循環型社会って何!

国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

一組黒塗り開示文書

2010年10月25日 | 廃棄物政策
 ふつう世間では一部という場合、対象物の1割か2割を指す。せいぜい妥協して3割だろう。文書の開示、非開示の話である。だが東京二十三区清掃一部事務組合(一組)が本年10月20日に開示した文書はほぼ9割が黒塗り、つまり事実上の非開示であった(写真)。





◆何ら成果なし
 本年6月から7月にかけて起こった足立ほか各清掃工場の水銀事故を受け、清掃一組と23区の担当部署は連携して聴き取り調査を行った。
 対象は収集運搬業者と排出事業者である。収運業者については7月15日から28日の約2週間で、43業者が対象。排出事業者は250事業者で、7月29日から8月20日までの約3週間が調査日程であった。
清掃一組が聴き取り調査の結果をまとめ、HPに公開したのは9月10日のことである。9月17日には全清掃工場の工場長・所長を集めた臨時会が開かれている。
 HPには調査日、対象者、主な聴き取り項目、調査結果が簡潔にまとめられていたが、結論は「原因者の特定に至る結果は得られず、また原因者の特定につながる有力情報も得ることはできなかった」というものだった。つまり何ら成果なし、である。
 だが調査班はどんな質問を投げかけ、業者や事業者はどんな回答を行ったのか。今後もこの種の事故が再発する危険が皆無といえない状況の中で、周辺住民や一般区民がその経緯を知りたいと思うのは当然のことであろう。

◆一部開示決定!
 止めよう!ダイオキシン汚染・東日本ネットワークの佐藤禮子代表が一組に対し文書の開示請求を行ったのは9月24日のことである。
 請求文書は(1)2010年9月17日に行われた工場長会記録等資料一式、(2)①収集運搬業者への調査リストと聴き取り調査票及びその回答、②排出事業者調査リスト及び調査記録票及びその回答、であった。
 10月20日(水)午後4時、東京飯田橋の区政会館14階の一組総務部(情報開示担当)で佐藤氏の請求に応える「一部開示決定通知」の説明会が行われた。
 開示の方法は「閲覧した後、必要なものだけ複写」である。たとえば100ページもある文書の9割が非開示だったら真っ黒に塗りつぶされた紙片がコピー機から延々と飛び出すというシュールな光景が展開することにもなりかねない。「必要なものだけ」というのは請求側に余分な経済的負担をかけたくないという開示側の親切心というべきだろう。 
 説明者として並んだのは総務部(文書法規係)、施設管理部の係長・主査クラス。請求側は佐藤代表と藤原寿和事務局長およびNPO法人ごみ問題5市連絡会の青木泰事務局長である。小生は佐藤代表から立ち会ってほしいと頼まれて列席した。

◆9割黒塗りの根拠
 ほぼ1時間におよぶ説明会は最初から紛糾する。「9割の黒塗り文書」を前に請求側はしばし唖然とした後、藤原事務局長が怒気をまじえて発言を開始した。

藤原:今回の聴き取り調査はあらかじめ業者側に開示しないことを前提に行ったのか。そ  れとも開示するともしないとも明らかにせず行ったのか。
一組:その辺は開示しないということで~
藤原:最初から開示しないことを前提に?
一組:いやそこまでは説明していません。
藤原:先方に口頭で伝えたのか、文書で了解を求めたのか。
一組:書類にしてということはありません。
藤原:その辺のヤリトリは記録してありますか。一組として最初に開示しないという前提  で回答をもらったという理解でよろしいか。別途起案と決裁文書の開示を請求します。
一組:・・・・・・
藤原:本来行政の文書は開示することが前提だが、相手方の了解は最小限必要で強制はできない。しかし中には公表してもいいという事業者もいたと思う。それをひとつひとつ確認した上で開示・非開示を決めるのが筋でしょう。それをしないで「すべて黒塗り」というのは理解し難い。
一組:うち(一組)の条例に示されている非開示理由に係らなければすべて開示するというのが原則です。 開示請求があればうちの判断で見せられるかどうかを判断します。今回お示ししている文書はそこに書いてある理由で出せないといってるんです。

◆区民が混乱、事業を阻害
 このあと激しい応酬が40分ほど続くが、一組側は「条例に示されている非開示理由」を楯に譲らず、請求側は「まず非公開という意思が前提になっている」と後日の不服申立てを示唆して説明会は終わった。
 条例とは2000年4月1日に施行された「東京二十三区清掃一部事務組合情報公開条例」のことで、全二十七条からなる同条例の心臓部は第七条(公文書の開示義務)と第八条(公文書の一部開示)である。
 第七条はまず「実施機関は開示請求があったときは開示請求者に対し当該公文書を開示しなければならない」とうたうが、開示の前提として「非開示情報が記録されている場合を除き」とのただし書きがついている。何が非開示情報なのか。その事例が一から七まで延々と続くところがミソである。まず最初に満点の100点を与えておき、あとからあれこれと減点してゆく運転免許証方式に似ている。
 まず一には「法令等の定めるところにより公にすることができない情報」とある。二番目は「公にすることで特定個人の権利・利益を害するおそれがあるもの」、三つ目は「法人等の事業運営上の地位、その他社会的な地位が損なわれると認められるもの」とあり、四では「公共の安全と秩序の維持に支障が生ずる情報」をあげている。
 ここまででまだ半分だ。誰が「おそれがある」「認められる」「支障が生ずる」の判断を下すのか。
 気を取り直して五に移ると「公にすることで不当に区民の間に混乱を生じさせるおそれがあるもの」とあり、六は「公にすることで当該事務または事業の遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」と、かなり理由は露骨になる。
今回の文書非開示理由はこの五と六がメインであった。 

◆「9割黒塗り文書」のつくられ方
 文書番号第997号(平成22年10月4日作成)、佐藤禮子氏に対する「一部開示決定通知書(以下通知書)」は以下の記述から成っている。
(1)臨時工場長・所長会の記録=記録は作成していないため不存在である。
(2)「ごみ焼却排ガス中の水銀について」=東京二十三区清掃一部事務組合の規制基準とその他の自治体の規制基準との統一が図られていないため非開示とする。また「自由意見欄」及び「気づいた点」については審議又は検討に関する情報であって(中略)これによって清掃一部事務組合が行う清掃事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため、非開示とする(東京二十三区清掃一部事務組合情報公開条例第7条6号に該当)。
(3)臨時工場長・所長会次第の件名及び資料2は、現在、検討及び審議中の事案に関する情報であるため、尚早な公表は、不要な混乱の発生や区民及び関係者に誤解を招き、誤った認識を形成するなどのおそれがあるため、非開示とする(東京二十三区清掃一部事務組合情報公開条例第7条第5号に該当)。
 これのどこが「一部開示通知」なのか。実態はみごとな「全面非開示通知」である。だが以上は曲がりなりにも「開示した部分」であった。
 通知書はさらに追い打ちをかけ、「開示しない部分」について次のように列挙する。
(1)収集運搬業者調査対象者リスト
(2)収集運搬業者聴き取り調査票
(3)収集運搬業者聴き取り調査票の回答
(4)排出事業者調査対象者リスト
(5)排出事業者調査対象者記録票の回答

◆内向きの思考から抜け出すべき
 これまでいくつかのブログで水銀事故と書いてきたが、それは誤りだった。正しくは「本来入るべきでない一般廃棄物の焼却炉に特別管理産業廃棄物(特管物)を投棄した犯罪事件」なのである。清掃事業の区移管後、強力な権限を外された一組は、より多くごみを集める必要と23区に対する気兼ねから収集運搬業者や排出事業者を御客様扱いせざるを得なかった。その延長が「公にすることで特定個人の権利・利益を害するおそれがあるもの」という配慮につながったのだろう。
 ここで「たら・れば」はむろん禁句だが、仮に東京都清掃局が23区の清掃事業を一元的に掌握していたら、(つまり区移管以前の状態であったら)今回の水銀犯罪に直面して真っ先にやったことは「証拠保全」であろう。足立清掃工場は2号炉だけでなく全面操業停止とし、ごみの受け入れもストップする。その上でごみ非常事態宣言を発し、事態究明のため業者と事業者に「強制力を持った探索」を承認させた筈である。
 同時に新たな法体系づくりを国に働きかけたに違いない。2013年の水銀条約制定に向けて政府間交渉委員会会合(INC)の第2回会合が来年(2011年)1月に千葉・幕張で開催される。またとないタイミングというべきだ。「清掃一部事務組合が行う清掃事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」などと内向きの思考に捉われている場合ではないだろう。
かつて環境に対する悪影響や毒性が明るみに出るまで、PCBやフロンそしてアスベストは産業活動に貢献する優れた化学物質ともてはやされていた。同様にその使い勝手の良さで産業用、研究用に多方面で珍重されてきたのが水銀である。
だが「便利で使い勝手のいい」水銀は多様な発生源から長いこと環境中に放散され、焼却はいま最も危険な排出源のひとつになっている。  

◆ダイオキシン類対策以上の緊張を
 有害廃棄物問題に詳しい専門家がいう。
 「水銀は安定して蓄積する毒物であり、自己規制値の0.05ミリグラムでも常時出ているなら煙突を経て周辺地域にかなりの被害が予想される。大気による水俣病といえるだろう」。
 過去10年以上、焼却施設から出る重金属類問題を手がけてきた株式会社環境総合研究所の池田こみち副所長がいう。
「大気中に出る水銀はガス状、水蒸気、粒子の3形態があって、EU(欧州連合)はその3つを合わせた濃度で規制をかけています。大気中で主要な成分を占める元素態の水銀は、水に溶けにくいことから、大気中での滞留時間は6ヶ月から1年もの長期にわたると考えられています。そのため拡散する範囲、距離もかなり広く、遠くに及ぶと思われます。一方粒子状の水銀は比較的はやく地面や水中に落ちてメチル化し、食物連鎖により魚介類など生物の体内で濃縮されていきます。23区内ではごみの焼却炉とともに下水汚泥の焼却炉も多いことからこれらの発生源の監視と規制は極めて重要です」。
 水銀が容易に気化する性質から地球規模での循環が懸念され、UNEP(国連環境計画)が過去10年、問題解決に取り組んできた由縁もそこにある。その努力が実を結ぶのが来年からである。あと数カ月のことだ。
 15年前のダイオキシン類対策以上の緊張が必要なとき、清掃事業の区移管が招いた後遺症は予想以上に深く、重い。


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