イサムノグチ庭園美術館を見た後、友人が近くにある八栗山ケーブルカーのそばに小さなおでん屋があるから行ってみるかと訊いてきた。詳しく聞けば、イイダコのおでんだけを出す店らしい。反対する理由もない。細い坂道を車で登っていくと、鳥居とケーブルカーの事務所が見えた。その先に平屋の小さなおでん屋を見つけたが、どうやら営業時間を過ぎているようだ。
友人が店に入って二言三言交わして、「入れる」とおでんの皿を持って外に出てきた。四角い皿に串に刺さったイイダコ、その脇には辛子味噌がたっぷり添えてある。店内の小上がりに腰かけておでんを頬張り、熱い茶を飲んでいると、店内のガラスのショーケースに小さなバラ寿司の皿が見えた。気になったけれど、最後の一皿を5人の男で分け合うのもどうだろうかと思い直して諦めた。この時期はアナゴが具に入っているらしい。柔らかくもしっかりとした滋味に満ちたタコのおでんはあっという間に腹の中に消えた。何か追加を頼んだら、きっと酒が飲みたくなってしまうだろう。
店を出て、友人の運転で宿に向かう。すっかり日も暮れてきた。晩酌のことを思い浮かべながら、イイダコの味を思い出し、やはりバラ寿司も食べるべきだったかと、心の中でひとりごちた。
※八栗山ケーブルカーは昭和40年開業。今も当時と同じ車両で運行しています。イサムノグチ庭園美術館とセットで訪れるべき場所ですね、ここは。