循環型社会って何!

国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

勝たせすぎ!

2012年12月20日 | その他
◆見事な争点隠し
 12月18日朝、医院の待合室で1週前の週刊朝日をめくっていたら、ややショックなページにぶつかった。室井 佑月という作家が書いた小文である。同誌がいま手元にないので記憶だけの引用だが大要は以下のとおり。
 「数日前、朝のワイドショーでMCが『原発に反対』と発言したら局内で問題になり、数日後『不適切な発言があったこと』をお詫びした。そのMCは『原発に反対だから〇〇党を支持』といったわけではないのに」。
 すでに自己規制ムードがはじまっていたのである。それで気付いたのだが、近所のスーパー内に書店があり、一つの書棚いっぱいに原発本がズラリと並んでいた。全部で30冊ほどあったろうか。ところが総選挙ムードの高まった11月初旬ごろから尖閣を中心とする領土問題、中国の横暴、北朝鮮の脅威などなどの本にスッカリ入れ替わっていた。選挙の争点は景気、外交、憲法問題に収斂され、原発問題はエネルギー問題一般に埋没させられていた。
 室井氏がつづける。「原発問題は焦点というより、この国が抱えてしまった最大の危機である。国民全体が取り組まないで日本の将来はどうなるのか」。
確実にいえることは原発を争点にしなかったことで自民党は「原発推進」をいわずに済んだということだ。その自民党も福島県連では「脱原発」「10基すべて廃炉」を掲げている。ダブルスタンダードの争点隠しだ。
 そんな雰囲気の中で行われた総選挙。結末は何日も前から予想がついていたが、これほどとは―――。

◆数字は数字だが
 土日を除く毎朝6時から文化放送で「吉田照美のソコダイジナトコ=通称ソコトコ」という番組があり、18日火曜日のコメンテーターは畏友内田誠氏であった。氏とは10数年前の日の出処分場建設反対「都庁座り込み現場」で知り合った。
 以下、内田氏による選挙結果の分析である。
まず自民が小選挙区で237議席。これは得票率4割で8割の議席を獲得したということです。しかも小選挙区の投票率は戦後最低の59.32%、約6割の4割ですから2割5分で8割の議席を得たわけです。一方、民主党の得票率は22.8%なのに9%の議席しかとれなかった。比例区の得票率では2009年に民主党は2,984万票をとって政権交代が実現したのですが、今回は926万票と実に2,020万票の減です。一方、自民党は1,880万票でしたが今回は1,662万票と220万票ダウンしています。この数字は自民党が積極的に有権者から支持されたわけではないことを示しています。しかし数字は数字ですから公明党と合わせ325議席と3分の2を超えました。ネジレの参議院で法案が否決されても衆議院で(物理的に)再可決できます。しかも自公で憲法改正の発議が可能となりました。安倍さんの狙いはあくまで9条の改訂です。その前提として96条の改訂を公明に打診するでしょう。3分の2の発議を2分の1に変える。この点について私は公明の山口那津男代表から直接話を聞いたのですが、「9条改正につながらなければ(96条改正も)やむを得ない」との答えでした。 民主党は137議席、2020万票の減。予想以上に大きな墓穴を掘りました。3年3カ月前の期待を裏切ったことに有権者がガックリ、その大きな穴に自民党がスッポリ収まった(137議席)。原発と憲法9条の改正に国民の半数が反対しているのに小選挙区のマジックで原発推進、憲法改正の道がついてしまったわけです」。

◆不気味な翼傘体制
 内田氏の分析にもあるように、今回の特徴は投票率がきわめて低かったことである。10人のうち4人が棄権した。大手メディアが公示日以降「きわめて分かりにくい選挙」と書きまくったことも低投票率の一因である。投票率が下がれば「歩けない病人を背負ってでも投票所に行く」強固な組織を持つ政党が有利になるのは自明の話だ。
 今回は野田という史上空前のペテン師が財務当局の意向を受け、第三極潰しを目的に自爆解散に踏み切った。小沢氏も嘉田さんも解散は年明けと考えていたらしい。未来の比例区名簿騒ぎが起きたのも準備不足が原因である。
 その結果、健全な野党がいなくなり、ウルトラ右翼の石原維新がその間隙を埋めたことで不気味な翼傘体制が出来上がった。
 さらに今回ほど小選挙区制の怖さがモロに出た総選挙もない。それは「死票率」によく表れている。未来が94%、民主の82%が死票になったのに、自民の死票は12.9%でしかない。民主の凋落は自業自得だが、第三極は共倒れになった。死屍累々とはこのことである。この結果を招いた野田は万死に値する。いまごろ「誠に遺憾に、遺憾に存じます」などと党員に向かって謝罪した(19日)というが、植木等じゃあるまいし、まず議員辞職で誠意を示すべきだろう。
今日も自民党の幹部連中はこみ上げる笑いを噛み殺しながら「浮かれてはならない」と自制のポーズをとっている。しかし官僚組織や経済団体の圧力もあって自、公、維新の「やりたい放題」に拍車がかかることは目に見えている。どんな風景が展開するのか。
原発の再稼働が着々と進み、規制委の専門家は淘汰されるか、無意味化される。すでに自民圧勝を背景に電力会社、地元自治体、経済界などによる「再稼働圧力」が強まっている。
消費税は既定方針通りアップされ、
社会保障費や医療費は一段と切り詰められる。その金は防災・減災、インフラ補修などを名目とした公共事業予算に振り向けられ、
国を守れの掛け声で国防費も青天井になる。
安倍、石原、ハシシタのチームプレイで憲法改正への道が現実のものとなる。その余勢を駆って徴兵制も日程にのぼるだろう。マイナンバー制度はその布石なのだ。

◆改憲ファシズム 
 12月20日づけの日刊ゲンダイが「安倍改憲構想」の中身を紹介している。
【自民党の「憲法改正草案」を読んだら国民は仰天するに違いない。たとえば「言論の自由」を保障した21条だ。現行は〈言論、出版、その他一切の表現の自由はこれを保証する〉となっているが、自民党の草案はその規定に〈公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社することは認められない〉という一文を追加している。時の権力が〈公の秩序を害する〉と判断したら、表現の自由は認めないということである】
これを読んでとっさに思い出したのは橋下徹大阪市長がやった一連の市職員弾圧だ。中でも記憶に新しいのは全職員に実施した入れ墨調査で、橋下徹市長が回答の拒否を続ける職員13人に対して回答を求める職務命令を出した。回答期限を命令受領から2週間と設定。拒否した場合には懲戒処分になる可能性があることを明記している。このほかにも日の丸・君が代事件など、橋下は人権侵害にあたる行為を次々に起こしている。
 この男が政権与党に入り、しかるべきポジションについた場合、この国からリベラルな風潮は急速に薄れ、相互監視、リーク社会が現実のものとなる恐怖を覚える。
 環境破壊に反対する住民運動なども起こしにくくなり、石原の「黙れ!」の一喝が党内タカ派を元気づける。「悪い人間が大手を振って当選するのは、投票に行かなかった善良な選挙民が多かったからだ」とはアメリカの格言である。自民党のバカ息子2人が当選し、今回の選挙で石原家の3人がバッジを手にした。悪夢というほかはない。

◆勝たせすぎた反省
安倍政権は12月26日に発足するというが、すでに「物価上昇目標2%」や「10兆円の大型補正」などのスローガンが独り歩きしている。マスコミがアベノミクスとかいって持ち上げるものだから本人もその気になって記者たちのぶら下がりにご満悦だ。だが所詮経済では素人。早くも専門家筋からアベノミクスを危惧する声があがっている。「金融緩和でデフレ脱却ができるなら失われた20年は何だったのか」。「金融政策だけで物価を上げるには建設国債を100~200兆円買う必要がある。しかしそんなことをしたらすぐインフレになって、国の借金は返せるかもしれないが、年金生活者や高齢者の生活を破壊することになる」等など。一度ハイパーインフレが起きたら取り返しがつかないのである。だが日銀は「最初の一歩」に踏み込んだ。
 安倍は円安誘導にも言及するが、これでは大手輸出企業だけが喜ぶだけである。仮に1ドル=100円の円安になれば原油、天然ガスなどの輸入代金が高騰し、ガソリンの値段も上昇するだろう。だが彼らはそれも原発再稼働の口実にするだろう。

 だが嘆いてばかりもいられない。圧倒的権力体制はいつか反抗運動を呼ぶ。政権にとって怖いのは無言の抗議がじわじわと増幅することである。
 自民党、とりわけ安倍の応援団を自任する読売は12月19日付の朝刊1面で世論調査の結果を載せた。「自民の政権復帰に6割好感」の大見出しをつけた上、「安倍氏に期待54%」と小見出しで念押ししている。
 だが同時期に共同通信が行った世論調査では「自民への政権交代に歓迎」は33%、「安倍に期待しない」が44.4%もあった。自民の獲得議席数についても「少ない方がよかった」が52%で、自民に勝たせすぎたと反省している有権者がかなり多いとしている。
安倍自民もこうした「民意」を無視するわけにゆかず、当面は来年夏の参議院選挙対策に全力を上げる方針という。そのために安倍の悲願である憲法改正も封印せざるを得なくなった。
 自民を勝たせすぎた反省を込め、来年の参議院選挙には自公勢力を追い落とす行動を起こさねばならない。










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