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国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

足立清掃工場の水銀事故を検証する(2)

2010年10月14日 | 廃棄物政策
 足立清掃工場2号炉の場合、水銀計が測定レンジを突破してしまったので入った水銀量はいまに至るも不明である。しかしバグフィルターの濾布や触媒を総取替えするほどの被害から逆算すればその量の大きさは想像以上のものがある。改めて誰の仕業なのか。

◆結局誰の仕業か
 ある専門家によれば「(実行犯の探索を)医療機関に限定したらそれ以上進まない。可能性からいえば水銀を扱っている排出事業者の線が濃いので、そこから辿ってゆけば見つかるはず。排出事業者は当然マニフェストを発行するが、搬入業者が偽造したとも考えられる」という。
 水銀は届出物質であり、身分証明書を見せないと購入できない毒物である。取得したら鍵のかかる保管場所が必要だし、払出し記録もとっておかねばならない。使ったあとの廃液は本来水銀を適正に処理できる施設(たとえば野村興産など)へ持ってゆくことが義務付けられている。だが自治体の清掃工場へ持ち込めばキロ10円程度で済むのである。
 少し古いデータだが、兵庫県理化学会がまとめた業者委託の料金表を見ると[無機廃液で有害物質を含むもの=1リットルあたり200~300円、そこに水銀が含まれていると1,000円以上になってしまう]とある。
 先の専門家が続ける。「今回の事件は特別管理産業廃棄物を承知で清掃工場に投棄した悪質な行為であり、制度を改正しても清掃一組は強力な環境指導の権限を持つべきだ」。 
 そんな発言にもかかわらず同じ東京都でとんでもない行為をやった自治体がある。

◆開いた口がふさがらない
 9月2日付の朝日、毎日、東京の各紙は一斉に以下の出来ごとを報じた。
【稲城、府中、狛江、国立市の4市で構成する多摩川衛生組合(管理者・石川良一稲城市長)が昨年末、有害ごみの蛍光灯や乾電池計6.3トンを、燃焼実験の名目で燃やしていたことが1日わかった。燃焼実験は稲城市以外の組合構成市や近隣住民に知らされておらず、3市は組合に強く抗議した。燃焼の際、排気から水銀が検出されたという。
 水銀を含む蛍光灯や鉛を含む乾電池の焼却処分については、廃棄物処理法などの法律では禁止されていないが、極めて異例という。組合(多摩川衛生組合)によると、乾電池や蛍光灯は、業者に処分を委託して北海道のリサイクル施設に運んでいるが、年間の費用約600万円を節約するため、施設内焼却の可能性を検討する目的で実験を計画したという。昨年12月22~25日、乾電池3トン、蛍光灯3.3トンを焼却、排ガス中の有害物質などを測定した。排ガスからは、一般ごみを燃やした場合に出る量を大幅に上回る水銀が検出されたが、「数値はまだ発表できない」としている】
 まさに論評以前の問題で、陳腐ないい方だが開いた口がふさがらない。

◆医療機関に限定
前回で触れたとおり、水銀事故のあと清掃一組と23区の担当部署は連携して聴き取り調査を開始した。対象は収集運搬業者と排出事業者である。収運業者については7月15日から28日の約2週間。排出事業者に対しては7月29日から8月20日までの約3週間というスケジュールだった。
 その進捗状況と具体的な内容を聞くために足立区環境部計画課を訪れたのは8月12日のことである。朝から脳髄が破裂しそうな猛暑の一日であった。
 足立区で許可を与えた収運業者の数は324、処理業者は7。排出事業者については清掃一組とも協議して22の医療機関に絞ったという。
同区環境部の川口弘計画課長によれば「公害関係や環境保全の部署に問い合わせたところ水銀を扱う業種はほとんど無く、昔は皮革業や金属加工業がズラリと軒を並べていたが、ここ20年ぐらいは地方への移転が進み、跡地には高層マンションが建っている」とのことであった。
現場では10キロ単位で(水銀が)入ったという職員もいますが、という問いに対し川口課長は次のようにつづけた。
「確かに10キロという単位に限定すれば原因も特定しやすいとは思います。しかし現実には炉内で気化した排ガスをセンサー(水銀計)がキャッチして初めて事件の大きさが分かったわけで、区側としては清掃一組さんからセンサーの数値やその後の環境調査の結果などを伺って私どもが協力することになったのです」。 
告発、告訴の見通しについて川口課長は次のような見解を述べた。
「(清掃工場は)私どもの財産ではないので被害を受けた清掃一組さんがやることになります。区としては工場が止まったことでごみをよその工場へ運ぶことになって輸送費が余分にかかる。その金額が被害額ということになるでしょう」。

◆キチンとした排出ルート
足立区環境部の話を聞いて感じたことは当事者意識のあまりの薄さである。清掃一組ともどもお互いの領分を侵さず、どちらも100%の責任は取りたくないという半身の姿勢、つまりは他人事であった。権限は分散すればするほど組織の脆弱化をもたらすという箴言どおりの現実である。
 むろんこれは足立区だけのことではなく、他の22区についてもいえることであり、23区のいくつかは完全にお付き合い感覚であった。具体例は後段で触れる。
足立区訪問の翌日、産業廃棄物の許認可権限を持っている東京都環境局にも電話で見解を聞いたところ、村上章産廃対策課長は次のように答えた。
「悪質な業者が山の中に不法投棄をするという話はよく聞きますが、その場所が清掃工場とはね。しかし発覚したら完全に免許取り消し、警察沙汰じゃないですか。そんなリスクを冒してまで(不法投棄なんか)やりますかね」。
―――大学の研究室などから出る水銀廃液じゃないか、という人もいますが、
「そういうところはキチンとルートが出来ていますよ。野村興産を頂点として信頼できる業者に委託していますからその心配はないと思います」。
―――現在清掃一組と各区が協力して聞き取り調査を行っていますが、産廃対策課として今後どんな方針で臨まれますか
「今回の水銀事故以外でもうちは抜打ちで立入り調査をやっています。聞き取りの内容は法を守っているか、保管基準に違反していないか、マニフェストをちゃんと取っているか、などかなりきびしいものです」。

◆23区側の動き
 清掃一組が23区と共同で行った聴き取り調査の結果をまとめ、HPに公開したのは本年9月10日のことであった。そこには調査日、対象者、主な聴き取り項目、調査結果が簡潔にまとめられていたが、結論は「原因者の特定に至る結果は得られず、また原因者の特定につながる有力情報も得ることはできなかった」というものであった。
 皮肉なことにこの調査結果が公表された6日後の9月16日、足立清掃工場2号炉の水銀濃度が再び上昇し、またも操業停止を余儀なくされた(9月27日復旧)。
 この経緯に清掃一組も強い危機感を持った。調査の責任者・施設管理部山田裕彦管理課長から話を聞いたのは9月28日のことである。
―――何ら有力情報は得られなかった。こうした結論になるとは想像していましたが、現在、搬入時のチェック(照合調査:巻頭写真参照))は行っているのですか
「月曜から金曜まで、20工場のどこかで毎日必ずやっています。しかし清掃一組は中間処理専門の機構でして、業の許可権限と指導権限は23区側にあります。そこで調査の実効性を担保するためには各区の協力体制がなんとしても必要です。
―――23区側がその気にならないということですか
「今回は緊急の初期対応ということで清掃一組が持っているデータをもとに連携をとりながら(聴き取り調査を)やってきたのですが、今回の事象が今後も起きないという保証はありません。そうなると初動体制を清掃一組としてどうつくってゆくか。今回の教訓を生かしていかないと原因究明もスピーディに進まないのです」。
―――各区の反応はどうですか?
「分かっている区は分かっているのですが、ことの重大さを分かっていない区は『清掃一組さんがもっと照合調査を強化すればいいんじゃないんですか』と平気でいいます」。

◆他人事のような答弁
後日、知り合いの区議がいるN区の状況を聞いた。9月17日に区議会本会議が行われているが、区側答弁の中身に驚く。まさに「他人事のような区」の典型であった。
まず知り合いの区議による質問。
「国に規制がない中、清掃一組が排ガス中の水銀濃度に自己規制値を定めて管理していることは高く評価出来ます(中略)。いま必要なのは23区が一丸となり、国に対して排ガス中の水銀濃度の法規制を求めてゆくことです。その意味で収集運搬業者に業の許可を出している各区の責任は重大ですが、今回の聴き取り調査では区内の排出事業者1654件に対し区は16件しか調査していませんし、収運業者253件に対しては2件にすぎません。報道によればまたしても足立清掃工場から高濃度の水銀が検出され、昨日から炉が止まっています。この際、区は計画的にごみ収集の現場に出向き、排出事業者と収運業者両者への現場調査および指導を行うことを求めます」。
 これに対し区側(区民生活部長)の答弁は終始一般論の連続だった。
「清掃工場の停止については(一組の)ホームページに概要が掲載されていた。必要な情報の公表や報道機関への提供については一組の判断で適切に行われている。現在大気中の水銀等についての法的拘束力はなく、事業者による自主的な排出抑制が求められているところである。9月の中央環境審議会における今後の大気汚染物対策では基本的な考え方の変更は予定されていない。ここ10年程の調査結果においても指針値を下回っており、区としては法的規制を求める考えは持っていない(中略)。水銀等不適正な排出物の持ち込みを防止する対策については23区と一組と連携して新たな防止策を検討することになっている。水銀を含むごみの出し方についてはホームページ上で注意を喚起しており、今後区報等への掲載など、さまざまな機会を捉えて適正な周知をはかりたい」(区議のメモより)。
許認可や指導権限を持たない清掃一組が事故の責任だけは一身に負いかねない構造。こうした状況に対し山田管理課長は「会議体」の設置を提唱し、その実現を急いでいる。
 会議体とはいったい何か。       (次回につづく)
















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1 コメント

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水銀問題を脱焼却への追い風に (佐藤禮子)
2010-10-15 23:07:38
この際 水銀の規制を国に要求する運動に。
焼却大国日本、焼却による有害物質の排出は限りなく続く!
廃ブラスティク焼却による分別意識の低下が根底にある。一時の犯人探しで事を済ましてはならない。
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