中学1年の秋の夕暮れ、学校北のコンクリートブロック塀のところに、ちょっと来てよと同級生に呼び出された。
同性の彼女と一体私はどれだけ仲が良かったか、どれだけ話をしたか、私は覚えていない。
日没前の空は青と紺が混じりあい、少し冷たくなりかけた空気は淋しくて、帰る場所がわからなくなりそうで、悲しくて懐かしい時間だった。
その子は、もうこの学校には来ないんだ、と言った。
転校するんだよね、と言った。
それはたぶん、明日なり明後日なりには皆に告げられることだろう。
私は、もう会えないんだね、と答えた。
それ以外に言うべき言葉も気持ちも持っていなかったからだ。
泣いて別れを惜しむほどの仲でもないはずだし、
でも、寂しい思いをしているという顔をしなければ彼女に悪いと思った。
他の人に言ってないんだけどね、
と彼女は続けた。
それでも私は、彼女が私だけに彼女の「言えないこと」を言う理由はわからなかった。
そこにある彼女の「ひみつ」を想像することもできなかった。
私はね、と彼女は夕焼けの空の方だけを見て言った。
その時、彼女が「韓国人」と言ったのか、「朝鮮人」と言ったのか「在日」と言ったのかさえ、
私は覚えていない。
彼女たちの民族の学校が県内にもあるらしく、そこに転校するよう親が決めたという。
彼女にとってそれがどれだけの重みをもった告白だったか
その時の私は全く分かっていなかったし、今もそうだ。
彼女と私がどんな仲だったか思い出せもしない私は
あの時も今も、なぜ告白の相手に選ばれたのかわからない。
そうか、大変だよね。
多分そんなようなことを答えた。
彼女は告白できたということに、どこか満足したように、その場を去り、学校を去った。
誰にも本当のことを知られず去っていくということにしたくはなかったのだろう。
誰かには言っておきたかったのだろう。
その相手に私を選んだのは、彼女の錯覚かもしれないし、
彼女がわたしに感じた何かがあったのかもしれない。
名も覚えていない彼女。
あれからどうやって生きていったろうか。
私は大人になって、あなたに告白されたようなことが何度かあった。
突然、なぜ自分が選ばれたかわからぬ中で、重い告白をされたことがね。
自分が、告白の相手にふさわしいのかもわからぬのだけどね。
その重さがどれだけのものかわからぬ中でね。
重さがわからぬとも、それを私も抱えていくのだね。
同性の彼女と一体私はどれだけ仲が良かったか、どれだけ話をしたか、私は覚えていない。
日没前の空は青と紺が混じりあい、少し冷たくなりかけた空気は淋しくて、帰る場所がわからなくなりそうで、悲しくて懐かしい時間だった。
その子は、もうこの学校には来ないんだ、と言った。
転校するんだよね、と言った。
それはたぶん、明日なり明後日なりには皆に告げられることだろう。
私は、もう会えないんだね、と答えた。
それ以外に言うべき言葉も気持ちも持っていなかったからだ。
泣いて別れを惜しむほどの仲でもないはずだし、
でも、寂しい思いをしているという顔をしなければ彼女に悪いと思った。
他の人に言ってないんだけどね、
と彼女は続けた。
それでも私は、彼女が私だけに彼女の「言えないこと」を言う理由はわからなかった。
そこにある彼女の「ひみつ」を想像することもできなかった。
私はね、と彼女は夕焼けの空の方だけを見て言った。
その時、彼女が「韓国人」と言ったのか、「朝鮮人」と言ったのか「在日」と言ったのかさえ、
私は覚えていない。
彼女たちの民族の学校が県内にもあるらしく、そこに転校するよう親が決めたという。
彼女にとってそれがどれだけの重みをもった告白だったか
その時の私は全く分かっていなかったし、今もそうだ。
彼女と私がどんな仲だったか思い出せもしない私は
あの時も今も、なぜ告白の相手に選ばれたのかわからない。
そうか、大変だよね。
多分そんなようなことを答えた。
彼女は告白できたということに、どこか満足したように、その場を去り、学校を去った。
誰にも本当のことを知られず去っていくということにしたくはなかったのだろう。
誰かには言っておきたかったのだろう。
その相手に私を選んだのは、彼女の錯覚かもしれないし、
彼女がわたしに感じた何かがあったのかもしれない。
名も覚えていない彼女。
あれからどうやって生きていったろうか。
私は大人になって、あなたに告白されたようなことが何度かあった。
突然、なぜ自分が選ばれたかわからぬ中で、重い告白をされたことがね。
自分が、告白の相手にふさわしいのかもわからぬのだけどね。
その重さがどれだけのものかわからぬ中でね。
重さがわからぬとも、それを私も抱えていくのだね。