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国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

ガス化溶融炉が自治体財政を圧迫

2007年12月28日 | 廃棄物政策
「嵩む補修費が自治体を圧迫、ガス化溶融炉に問題多発」。本年(2007年)12月25日付けの神戸新聞記事である(本文は末尾)。
 奇しくも今年度(07年度)は国が打ち出した「ごみ処理広域化計画」の最終年度に当たる。そんな時、不十分ながら国の政策への批判的な記事が出たことはきわめて象徴的といえよう。むろんもっと早く出てしかるべき警告だったが、その役割を担うべき三大紙は「(ごみの溶融こそ)ダイオキシン削減の決め手」といった論調だけを流しつづけてきた。
 ではここへきてなぜ溶融施設の補修費が問題になったのか。神戸新聞によれば「メーカーが無償修理する2.5年の保証期間が切れ、(自治体の)負担が表面化し始めた」からという。だが必ずしもそれだけではない。事例のひとつに同紙が紹介する兵庫県高砂市がある。

◆技術上の瑕疵か、ごみ質の違いか
 高砂市が流動床型ガス化溶融炉を導入し、操業を開始したのは2003年4月のことであったが、その年からプラント火災、ダイオキシン濃度が作業環境基準を超えるなど、「2年間で27回の事故」が起きていたのである。その事態に危機感を持った高砂市議会は同年12月22日、調査特別委員会(いわゆる百条委員会)を立ち上げた。
 導入時におけるメーカー(バブコック日立)側の説明ではごみトンあたりの維持管理費は1,900円だった。年間ごみ処理量で計算すると約8,000万円の筈が操業1年目(03年4月~04年3月)で1億5,800万円かかったという。その差7,800万円は瑕疵担保期間であり、絶え間なく事故を起こしたメーカー側の負担とすべきであったが、逆に「搬入されたごみ質が約束と違う」とのクレームをメーカー側がつけてきた。これに対し市は「奇妙な弱腰」(百条委員会の表現)でメーカー側のいい分を認めてしまう。だがその後、百条委員会が徹底的に追及した結果、総額1億5,800万円のうち市の支払いを9,000万円にとどめた。つまり高砂市議会が6,800万円にのぼる「税金の不当支出」を防いだのである。今後こうしたケース、つまり技術上の欠陥か、ごみ質の劣悪さかで自治体とメーカーとが争う局面が全国的に増えることになるだろう。
問題はこうしたメーカー側の強気を支えたものは何かである。そこに例外なく活躍してきたのがいわゆる御用学者やコンサルタントたちなのだ。 
たとえば前出の神戸新聞記事の中で日本環境衛生センター(以下日環センター)の藤吉秀昭理事が「メーカーは性能を高くうたい過ぎた」と指摘し、さらに「基本的な課題をクリアしないまま実機に移した技術もあり、影響が出始めている」と批判的なコメントを寄せている。その藤吉氏が全国の清掃施設建設に係る委員会や機種選定委員になって溶融路線を推進した中心人物であったことはよく知られており、何をいまさらと憤慨している住民も各地に多い。

◆もともと欠陥技術だった
 筆者は川崎の日環センター本社に藤吉氏を訪ね、話を聞いたことがある。2001年3月5日のことであったが、その時の録音テープがあるのでここに再録しておく。
 まず1998年にドイツのフュルト市で当時稼働中のキルン型ガス化溶融炉がガス漏れ事故を起こした事件に触れたあと、氏は次のように述べた。「果たしてこの炉が持っている欠陥と見るべきか、トラブルへの対処の仕方のまずさと見るべきか。私は後者だと思う」。つまり技術上の欠陥ではなく、それを扱う作業員の問題と断定しているわけだ。また同氏はある専門誌の中で次のようなコメントを寄せていた。
「ガス化炉については、いままで爆発するとか、危険だとか、予想以上に助燃がいるとか、誹謗中傷と思える意見も聞こえてきます。その中には冷静に実態を見ないまま、決め付けたような言い方がありますが、各社の施設が実際に動き出し、そこそこの性能が発揮されていますし、ダイオキシン等の公害防止保証とか、爆発などの安全性といった課題はほぼクリアできているのではないかと思います」(季刊「環境施設」93号・2003年秋)。
 しかしその後の推移をみれば全国各地で火災・爆発・ガス漏れ事故が多発したことはまぎれもない現実であり、誹謗中傷との指摘はそのまま藤吉氏にお返しすべきであろう。
 さらにいえばそれらの事故・トラブルが起きることは必然であった。すなわちメーカー各社がガス化溶融炉の開発を試みたのは90年代初めのことであり、旧厚生省による「ごみ処理広域化計画」に間に合わせるための見切り発車状況だったのである。加えてこの分野(ガス化溶融炉路線)が儲かると27ものメーカーが参入したことで「仁義なき受注合戦」が熾烈を極め、当然ながらダンピング受注も起きた。ダンピングを行なったメーカーはモトをとるため設計・施工の段階でいくつもの手抜きをした。これはあるメーカーの技術者から直接聞いた話だから間違いはない。その咎めが多種多様な事故・トラブルにつながったといえよう。
 結論からいえばガス化溶融炉(灰溶融炉)はもともと欠陥技術だったのである。したがって「瑕疵担保期間が終ったから自治体のコスト負担が重くのしかかった」わけではなく、最初からメーカーと旧厚生省が組んで自治体を食い物にしたというに過ぎない。その意味で自治体側はあまりにも無防備であった。むしろ国庫補助金が欲しいため、メーカーの甘い誘いに乗って、住民の批判に一切耳を貸さなかったのが大半の自治体であった。岡山大学の田中勝大学院教授は神戸新聞の中で次のようにコメントしている。
「外国で失敗した技術が流行しているのは、日本では新しい技術は『より良い技術だ』と評価する傾向も影響したと思う。メーカーは安く仕事を取って後から回収するので、維持管理費が高くなりがち。市民はもう少し税金がどのように使われているのか関心を持つ必要がある」。
 よくいうよ、である。田中氏が旧厚生省時代から現在に至るまで、国の廃棄物政策に積極的に関わってきた事実を誰もが知っており、その人から「市民は賢くなれ」といわれても鼻白むだけである。

〔神戸新聞記事〕かさむ補修費、自治体圧迫 「ガス化溶融炉」問題多発
 国のダイオキシン規制で設置が一時義務化された次世代焼却施設「ガス化溶融炉」の補修費が各地で増加し、運営する自治体の約六割が「想定を超える」として、今後の負担を懸念していることが二十四日、時事通信社の調べで分かった。
 メーカーの新規参入とダンピング競争で全国に普及したが、専門家は「そもそも熟な技術だった」と指摘している。
 多くの施設が二〇〇二年の規制強化を機に運転を開始。メーカーが無償修理する二-五年の保証期限が切れ、負担が表面化し始めた。一部の自治体では財政を圧迫する恐れもあるという。
 環境省も実態把握に向け、来年度にも運営費のデータベース化を行う。自治体間の情報共有を進め、契約額を検証できるようにする考えだ。
 ガス化溶融炉は、ごみを蒸し焼きにして発生した可燃ガスを利用。従来型焼却炉が約八百五十度で「燃やす」のに対し、千三百度以上で焼却灰ごと「溶かして」ダイオキシンを分解する。
 地方自治体(一部事務組合など含む)が運営する三十二道府県のガス化溶融炉七十カ所に対し、補修費の推移などを調査。外部に一括委託して内訳が不明なケースなどを除いた五十七カ所を分析した。
 その結果、〇四年度は四十九カ所が稼働し、補修費は計約十九億二百万円。施設数は〇五年度五十三カ所、〇六年度五十七カ所となったが、それぞれ約二十九億九千二百万円、約四十四億三千二百万円に膨らんでいた。
 従来型の補修費は、一施設年間一億円以内だったが、〇六年度は二十カ所で超過。炉内部や周辺機器の損傷が目立つ。
 補修費を「想定内」としたのは十七カ所(30%)で、三十六カ所(63%)が「想定より多く、今後の増加を懸念」と回答。四カ所(7%)は「分からない」としている。
 兵庫県内では〇三年四月、高砂市美化センターで稼働。基準値を超えるダイオキシンが検出されるなどトラブルが相次いだこともあり、補修費の負担増が懸念されている。高砂市は焼却炉メーカーに対し、本年度末で切れる保証期間の延長を求めているが、交渉は難航している。
 メーカー保証は既に三十七カ所で期限が切れた。残る施設のうち、十四カ所も来年度中に期限切れを迎える。過去二年度では、一施設当たり平均五千数百万円の負担増となる計算だ。
 九州地方の施設は、〇六年三月に保証が切れると補修費が一・七倍に。北陸の施設では、過去二年度は六千万円台だったが、保証が切れた今年度は三億円を超え、担当者は「こんなに増えるとは思わなかった」と語る。

 日本環境衛生センターの藤吉秀昭理事は「基本的な課題をクリアしないまま実機に移した技術もあり、影響が出始めている」としている。
 税金使途に関心を 田中勝・岡山大大学院環境学研究科教授(廃棄物工学)の話
 小規模施設に向く特性があるものの、大都市は新技術を厳しく評価したため、あまりガス化溶融炉を選んでいない。外国で失敗した技術が流行しているのは、日本では新しい技術は「より良い技術だ」と評価する傾向も影響したと思う。メーカーは安く仕事を取って後から回収するので、維持管理費が高くなりがち。市民はもう少し税金がどのように使われているのか関心を持つ必要がある。

 ■メーカー、技術追いつかず
 「業界内の競争が激しく、かなり急いで開発しなければいけない状況だった」。国のダイオキシン規制は、突如年間数千億円規模の市場を生み出した。多くのメーカーがガス化溶融炉の受注合戦を展開。しかし、運転開始後はコストがかさみ、「高い買い物」になったケースも。営業担当者の一人は「もっと技術的な検証が必要だった」と振り返った。
 旧厚生省が焼却炉の新設で「溶融、固形化施設を有すること」を補助金の条件としたのは一九九七年四月。国が事実上、ガス化溶融炉か「灰溶融炉」かの二者択一を迫り、業界に巨大市場をもたらす決定だった。
 当時苦境に陥っていた製鉄や造船業界なども次々と参入。しかし、稼働したものの計画性能を発揮しない施設が現れた。日本環境衛生センターの藤吉秀昭理事は「メーカーは性能を高くうたい過ぎた」と指摘する。
 メーカー間の性能や維持費に開きがあったが、環境省も今年六月までコスト比較の統一基準すら作っていなかった。想定以上に経費が掛かる自治体からは悲鳴も上がるが、同省は「あくまで自治体の責任において決めたこと」とにべもない。
(12/25 09:57)



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2 コメント

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責任者は誰れだ 出て来い! (佐藤禮子)
2008-01-04 16:02:57
いよいよ 津川敬の出番です。神戸新聞の記者さんとも相談して 関係者に登壇してもらう集会を企画しましょう! 記者さんたちには事前に本も読んでもらって。
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やはりそういうことでしたか (みほれみ)
2008-02-22 22:42:13
社会人大学生です。座間味島の事例の報道から、溶融炉のことを知りました。
テレビの報道を聞いていますと、村長などの、溶融炉導入を決めた人をを辞任させればそれですむかのような気持ちになってしまいますが、そうではないと思います。
誰が自治体の担当者に溶融炉の機能を説明したのか、溶融炉は、販売前に十分な試運転はなされてあったのかと、とても不思議に思いました。
溶融炉を導入してしまった自治体は、自治体単位で悪質な製品を売りつけられてしまった「消費者問題」の被害者なのではないかと、私としては思いました。
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