〈川俳会〉ブログ

俳句を愛する人、この指とまれ。
四季の変遷を俳句で楽しんでいます。「吟行」もしていますよ。

拾い読み備忘録(65)

2016年03月12日 17時49分46秒 | エッセイ
 類推は接触反応剤に関するものであった。前に述べたふたつの気体が白金の網を加えると化合して亜硫酸ができあがる。この化合は白金が在る場合にのみ起こる。それにもかかわらず、新たに出来あがった酸には白金はまったく含まれていない。白金自体は明らかに影響を受けていない、化学変化をおこさず、中性のままで、変化していないのである。詩人の精神はこの白金の網である。それは詩人自身の経験に対して部分的に、あるいはそれだけに限って、作用するのかもしれないが、その芸術家が完全であればあるほど、それだけ完全に彼のなかで苦悩する人間と創造する精神とが別個のものであるはずであり、精神はそれだけ完全にその素材である情熱を消化し、変化させるのである。
 この経験、あるいは変化させる触媒がそこに存在するために化合を起こす要素は二種類ある。すなわち情緒と感情である。芸術作品がそれを楽しむ人に及ぼす影響は芸術には属さないいかなる経験とも種類を異にする経験である。…・・
(「伝統と個人の才能」より)
「T.S.エリオット詩論集」星野 徹・中岡 洋訳/国文社 1967年
                           富翁
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