汗に濡れた制服のすそを、初夏の風になびかせ、薫は、ポケットに手を突っ込んで、暗い路地を、ひとり、トボトボと歩いている。白い粉のようなものが、そこだけを照らすLEDの街灯の下を、薫は、うつむいたまま通り過ぎる。その顔は、深い疲労と、LEDの光で明暗が強調されたためとで、白い能面のように、無表情に見える。いくつかの白い粉のなかを過ぎて、薫は今日初めて、顔をあげた。行く手の角に、コンビニの明かりがある。薫は、仕事の間じゅう、帰りはコンビニに寄ることだけを、考えていた。今、薫の目の前で、スッと自動ドアが開く。流れてくる店内のニオイが、薫の目を覚ます。瞳に輝きが戻って、一直線に、薫はスイーツの棚へと歩み寄る。脇の小ぶりな買い物かごを、ほとんど見ることもなく手に取り、薫は、スイーツの棚の一点を凝視する。その顔がほころぶ。安堵の溜め息がもれる。誰に遠慮することもなく、薫は自分の手を伸ばして、昼間そのことばかりを想っていた、定番の菓子をそっとにぎる。売れてしまっていないか不安だった。それが今や、確かに自分のものなのだ。まだ買ってもいないが、心の中の何か張り詰めたものが、ほどけていく。二個目を手に取り、三個目に手を出したが、これは食べきれない。同じ過ちは犯すまいと、薫はあえて菓子から目をそらし、飲料のほうへ向かう。その菓子にはコレというものが、薫にはある。突然、薫は足早になった。そのコレというものも、また競争率が高いのだ。胸が高鳴る。冷蔵庫の棚を見上げたその先に、あった。薫は、思わず笑ってしまう。職場の誰かに会うという心配はない。だがもし会えば、たぶん、薫とは分からないだろう。息をしている。薫は思った。高校の嫌なプールの授業で、潜水の試験があった。あの水から身を出すときの必死さ。開放感。薫はあの日、自分が息をしているのを知った。会計をピッと済ませ、店を出る。なんだろうこの身の軽さは。部屋へ駆け込むことすらも、できるじゃないか。薫は、汗で濡れた制服のまま、机の上に菓子などを広げ、その前に座る。この光景を、昼間どれだけ空想しただろう。我慢なんかできやしない。ひとくち。甘い香りが、口と鼻いっぱいに広がる。んんんんっ!。そしてすかさず飲む。くぅぅぅっ!。「コレ!」と薫は言う。「コレ!」。全身に血が巡る。体が熱い。愉快だ。生きてると、薫は思う。一八〇に薫の年齢を掛ける。この世で薫が生きた時間。
天塩中川って
言うくらいだから、
天塩方面でいいだろう。
そう、
札幌近郊なら、
そんなアバウトな感じで
たどり着ける。
でも
忘れてたわけじゃないが、
ここは道北。
道北ジャングル。
天塩大橋渡ったとこ。
これ右へ行ったのが
迷子の原因でした。
でも天塩中川ったら、
右へ行くだろ……
正解は直進でした。
六十の手習いとか
言うけどさ。
ひとつの学んだ。
道北では、
地名じゃなく、
道路の種類と番号
(国道40号とか
道道121号とか)
で走れ!と。
が、しかし、
これも確たるものでない。
というのも、
国道や道道の重複区間が
ザラにあるから。
地図上は40号線でも、
道路の看板は
275号線しかないとか。
あと同じ国道が
平行して2本走ってる
とか。
名古屋や大阪の道路が
初見者泣かせだと
言われるけど、さ。
そのレベルじゃない(笑
名古屋や大阪の道路は、
曲がれなくても死なない。
道北は、
曲がるべきところで
曲がれないと、
下手すれば死にます(笑
前回はたまたま
岬センター
なるものがあって、
災い転じて極楽
だったんですが。
あれもし無かったら、
激しい疲労の先で、
飯も風呂もなく、
真っ暗な道を
戻らなきゃならなかった。
おまけに
夜中から雨だったし。
あぶねぇ。あぶねぇ。
な……
何を言ってるか
分からねぇことは
ねぇと思うが。
道北ジャングルの片鱗を、
また味わってしまったゼ。