和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

「歳月は勝手に来て勝手に去る」

2018-07-05 | 手紙
山本夏彦著「『室内』40年」(文芸春秋)に
「美人ぞろい才媛ぞろい―――社員列伝」という章あり。
繰り返して、これが読んで飽きない(笑)。

山本夏彦編集長と、女性編集者との
やりとりの丁々発止。たとえば

山本】 ・・・しかるに人は年をとれば利口になると思っている。
『歳月は勝手に来て勝手に去る』っていうのは私の十八番です。
そうでしょ、あんたの歳月だって勝手に来て勝手に去ったじゃ
ありませんか。

女編集者】ー-まだ去ってません(笑)。

山本】でもさ(笑)いずれは去るよ。
歳をとるのは体だけで、心はとらない、
女性は永遠に十七です。・・・・(p157)


こんな感じのやりとりがありまして、
ちょうど手紙の箇所がありますので
その少し前の女性編集者の言葉から引用。


女編】 一流なんて思ってやしません。

山本】私でなくちゃあんたのよさなんて認めてくれないよ、
堪えがたきを堪え忍びがたきをを忍び、内なる才を発見し
てくれるなんて人はいないよ。
いくら恩に着せても着せたりないくらいだ。

女編】 私に恩を着せるんですか。

山本】 もちろんです。あんたが私に着せるんですか。
本題にもどって、
商売の手紙っていうのは十か十五種類しかないんです。
『ハガキ編』と『手紙編』に分けたってたいしたことない。
見本通り書けばいいのにそれがイヤで一枚のハガキを
書くのに一日かかっている新卒(男)がいた。
学校でまねはいけないと教わって育っている。
そんなところにオリジナリテなんて出せやしません。
用が足りればいいんです。モデル通りに書いているうちに
退屈して一言つけ加えるようになる人がある。
それから先はその人次第です。
ご新著を拝読しましたとか、
この間の個展拝見しましたとかね。
ひとこと添えるとそのハガキがにわかに生彩を帯びる。
せっかく見たんだから言えというのに
言えない人が多い。言わない人が多い。
相手は大家でこっちは新卒のお使い、
このひと言で、振向いて編集者として認めてくれる。
というより『人』としてみてくれる。
『室内』の編集部は私がほめなくても、そとでほめられる。

女性】 いえ、今回は山本さんご自身が、
ほめて下さる約束でした。

山本】 そうでしたか。・・・・(p160~161)


この章は、切実だったり、なかったり。
「室内」編集部の内幕に触れたりして、読み過ごせず、
そういう意味の愉しみがありました。ついつい引用が
長くなってしまいそうなので、ここまで(笑)。


コメント
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