Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

京都にみる町家の暮らしから

2009-09-10 12:27:44 | 民俗学
 『日本の民俗10 都市の生活』(吉川弘文館2009/8/10)は、これまで発刊された同シリーズの中では意図をあまり見せない読み物となっている。読み物であるからそこに展開されたコマから印象に残ったものをピックアップしてみよう。「伝統的な都市の民俗」と題して村上忠喜氏は京都の町家について触れている。『洛中洛外図屏風』に描かれた風俗画を注意深くみていくと興味深い点が多いといい、「米沢市本」の左隻第3・4扇には正月風景が描かれていて「町家の表に飾られる注連縄と同じものが、裏の出入り口にも飾られている」といい、「往時の人々は表と裏の出入り口に著しい格差をけなかった」のではないかと言う。けして京都の町家が全国の商人の原点になっているというわけではないだろうが、町家の「表と裏」という話を聞くと、商人の表裏の顔が浮かんでくる。そもそも田舎の農家に育ったわたしのような人間には、商人には騙され易いという傾向がある。田舎なら「人を信用する」というところに行き着くかもしれないが、商人は経済至上主義の現代に即した商売の顔を持つ。けして商売をしていた人でなくとも、町場に生まれ育った人たちとはどうも上手くいかない、上手く付き合えないのは、かつての農村育ちの人間の宿命である。もちろん時代は変わり、今ではそういう落差は無くなってきているだろうが、いまだに「田舎者」という言葉が吐かれるし、そこに地方出身者の思いが置き去りにされている。置き去りにされたからといって忘れられることはなく、永劫にその意識は消えることはないだろう。裏口が農家にあってもそこから別の世界と関わりを持つということはない。そういう意味では、京都の町家にはかつて裏の空閑地を介した住民同士のつきあいがあったと聞くとなるほどと思うとともに、それを商人へ飛躍的にトレースしてしまう自分がいのである。町は通りを介して一つの町を形成するのはどこも似通っている。地方の町でも通りごとに町名が充てられていて、そこを一区切りとしての生活がある。しかし考えてみれば背中合わせになっている町は別の町ではあるが、裏口を開ければそこは別の町への表となる。表裏を意識せざるをえない環境がそこにはあるのかもしれない。とても農村で生まれ育ったものには想像できない環境といえる。ましてやかつての京都の方形街区中央の空閑地のようなものがあれば、そこにはマチの表とは異なった三つの町の暮らしに接するわけで、連携された暮らしがそこに展開されたのかもしれない。

 ところで京都では「年に数回、いわゆるハレの日に、表の間の格子を外したり、玄関を開け放って、ミセノマを中心とした座敷部分を飾り付けてみせるという民俗がある」という。その代表的な例として祇園祭の最中に山鉾を出す町内およびその周辺部でおこなわれる「屏風祭り」を紹介している。近年ますます屏風祭りが知られるようになったというが、同じことは全国各地でも行なわれていた。以前松本において調査を行なった際、この「屏風祭り」の話を聞いたことがあった。「戦前までは商店は仕事を休み、店の物を奥にしまい、畳にじゅうたんを敷いてびょうぶを立てた。びょうぶを立てることで店の物を隠したわけである。どこの家でも自慢のびょうぶを立てたのでびょうぶを見物に訪れる人が多くなり「びょうぶ祭り」といわれるようになった」と報告している。京都の風習が伝わって始まったものかどうか定かではないものの、全国に同じようなマチの祭りの共通性があるとすれば、祇園の流れがそこにはあるのかもしれない。そんな共通点を探ると、同じように松本と京都に似通った風習があることを察知する。

 村上氏は京都では大正時代前後になくなってしまったヨイサッサという子どもたちの行事にも触れている。ヨイサッサとは8月の初旬、子どもたちが列を作って、笛、太鼓、拍子木で囃しながら合唱して付近の町を歩き回ったものという。「八月が近づくと、親たちは、ヨイサッサで子どもたちが使う紋付入り提灯や浴衣、囃子の道具などを揃えるのがおきまりのことであった」という。また男児と女児に分かれて列を作っていたという伝承もある」と書いている。具体的な行事のイメージは解らないが、松本で現在も伝承されている女児の行なう「ぼんぼん」という行列をなす行事に似ていたのではないだろうか。松本では同じ季節に男児の行なう「青山様」という行事もある。どちらも列を作って町内をめぐるという部分は似ているし、行事にあわせて浴衣を新調するということもあったといい、詳細な部分はともかくとして情景的には京都というマチと地方のマチで重なるものがあるということである。
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