霞ヶ関の駅を出て仕事場のある虎ノ門に向かう途中にある飯野ビルを通りがかると、数ヶ月前までは開いていたシャッターが全て下りてしまっている。このビルも建て替えになるのだろうかと思いながら通りの向かいを見ると、道路を挟んだ経済産業省の別館も工事の真っ最中だ。丸の内で見た建て替えの波が全く関係ないと思われた霞ヶ関までやって来ているのだろうか。
少し前の新聞に化粧品会社が衣料品部門から撤退する記事が目に入ったと思ったら、数日後には日本橋の老舗書店の洋品部から店を閉じるというお知らせの葉書が届いた。どちらの店も数回しか訪れたことはない。それらの店がある日本橋から銀座を歩くと、目に入るのは林立する不思議な形のビルと、そのテナントであるハイブランドのショップばかりだ。銀座に行く度、どうにも不思議な気分にさせられる。特に銀座という街に強い思い入れがあるわけではないけれども、こうした変化が世界水準であるならば、自分は世界水準についていく自信がないと思わされてしまうのだ。昨今の「昭和」礼賛についていけるほど歳をとってはいないけれど、建物が竣工した時代の夢を現しているとするならば、取り壊されつつある、かつての建物が抱いていた夢の方が自分にとっては健康に思える。
先日、銀座のニコンサロンで民俗学者の宮本常一の写真記録を見る機会があった。ハーフカメラで撮られた60年代を中心とした地方の暮らしを写した写真は勿論、面白かったが、宮本が15歳のときに就学するため住んでいた島を出るにあたって父親から送られた言葉に興味を引かれた。始めにこう書かれていた。一部を抜粋する 「田や畑に何が植えられているのか、育ちがよいか悪いか、村の家が大きいか小さいか、瓦葺か藁葺きか、そういうことを良く見ることだ。駅に着いたら人の乗り降りに注意せよ。そしてどういう服装をしてるかに気をつけよ。また、駅の荷置き場にどういう荷が置かれているかも良く見よ。そういうことでその土地が富んでいるか貧しいか、良く働くところか、そうでない所かよく分かる」。自分のような者でさえ決して健康とは思えない今の東京の街並みは、果たしてどのように映るのだろうか。隣のライオンビアホールの変わらない建物と賑わいの中で冷たいビールを飲み干し、そんなことは暫く忘れよう。
少し前の新聞に化粧品会社が衣料品部門から撤退する記事が目に入ったと思ったら、数日後には日本橋の老舗書店の洋品部から店を閉じるというお知らせの葉書が届いた。どちらの店も数回しか訪れたことはない。それらの店がある日本橋から銀座を歩くと、目に入るのは林立する不思議な形のビルと、そのテナントであるハイブランドのショップばかりだ。銀座に行く度、どうにも不思議な気分にさせられる。特に銀座という街に強い思い入れがあるわけではないけれども、こうした変化が世界水準であるならば、自分は世界水準についていく自信がないと思わされてしまうのだ。昨今の「昭和」礼賛についていけるほど歳をとってはいないけれど、建物が竣工した時代の夢を現しているとするならば、取り壊されつつある、かつての建物が抱いていた夢の方が自分にとっては健康に思える。
先日、銀座のニコンサロンで民俗学者の宮本常一の写真記録を見る機会があった。ハーフカメラで撮られた60年代を中心とした地方の暮らしを写した写真は勿論、面白かったが、宮本が15歳のときに就学するため住んでいた島を出るにあたって父親から送られた言葉に興味を引かれた。始めにこう書かれていた。一部を抜粋する 「田や畑に何が植えられているのか、育ちがよいか悪いか、村の家が大きいか小さいか、瓦葺か藁葺きか、そういうことを良く見ることだ。駅に着いたら人の乗り降りに注意せよ。そしてどういう服装をしてるかに気をつけよ。また、駅の荷置き場にどういう荷が置かれているかも良く見よ。そういうことでその土地が富んでいるか貧しいか、良く働くところか、そうでない所かよく分かる」。自分のような者でさえ決して健康とは思えない今の東京の街並みは、果たしてどのように映るのだろうか。隣のライオンビアホールの変わらない建物と賑わいの中で冷たいビールを飲み干し、そんなことは暫く忘れよう。