直した。最終日も近い週末にもかかわらず、ガランとした展示室をゆっくりと見たいものを見たいだけ思いのままに見る。ジャコメッティについての解説を読み、麻生三郎の親族から寄贈された展示品の他に、矢内原家から寄贈されたコレクションもあるということを初めて知る。そして、第二展示室にはベン・シャーンの『マルテの手記』の版画が並んでいた。自分にとっての矢内原伊作は実家にあった『リルケの墓』がきっかけだったから、麻生三郎がきっかけで来た鎌倉でジャコメッティと矢内原伊作、そしてリルケがつながった偶然に一人喜んだ。
閉店間際の喫茶室のテラスでいつもの通りにコーヒーを頼んだ。既にオーダーを締め切った店の端でスタッフがチョコレートケーキでコーヒーを飲んでいるのが見えた。会計をしようと立ち上がると談笑していた三人が立ち上がった。何だか可笑しい。外を見ると少しだけ陽が傾いた空に鳶が高く旋回しているのが見えた。まだ展示が残っていることを思い出して早足で階段を下りた。階下にはセザールの彫刻があるらしい。ちょうど一年前のパリで見たことを思い出して偶然の連なりにもう一度喜んだ。

※その後に立ち寄ったLongTrackFoodsでは、相方が知り合いに偶然出くわしていました。やはり何か偶然の縁があるのかもしれません。