力士が常人に卓絶した体力を得るに至るのも、決して先天的の約束ばかりで然るを得るのではない。能く心を以て気を率い、気を以て血を率い、血を以て身を率いる男が即ち卓絶した力士になるのである。無論先天的のもの即ち稟賦というものがある事は争えぬ事実である。しかし後天的のもの即ち修行というものでどの位に変化が起るかは、範疇の定まって居らぬ事である。祐天顕誉上人の資質は愚鈍であった。しかし心を以て気を帥(ひき)い、気を以て血を帥い、終に碩徳となったのは人の知って居る事である。
「努力論」幸田露伴著 岩波文庫 1940年
富翁
「努力論」幸田露伴著 岩波文庫 1940年
富翁