うさとmother-pearl

目指せ道楽三昧高等遊民的日常

アッカンベー その3

2006年01月23日 | ことばを巡る色色
アッカンベー その1 
アッカンベー その2 

姫はじっと待った。
アッカンベーのあの子がやってくるのを。

確かに変だ。アッカンベーされるのを待ってるなんて。
でも、あの子に聞かなければ、
なぜ私はアッカンベーをされなければならないの。
私の何が間違っているの。私の何が「非」だというの。
みんなが私を讃える。私を羨む。私を愛する。
私はそれに応える姫として生きているわ。

もし、私そっくりなあの子が私なのだとしたら、
私はなぜ、アッカンベーをしているのかしら。
私は今まで誰も、羨んだり、軽蔑したり、貶めたりしたことはないわ。
みんなが私を讃える。私を羨む。私を愛する。
私はそれに応える姫として生きているわ。

そうして、その日が来た。
姫が城の西翼にある、図書室で昔々の語部が伝えた話を読んでいたとき、
書架の陰から、あの子がひょいと顔を出し、アッカンベーをしてきた。
「お待ちなさい。消えてしまわないで。私はあなたと話がしたいの。」
夕陽を背にしたあの子の肩が、ギクリと上がるのが、見えた。
あの子は懐からなにやら取り出し、さらさらと書き付けた。
そうして、軽くピッチングフォームをしたかと思う間もなく、書庫の奥に消えてしまった。
一人ぼっちに残された姫の目の先に、あの子が飛ばした紙飛行機が
黄色の光の中でふんわりふんわり浮かんでいた。

akan@bay.com

ヨモギ草のような匂いのする紙を開くと、ただそれだけが書かれていた。  つづく
コメント (4)
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