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国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

偽装生コン事件で見えてきた関連官庁の身勝手(上)

2008年09月15日 | 廃棄物政策
◆人生設計が狂った
 藤沢市の六会(ムツアイ)コンクリートが砂の代用品として溶融スラグを不正使用した事件には少なくとも三つの官庁が関わっている。ひとつは経済産業省、次に国土交通省、三つ目が環境省である。まず経済産業省。ここはJISすなわち工業化標準法の監督庁だ。 コンクリートは砂と砂利に水を加えてセメントで固め、製品化する。昔は工事現場で熟達した職人が混合作業を行なっていたが、近年は大型車に積載したミキサーをグルグル廻し、中の材料を混ぜ合わす。現場へつくころにはコンクリートになる前の半製品になる仕組みだ。
 六会が溶融スラグを不正混入し始めたのは07年の7月頃といわれている。そして同社が工業標準化法による生コンの製造申請を行なったのは2006年4月のことであった。その際の申請書には神奈川と千葉の山砂を使うと明記されており、その後の工場審査にもパスして合格した。次の審査は3年後(09年)だから六会はその間隙を縫って違法行為を行なったことになる。審査する側は材料の途中変更について届け出がない限り把握できず、もちろん経済産業省が立ち入り検査することもない。
 六会による「想定外の不正」(経産省)がバレたのは本年(08年)7月。「壁のところどころが膨らみコンクリートが剥がれ落ちる」ポップアウト現象が入居済みのマンションで発見されたことによる。その後の調査で被害の可能性は神奈川県下のマンション、ホテル、事務所、さらには横浜港の桟橋など69件、家屋約2000戸以上に及んだ。
 騒ぎは瞬く間に拡大し、何も知らず「六会の生コン」でマンションを建てた業者や売り主(販売業者など)が矢面に立つことになった。とりあえず被害を受けた住人には迷惑料を支払い、建物の補修にも応ずる。退去を希望する住人には同じ価格で買い戻す、などを約束したが、住人からは「そう簡単に引っ越せない。ここに一生住むつもりで人生設計も行なっている。将来風評被害も加わり資産価値は必ず下がる。そこまでの補償をしてもらえるのか」とエキサイト。これには売り主側はタジタジだったという。
経済産業省は事件が発覚するやただちにJISの登録認証機関「財団法人日本建築総合試験所」を通じて六会(藤沢工場)のJIS認証を取り消した。

◆事件の後始末
それにしても廃棄物処理に殆ど関わりのない六会コンクリートがなぜ溶融スラグなどという専門用語を知り、それを砂に混ぜて使うという大罪を犯したのか。その知恵を六会の生産管理部長に授けたのは横須賀市内の産廃中間処理業者㈱リフレックスである。この業者は六会に「本来はトン当たり200~300円程度で売却する溶融スラグ」を無償で提供した。業者は横浜市や県下の清掃工場から出る焼却灰を溶融してスラグ化している。無償提供の理由としてリフレックス側は「溶融スラグの認知度を高め、新たな取引先を開拓したい」としているが、要するにできたスラグを持て余していたのだ。
 一方六会側がその申し出でを受け入れたのは最近いい山砂が入手できず、しかも年々質が落ちているからだというが、本音はコスト削減にある。砂の値段は1立方メートル当たり数千円もするから、タダで溶融スラグが手に入るなら運搬費を払っても確実にコストダウンにつながる。六会が昨年(07年)7月から今年6月まで受け入れた溶融スラグは9,350トン。その結果がマンションの住人を絶望の淵に立たせたポップアウト現象となった。この構図はいま世間に衝撃を与えている三笠フーズ事件と驚くほど似ている。すなわち三笠の社長も九州の業者から事故米を偽装するやり方を教わっていたのである。
 こうした一連の経緯から、六会側が加害者、それと知らず「六会の生コン」を使ってマンションなどをつくった建設業者は被害者ということになるが、現実はさほど簡単ではない。ここで第二の官庁が浮上する。国土交通省だ。
経済産業省の責任は六会の認証取り消し(生コンをつくらせない)ことで終了した。これ以降はできてしまった事件の後始末であり、これは国土交通省の領分である。同省が所管する建築基準法第37条は、柱や梁といった「構造耐力上主要な部分」に用いるコンクリートは、JIS規格に適合したものに限ると定めている。だがこれを厳格に適用したら神奈川県下だけで96件、戸数にして2000戸以上という違反物件すべてがアウトとなり、社会的影響は底知れぬものとなる。37条はそれを見越したものか、第2項で「国土交通大臣の認定を受けたもの(ならOK)」という逃げ道が用意されていた。
 条文はこうである。「2.前号に掲げるもののほか、指定建築材料ごとに国土交通大臣が定める安全上、防火上又は衛生上必要な品質に関する技術的基準に適合するものであることについて国土交通大臣の認定を受けたもの」。いまさらながら国家官僚の頭のよさには舌を巻く。
この間の経緯について本年9月5日付けの神奈川新聞は以下のように書いている。
「違法生コンを使った建物について、国土交通省の対策検討委員会は『安全性や耐久性に問題はない』として、建物ごとに強度試験などをした上、後付けで『適法化』する方針。国土交通省が今年7月に設置した『JIS規格不適合コンクリートを使用した建築物の対策技術検討委員会』(桝田佳寛委員長)の8月の中間報告でも『外装材脱落などに対する安全性を除き、建築物の構造耐力などに関する安全性や耐久性に大きな支障を及ぼす可能性は少ない』と判断。国交省は、9月末予定の同委員会の最終報告を経て、適合する建築材料として大臣認定の手続きを行い、適法化する方針を示した」。                   

◆溶融スラグ大量消費の道
政治と利権も絡み溶融炉、とりわけ灰溶融炉の数とスラグの排泄量は増加する一方である。だが溶融技術が普及するには溶融スラグの処分問題が常に壁となっていた。道路やコンクリート骨材に使えるというメーカーのセールストークにも関わらずスラグは日一日と滞留してゆく。
 この事態に危機感を持った業界と行政は「溶融スラグのJIS化」作業を急いだ。しかし一刻も早くスラグを売り捌きたい勢力とそれを使わされる側の対立は深く、シュレッダーダスト(クルマを解体した後に残る最悪のごみ)由来の溶融スラグをどう扱うかなどの問題も絡んで作業は長引き、ようやくJIS化に漕ぎ着けたのは2006年7月のことである。足かけ6年が経っていた。しかも以前からテスト条件が甘いといわれている溶出試験だけでなくスラグ中にどれだけの有害重金属類が含まれているかのテスト、いわゆる含有量試験も義務付けられたのである。
 なおJIS化の対象になったのは一般廃棄物由来のスラグだけで産業廃棄物由来のスラグについては見送られた。
 では一廃由来のスラグなら安全かといえばそんなことはない。独立行政法人・国立環境研究所の貴田晶子・廃棄物試験評価研究室長も「JIS化は必ずしも安全性を保証したものではない。絶えず厳密なモニタリングが行なわれることでJISの主旨が生かされる」といっている。
 現に昨年(07年)5月、 東京二十三区清掃一部事務組合が管轄する灰溶融炉のスラグから基準値の96倍という鉛が検出された。4基ある灰溶融炉(1基100トン)を半年間停め、メーカー(三菱重工業)の責任で大規模修理を行なった事例もある。しかも修理を終えて稼動した1基から今度は高濃度の水銀が検出され、組合職員2名が行政処分を受けるというひと幕もあった。
 溶融スラグでもうひとつで注意すべきはごみを溶融する際、炉内の流動性を高めるため生石灰を入れることだ。その結果できたスラグがマンションの壁面などに使われた場合、コンクリートを「石灰化」させるおそれがある。神奈川県下のマンションで起きたポップアウト現象の原因はまさにそれであった。
 有害重金属類、生石灰を抱え込んだ溶融スラグ。コンクリート骨材はおろか、安易に道路工事などにも使うべき代物ではない。にも関わらず国交省は「溶融スラグを大臣認定で適法化する」という。こうしてポップアウトマンションは「不幸な例外」と片付けられ、溶融スラグ大量消費への道が拓かれた。
 だがここへきて不思議なのは、もう一方の当事者、環境省の動きである。

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