循環型社会って何!

国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

足並み乱れる広域組合

2008年03月11日 | ガス化溶融炉
《読売の記事》
 取手、守谷、常総、つくばみらいの4市でつくる「常総地方広域市町村圏事務組合」(管理者・会田真一守谷市長)のゴミ処理施設建設が難航している。取手、つくばみらい両市議会が、建設・維持管理費が高すぎるとして白紙撤回を求める決議を可決。10日開かれた組合の臨時議会でも、両市の議員が入札凍結を求めるなど一時紛糾した。
 組合は、守谷市野木崎の常総運動公園内にある既存の焼却施設が、老朽化したことから近くに溶融炉を新設する。組合によると、今年度中の着工を目指し、メーカーからの技術提案を受け、昨年11月に溶融炉の型式を決定。2月5日に三井造船とタクマの2社による指名競争入札を実施することにしたが、維持管理期間を巡って、タクマは「20年は長すぎる」と事前に辞退。三井造船は参加したが、5年間を主張したため不調に終わった。
 10日の臨時議会で、執行部は従来の建設・維持管理費415億円から、維持管理費を除いた建設費260億円を改めて提案。しかし、取手、つくばみらい両市の議員から「建設費を抑えるため、溶融炉の型式の選定からやり直すべきだ」との意見が出された。
 管理者の会田・守谷市長は「型式は地元住民の意見を聞いて決めており、型式を見直すならば建設予定地も白紙撤回することになる」「建設がさらにずれ込めば、国からの交付金が受けられなくなる可能性がある」などと反論。執行部は「維持管理は20年より短い期間とし、建設とは別に入札を実施する。建設費もできるだけ抑える」としたうえで、「溶融炉の型式を変えずに再び2社による入札を行う」と再提案し、了承された。組合の松崎重勝事務局長は「今年度中に入札を行い、契約を結びたい」と話しているが、入札の結果次第では、取手、つくばみらい両市から再度異論が出ることも予想される。       (2008年3月11日 読売新聞)
 
 茨城県南央部に位置する取手、守谷、常総、つくばみらいの4市は1972(昭和47)年3月31日、一部事務組合・「常総地方広域市町村圏事務組合」(以下組合)を設立しています。
 環境プラント業界全体の収益性が低下したといわれて数年が経っており、黒字を出しているのは三菱重工業だけと書いている専門誌もあるほどです。ガス化溶融炉の受注もかなり下火になっているにも関わらず、組合がなぜキルン型ガス化溶融炉だけに機種を絞ったのか、まず疑問です。仮に機種をガス化溶融炉に決める場合でも、新日鉄のコークスベッドか荏原製作所の流動床型を選ぶのが昨今の傾向で、それだけ相対的にキルン型の評価は落ちているのです。

◆メーカーの危機感
 さて、読売の記事で特に目を引くのは「(組合傘下の)取手市とつくばみらい市の両議会がごみ処理施設の建設・維持管理コストの高さを理由に白紙撤回を求める決議を可決した」という一節です。これまで組合議会の決定事項を個別の自治体が覆すなどという事例はまず皆無でした。 東京二十三区清掃一部事務組合などは議論どころか、清掃行政についての知識もないアテ職の議員がロクな質問もできないまま数百億円という施設建設の案件を「異議なし、異議なし」で通してしまう有様です。
 ともかく記事の背景が知りたくて組合に電話をかけ、事務局長につないでもらったのですが、事務局長は「いま忙しいんだ!」と怒鳴って一方的に切ってしまいました。それだけ事態が混乱していたとは思うけれど、善意の第三者に八つ当たりすることはない。そこで再度電話をし、「どんな事情か知らないが、いきなり電話を切るなど非礼きわりない話」と文句をつけたところ、その職員は恐縮し、今度は財務担当の課長につないでくれました。 以下はその課長から聞いた話の要約です。
① 現在の焼却炉(117t×3)は築20年で、更新の必要に迫られており、機種選定委員 会がキルン型ガス化溶融炉を選んだ。そこで三井造船とタクマによる指名競争入札を実 施することとした(規模は将来ごみ排出量予測から86t×3と縮小している)。
② 記事の中で維持管理期間と表現しているのは長期包括運営委託のことで、設定の20 年は長すぎるとしてタクマが降りた(津川注:通常の運営委託は15年程度が多い)。三 井造船は5年を主張し、交渉は不調に終った。
③ 二つのメーカーが慎重な姿勢を示したのは、建設からランニングまでの期間が長いと 変動費(人件費や燃料費など)の高騰が避けられないとする危機感からである。特に本 年(08年)2月5日付の日経JFE記事が響いた(津川注:日経記事によるとJFE 今期の純利益は13%減。理由は複数のごみ処理施設で契約期間中の損失が大きかった
 からという)。  
④ 3月10日の臨時組合議会で、焼却炉258t、粗大ごみ処理施設127t、これに旧 炉の解体費を加えた260億円(当初の総費用から維持管理費を除いた額)を提案した が、取手、つくばみらい両市の選出議員から「建設費を抑えるため、溶融炉の型式の選 定からやり直すべき」との動議が出された。

◆組合内の内部事情
これら一連の経緯について取手市とつくばみらい市の議員にも確認しました。
 まず取手市のT議員の話。
「組合の思惑は年度内に本契約までもっていきたいということです。組合管理者は会田真一・守谷市長で、清掃工場も守谷に建設します。おかしいのは組合議会が昨年(07年)11月に決めた415億円の債務負担行為にもとづいて先月(2月)はじめ、強引に契約まで持っていこうとしたことです。それがメーカー側の事情で不調に終ったため、先日の議会では『425億円の債務負担行為はいったん凍結させ、新たに260億円の債務負担行為を行なう』という議案を提出したのですが、さすがこれは継続審議になりました。しかし組合は『415億円は凍結しただけであり、金額はそのまま生きている』といい、それを根拠に再契約を行なうというのです。まさに強引な話ですが、それが管理者である守谷市長の姿勢なのです」。

◆先行き不透明
 ダイオキシン対策と称して旧厚生省が「ごみ処理広域化計画」を公表し、国庫補助の大盤振る舞いをしたのは1997年のことです。いわゆるダイオキシン特需で、1998年から2003年の5年間がその時期でした。何とその時期、27ものプラントメーカーが焼却炉・溶融炉市場に参入し、空前の受注フィーバーを展開したのです。
 ところが次の5年間(2004年から今日まで)でそれらのメーカーは想定外の事故・トラブルと維持管理費の高騰に見舞われることになりました。 その殆どが瑕疵担保期間であったため、大半のプラントメーカーが修理・補修に多額の出費を余儀なくされ、気がついたら企業本体の足を引っ張るという事態になったのです。 先の日経記事(JFEの損失決算)はその典型でしょう。
 同じことが自治体側についてもいえます。国庫補助や交付金をうまく獲得して立派な施設をつくったはいいが、施設の維持管理コストが財政を圧迫する新たな要因になる。そのことにようやく気づいたということです。少しでも財政負担を軽くする手段として注目されているのが長期包括運営委託ですが、プラントメーカーにとって必ずしも旨みのある方式といえるのかどうか。常総組合の“内紛”はその辺の事情を垣間見せているようです。 


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