通し狂言 『そめもようちゅうぎのごしゅいん』 (二幕)
細川の男敵討 (ほそかわの かたきうち)
満足度 カブキとして・・・★★☆☆☆
〃 演劇として・・・・★★★★☆
三世河竹新七 作
今井 豊茂 脚本
奈川 彰輔 演出
前田 剛 美術
柏倉 純一 照明
出演者 イチカワ ソメゴロウ
カタオカ アイノスケ
ウエムラ ヨシヤ
バンドウ シンシャ
オモダカ屋の一部の役者さん(複数名) 他
ソメゴロウさん、アイノスケさんの『そめもようちゅうぎのごしゅいん』を観る。
今回もしょうちく座。開演を待つ人は平日ということもあり、いつもよりは心なしか少なめ。
ソメゴロウさん、アイノスケさん、オモダカ屋さんの出番とあってか、いつもより平均年齢が若く感じる。
この作品は『蔦もようちぞめのごしゅいん』という外題(別名)で、明治22年に初演された歴史的には新しい演目。
衆道(男色)内容があったり 本物の火を使う為、火事問題の解消ができなかったために 長い間演じられなかったとパンフレットに書かれていました。
さてさて『そめもようちゅうぎのごしゅいん』は漢字にすると奇数七文字。決まりごとともいえる奇数文字に添った名づけ方。その制約の中にソメゴロウさん、アイノスケさんの『染』と『愛』を含ませるなんて、なんて心憎いこと・・・・・・
あらすじはここでは詳しくは省かせていただいて、凝り固まった感想だけを書きなぐらさせて頂きます。失礼があればお許しください。
講談師が好口調で語りだし、オモダカ屋さんたちが演じる。
しばらくしてソメゴロウさん扮する友右衛門が数馬(アイノスケさん)に見初め、互いに見初め・・・・・・ここでも素敵な講談師が名調子。
数馬(アイノスケさん)はものの見事に美しい美青年。
藤紫の着物が上品で目を奪われる。
手には一輪の杜若。
それに比べて初めは化粧も薄く控えめで、装いもまあまあの友右衛門(ソメゴロウさん)。
そして見染め合い、二人は結ばれる・・・・・・
いわゆる『見染めの場』というやつです。
二人は幕の内側で着物を脱ぎ捨て、少し愛し合う。(後は想像といった余韻を残す舞台)
例外なく『濡れ場』に移るんですね。
このシーン、美しくもあり、アングラ的でもあるが決して品が悪くならないのはコウライ屋さんとマツシマ屋さんの風格なのも知れない。
そして数馬の親の仇の為に、兄弟の義を結ぶ。
互いの左手首に傷を付け、傷をこすり合わせ、最後に友右衛門が数馬の傷をなめる。
文章にしてしまえば小汚く 少々エロチックですが、二人の演じ方は美しい・・・
そして『仇討ち』
この仇討ちってのは昔はとかく英雄視される。
主君の細川候は二人の仲を認め、親の敵討ちを手助けする。
ここのシーンの細川候のかすかな含み笑いはなんとも見事・・・・・・
かなりの余韻と隠微な世界をかもし出す。
余談ですが・・・・・・
途中で出てきた親の仇演じるのはオモダカ屋のエンヤさん。
人二人を殺した後に『かごのつるべ花街酔醒』のように
「○○のつるべは(よく)切れるなあ~~」 (名刀の名前は忘れちゃいました。)
と睨みをきかされ陶酔。
(なおかごのつるべの方は 「かごのつるべは(よく)切れるナァ・・」 が決め台詞です。)
エンヤさんって面白い演じ方で楽しいですね・・・・・・
キタ、キタ~キタ~~
キチエモンさんを思い出してしまい、私的には面白かった。
いわゆるツボにはまったというやつです。
さてと、本題に戻りまして・・・・・・
花道から四人。『カブキおどり』で華やかなこと、おかしきことこの上なし・・・・・・
このおどりは『どんつく』や『お祭り』『いもほり長者』のように横につらねて にぎやかに踊る。観ているこちらも心が騒ぐ・・・・・・
『そめもようちゅうぎのごしゅいん』はカブキの面白みの凝縮版。
ただし本来のカブキから考えると、若干の物足りなさは感じないでもない。
そしていよいよ待ってましたの火事場。女の嫉妬と男の悪あがきによる細川邸の大惨事。怖いですねぇ~
この火事の表現が見事。
光を跳ね返す舞台の緞帳(どんちょう=幕)の大きさの幕にレッドライトを当て幕を動かす。
舞台全体が火事場。
劇場(観客頭上)の上からはスモーク。
左から右から、上から下から合計五回。
好口調で語っている講談師が咳き込むといった演出ぶり。
またもや上からはアカのきらきら(テープの切った)火の粉がこれぞとばかりに降ってくる。
そこに真っ赤のライト屋やスモークでこれでもかこれでもかの演出。見事な痛々しい火事現場・・・・・
花道からはまるまると着込んだ火の粉をおった(電球)ソメゴロウさんの名演技。
立体舞台の火事場に上がったり降りたり、でたり入ったり・・・・・・
実際あのような第三次に出くわしたならば、人間はあのようなうろたえ方をする場合もあるかもわからないといった演じ方。
素晴らしい・・・・・・
彼は立体舞台の上で息も絶え絶えの中、御朱印を見つける。
とっさに彼は自らの腹を掻っ捌き、臓物を出す。
「これが肝臓、これが腎臓、これが大腸。
三つ合わせて これが本当のかんじんちょう。」
キタ、キタ~キタ~~
コウシロウさんのかんじんちょうが好きで名古屋まで行った私。もう我慢の限界。
息子のソメゴロウさんのための講談師の台詞だと思うと、笑い(好み)のツボにはまり込んでしまった。 (かんじんちょう感想↓)
http://blog.goo.ne.jp/usuaomidori/e/283b1b666620c985cbf5e7923265bcdb
そしてぽっくりと空けたおなかの中に御朱印を入れて、守る。
正義感と『忠義』で彼はこの世を去る。
火事場も落ち着き、皆が友右衛門を探す。
彼の死を知った数馬(アイノスケさん)はひらひらと歩き、友右衛門の姿を求める。
舞台上からは一輪の杜若が降りてくる。
数馬は友右衛門との出会いの思い出の杜若をまるで友右衛門であるかのように胸に抱く。
数馬(アイノスケさん)の上では友右衛門(ソメゴロウさん)が手を差し伸べていた・・・・・・
アイノスケさんは今回もお美しく素敵でした。
何度も装いを変えられたり、難しい役柄をそつなくこなされていました。
ただ 今回に限りメイクの違いからか、アイノスケさんがニザエモンさんのお顔立ちに似ておられなかったのが、少し残念。
役柄必然的になされたメークっていうことはわかってるんですが・・・・・・
関心した点は次の四点。
① 『見染め』『濡れ場』『あだ討ち』『忠義』
などがたっぷりと堪能できる。
『そめもようちゅうぎのごしゅいん』はカブキの醍醐味の凝縮であるかのような演目。
② お二人が美しい。難しい役柄を見事にこなしておられた。
③ 舞台づくりの見事さに目を奪われた。
最近では油絵と日本画の境目が難しいように、カブキからいい方向で脱した 一歩間違うと難しいであろう 斬新な演出。
④ 先ほど書いていました『それに比べて初めは化粧も薄く控えめで、装いもまあまあの友右衛門(ソメゴロウさん)』の続きですが・・・・・・
ソメゴロウサンは場面や出世に従い、メイクと表情と装いが変わっていく。
初めは控えめのソメゴロウサンの目張りがだんだんきつくなっていく。
素敵。
そして目力やみえの切り方がコウシロウさんっぽくなっていく・・・・・・
こうなるとインパクトは強い。
まだまだ若いソメゴロウさんですが、素敵な役者さんだなあと今回も思ってしまいました。
全体を通して笑いと涙を織り交ぜた芝居で、カブキをこれから見てみようと思う人にとっても 楽しめるわかりやすい内容。
またカブキ歴の長い方にとっても劇中劇のパロディやちょっとした表情が余韻を残す感深い作品。
三十一文字の折り紙の言葉も美しく、『大川、小(こ)川』といった掛詞も見事。
最後のアイノスケさんが朦朧としてさまよい、杜若を見つけ抱く場面は、先日観た能楽の『杜若』の業平を思う花の精を思い浮かべた。
『杜若』 感想↓
http://blog.goo.ne.jp/usuaomidori/e/7c324a87cb5db6b80310e6e43712821d
最後の切り口があまりにも見事で感慨深く、私の場合は最後には涙があふれ出ていた。