循環型社会って何!

国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

空飛ぶ棺桶は御免だ

2013年02月18日 | ハイテク技術

◆硫黄含有量が先進国の15倍!

 先週、中国のPM2.5報道が連日テレビで流れた。北京や上海が濃いスモッグで覆われ、交通渋滞の光景すら隠れてしまう。しかも毎年3月には黄砂が発生し、大量の汚染物質が黄砂に押し出されるように日本に襲来する。あるメディアがいう「殺人黄砂」である。
 PM2.5とは直径2.5 マイクロメートルの超微粒子に硫酸塩や硝酸塩が多量に含まれている有害物質である。髪の毛の30分の1という極小物質のため鼻で遮断されず直接肺に入り、長引くとぜんそくや不整脈など循環器系の病気を引き起こすという。その数値は一時日本の基準値の23倍を示した。
 PM2.5急増の原因は第一に石炭を多用する生産工場の増加にある。中国政府は北京オリンピック前に一定の対策をとったというが、厳密に公害対策を進めると中小の工場が立ち行かなくなり、そこから生ずる失業問題が反政府行動に発展しかねない。
 第二に増大する一方のクルマが使用するガソリンの品質が極端に悪いことである。中国では、ほとんどの地域で「ユーロ3」(硫黄含有量150ppm以下)に対応する「国3」というガソリンが使われている。去る2月6日、温家宝首相主宰の常務会議で、日本や欧州が導入している欧州排ガス規制「ユーロ5」(硫黄含有量10ppm以下)に対応する「国」基準を年内に公布し、2017年末までに全面移行することを決めた。しかし共産党や政府と密接な関係にある国有石油企業が多額の設備投資を要するガソリンの品質向上に消極的だった経緯もあり、コストをどこが持つかで中国政権内部に深刻な対立が予想されるとみられている。
 人命より経済――。原発再稼働に執心するどこかの国とまったく変わらない。それと同様、いまなお先行き不透明なB787型新鋭機トラブルも経済優先の論理が先行した咎めというべきだろう。

◆リチウムイオン電池の怖さ
. 「コックピットの窓にヒビ」、「機体からのオイル漏れ」、「バッテリーからの出火」など、いくら初期トラブルといえ、ことは航空機である。B787型全日空機が高松空港へ緊急着陸した模様を当時のNHKが次のように報じている。
《 1月16日午前8時すぎに山口県の山口宇部空港を離陸し、羽田空港に向かっていた全日空692便のボーイング787型機で煙を感知する表示が出て異臭がしました。このため旅客機は午前8時45分ごろ高松空港に緊急着陸し、乗っていた乗客129人、乗員8人の合わせて137人は、機体に備え付けられている脱出用のシューターから全員脱出しました。警察によりますと、脱出の際、乗客の68歳の男性が腰を痛める軽いけがをしたということです》。
 全日空692便は兵庫県上空(高度1万メートル)を航行中、異常に気付いた。機長がただちに緊急着陸を決断したのはすでに先例があったからである。それは1月7日、ボストンのローガン国際空港で起きたB787型機バッテリーの出火事故である。事故はJAL機の着陸後起きた。
 2月13日現在、米当局は事故の原因を究明すべく、バッテリーを中心に周辺機器などの調査を進めているが、いまだ原因の特定には至っていない。なぜB787型がこんな深刻な事態に見舞われたのか。それを解く鍵はバッテリーにある。
 同機にはメインバッテリーに旅客機として初めてといわれるリチウムイオン電池が採用されている。小さくても大量の電気を蓄められるこの電池はすでに携帯電話やパソコン、EV(電気自動車)などに採用されているが、旅客機に使われることはなかった。その理由はリチウムイオン電池に「有機溶媒」が使用されているからである。有機溶媒は高い電圧を生み出すための液体で、その特徴は何かの拍子に発火しやすいことである。
 かつて独立行政法人・国民生活センターが「携帯電話の充電用リチウムイオン電池が発火するかどうか」の実験を行ったことがある。そこで明らかになったのは、①誤った方法で過充電をしたり、②外部から強い衝撃を与えたりすると、それらがキッカケで発火や破裂を起こす恐れがあるという事実であった。この時の模様は後日NHKが紹介していたが、「ある一定時間を過ぎるとパチンという音がして携帯電話が燃え上がる」という衝撃的な光景であった。

◆機体製造に関わった日本企業
ごく単純にいえば、従来型の電池は不燃性だが重い。リチウムイオン電池は可燃性だが軽い、ということである。従来型電池には燃えない素材が使われているが、嵩張って重くなる。そこでボーイング社は低燃費化を実現しようと「小型軽量型」のリチウムイオン電池の搭載に踏み切った。そこで誕生した新鋭機がB787型機である。
 座席数は約200と ジャンボジェット(B747-400)の約半分。機体の約半分には軽くて丈夫な炭素繊維の複合材が用いられており、燃費効率は従来機に比べ約2割向上した。整備費も約30%ダウンしたため、中型機としては航続距離がきわめて長くなり、“ドリームライナー”の異名がつけられている。
 この新型機の特徴がもうひとつある。これまでボーイング社の設計図通りに部品を仕上げて納入する下請け(約15%程度)に甘んじてきた日本の代表的企業が本格的な機体製造に加わったことである。すなわち三菱重工業が主翼部分の開発、胴体の前方は川崎重工業、中央の翼は富士重工業、炭素繊維は東レ、タイヤはブリジストンなど、機体の約35%を日本企業が担当したことからB787型機は準国産機と呼ばれている。
 このドリームライナーをいち早く次期中期経営計画の柱に位置付けたのは全日空である。すなわち2011年9月28日、全日空向けの第1号機が東京国際空港に到着。翌10月26~27日には成田-香港間で世界初の商業運航を行い、11月1日には羽田-岡山・広島線で世界初の定期便運航を開始した。2012年1月14日には羽田-北京線で世界初の国際線定期運航を開始している。新しい航空機時代の幕開け、と誰しもが感じ取っていた。ボーイング側は「面倒な乗り換えがなく、中型機による直近の乗り入れ(ポイント-ツ-ポイント)を乗客は歓迎している」との予測を前面に押し出していた。しかしその予測はみごとにひっくり返った。
 
◆「技術の危険を技術で解消する」危うさ
2011年9月28日、全日空への引き渡し直後からB787型機はバッテリーの発煙・出火、燃料漏れ、潤滑油漏れなどを起こしていた。これらの事故は「ならし運転」につきものの、いわば想定内トラブルとボーイング側は見ていた。だが今年(2013年)1月に入って矢継ぎ早に“想定外”の事故・トラブルが集中的に発生した。その事例は前回で見たとおりである。
 これら一連の不祥事についてB787型機の開発経緯を知る航空問題コンサルタントのマイケル・ボイド氏はNHKクローズアップ現代(「“夢の旅客機”に何が」1月24日放送分)のスタッフに次のように語っている。
 「リチウムイオン電池の搭載を認めるに当たってFAA(アメリカ連邦航空局)は『新しい基準をつくり、徹底した安全管理を行うよう』求めた。さらにその文書の中で『過熱や過充電を防ぐシステムや爆発性・毒性のガスを出さないこと』など9項目の厳しい条件を満たすよう命じていた」。
 リチウムイオン電池の技術や応用方法についてはすでに10年にわたる調査や実験が行われていた。FAAはボーイング社と“万が一”の事態が起きないよう安全装置を導入するなど入念な対策を進めてきたという。
 たとえばバッテリーを充電する場合、過剰な電流が流れ込もうとしても複数の安全装置が働くようにとか、過剰な電流が入った場合、まず充電機で遮断する。それでもうまくいかない場合はバッテリーの入り口で防ぐ仕組みを取り入れるなどの防護措置がとられていた。しかしその仕組みを嘲笑うようにバッテリーは黒こげになった。
 この光景から「原発を防護する5つの壁」が現実の災害に遭遇したとき、如何に無力だったかを想起させる。技術がもたらす危険を技術で解消しようとする愚かさがここにもあった。原子力ムラならぬボーイングムラなのか。同じムラに属するかどうか定かではないが、日本の国土交通省航空安全委員会も今回のB787型機の相次ぐ事故を「重大インシデント」と認定し、調査に乗り出した(こんなとこで格好つけて英語なんか使うなよ)。

◆離着陸による振動が原因か
 1機のB787型機をつくるのに使用された部品は約300万点という。素人には気が遠くなるような話だ。それぞれ安全確実な部品かもしれないが、数十社の企業が関わっているため“部品同士の相性の違い”がそこに生じても不思議はない。当然責任のなすりあいも起こるだろう。
 1月16日に起きた全日空機の緊急着陸(高松空港)では主電源こそ停止したものの、バックアップシステムが作動し、ことなきを得ている。当時は機長や乗務員の沈着冷静さがニュースになった。そのあと配電盤の設計が一部見直され、システムのソフトウエアが改良された。
 前出の「クローズアップ現代」ではリチウムイオン電池の開発に当たった技術者のいい分も聞いている。彼はいう。「リチウムイオン電池はそれ自体から出火することはまずあり得ない。制御システムのわずかなプログラムミスでバッテリーに異常をきたすことはよくあることだ。しかし現実に燃えたのがバッテリーなのでそれが我々電池屋の責任と思われてはたまらない」。
 この間、日米合同の調査が連日進められ、ボーイング社もB787型機の試験運行を2回にわたり実施している。だがバッテリートラブルの原因は2月半ばに至るもまだ究明されていない。ところが昨日(2月17日)になって「リチウムイオン電池の有機溶剤事故は離着陸時の振動によるものか」というニュースが流れた。記者はかつてリチウムイオン電池を手掛けたソニーの技術者に取材している。その技術者がいうには「リチウムイオン電池をトラックで輸送したところ振動で発火した。振動が一番怖い」と答えている。

◆「空飛ぶ棺桶」は御免だ
 2月8日付のウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙によれば「ボーイング社は、バッテリーパックが過熱した場合に熱や炎、有害化学物質が外に逃げ出さないようリチウムイオン電池を納める容器の強度を高めることを検討している」という。また同紙は容器の素材としてチタンが使用される可能性がある、とも報じている。だがそれでは「臭いものに蓋」ではないか。
 全日空にしてもJALにしてもB787型機を新たな経営戦略の目玉に据えている。その決め手がリチウムイオン電池であった。小型で軽量、大容量で長寿命、さらに燃費が20%削減可能となり、従来は採算がとれなかった航路でも路線が開設できるようになった。まさに願ったり叶ったりの画期的な電源である。
 だが、航空機産業にとって何よりも優先さるべきは「安全」である。高度1万メートルの上空を飛ぶドリームライナーB787型機を「空飛ぶ棺桶」にしないためにも、いつ何時火を噴くか分からないリチウムイオン電池の搭載は再考すべきであろう。だがその道をとらず、リチウムイオン電池を原発と同じ「堅牢な格納容器に入れればいい」というボーイング社の発想はまさに「いつか来た道」というほかはない。
 現在ボーイング社が世界の航空8社に納入済みのB787型機は49機であり、うち17機は全日空が購入した。JALはそれにつづく7機である。ちなみに全日空が保有している機数は合計226機、JALは217機である。

◆ボーイング社という権力
 本年2月1日、全日空は記者会見を行い、中長期戦略を発表した。それによると運航停止による減収要因はいまのところ軽微であるが、長期化すれば「機材変更や路線計画にも影響が及びかねない」という。ちなみに1月は国内線、国際線で合計459便が欠航、運賃収入は約14億円減った。
 全日空は11年11月、羽田―広島、羽田―岡山線に787型機を投入している。動機は2003年10月に開始された新幹線「のぞみ」の大増発であった。「のぞみ」体制で新幹線利用者が急増、約10年間で東京と広島を往来する旅客のうち航空機利用者の割合は62%から44%に低落したという。
 全日空のB787型機投入は新幹線にとられた旅客を奪還するための画期的戦略であった。これが功を奏し、導入路線の利用率は最大10ポイント上昇した。そして3月には羽田―秋田線にも787型機を投入する予定だった。そこに今回の相次ぐ発火事故である。事態は予想以上に深刻であった。同社はボーイング社に対する損害賠償についても検討中という。
 事情はJALも同じだった。2月4日、JALはB787型機の運航停止に伴う2013年3月期の売上高が約11億円減少する見通しだと発表。また今月25日にB787型機による成田-ヘルシンキを結ぶ直行便については運航を延期するとも発表した。ヘルシンキ路線以外にも1月16日から今月28日までの間、国際線で56便を欠航する。
 こうして全日空、JAL双方の欠航は約1,879便に上るともいわれている。むろん被害は航空2社にとどまらない。便利で安いB787型機による国内・国際旅行を売り物に宣伝攻勢を計画していた国内の旅行会社も当てが外れ、営業方針の大幅見直しを余儀なくされている。
日本で発信されるダークで神経質な情報にくらべ、アメリカ国内の状況分析はさほど深刻ではない。というよりボーイング社という企業が持つ並はずれた威圧にジャーナリズムさえ時に怯えるという印象なのだ。その一端を紹介した日本の記者によるルポがある。その一部を抜き書きする。
【文化の違いと言うべきだろうか、それとも一貫した広報戦略と言うべきなのだろうか。新鋭中型機「787」の相次ぐトラブルに直面したボーイング。米連邦航空局(FAA)など各国当局の調査が入っても、運航停止命令を下されても、声明で「787は安全だ」と繰り返してきた。乗客を乗せた機体で発火事故を起こしておいて「安全」と言い張る姿勢には正直、耳を疑ったものだ】(「市場を説き伏せたボーイング」日経WEB杉本貴司2013年1月31日)。
 ボーイング社はできた機体こそ世界の航空会社に納入せず、工場敷地内に駐機させているものの、生産はストップしていない。NTSB(アメリカ運輸安全委員会)やFAA(アメリカ連邦航空局)といった政府機関をどこか舐めているところがある。
                     未完

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