Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

「千社参り」その後

2007-12-15 13:35:43 | ひとから学ぶ
 以前伊那市青島の「千社参り」について触れた。さきごろ青島の人と会うことがあってそのことを確認してみた。かつては周辺の集落でも行われていたというが、もうずいぶん昔から青島だけで行われる行事になってしまったようだ。7月末に行われていて、その当日の朝に集ると、九つある隣組(青島全体では約100戸ほどという)ごとにくじを引くのだという。そしてそのくじによってお参りをする地域が決められる。基本的には伊那市内を区切っているようで、西春近とか富県、東春近、西箕輪などという具合に地域割りされているという。そして伊那市外として現在は伊那市に合併している高遠地域もくじ引きのひとつに入るという。自らの居住している地域が当たることもあって、そこを引けば自転車で廻れるほどだという。もちろん昔は歩いて廻ったものなのだろうが、今は車で廻ってしまう。お参りを兼ねて、その日にちよっとした旅行をする隣組もあれば、温泉に入りに行く隣組もあるという。隣組ごとの親睦の1日となるわけだ。

 千社札はひとつの隣組に100枚ほど配布されるのだろうか、厚みにして3センチほどの束が配られる。くじで当たった地域の神社や石碑などをお参りするのだといい、必ず廻らなくてはいけない対象があるわけではないようである。神社以外にも路傍の石碑などにも千社札を貼ってゆく。そんな行為に対して苦情もくるようで、「石に貼らないでくれ」などといわれることもあるという。札に「青島区」と記入しているから、だれがやったかはすぐに解るわけだ。そんなこともあって、貼らずに置いてくるだけにすることもあるという。とくにその意図のようなものは知らされていないようだが、天竜川の支流の三峰川の氾濫原にある集落だけに、かつては水害に頻繁にあった地域である。そうした立地が、「神頼み」の行事を継続してきた原点にあるのではないかという。中には辞めようなどという声もあるとはいうが、「なくならないだろう」とその知人は答える。千社札に明確に「青島区」と書かれているから、基本的には区の行事であるものの、信仰の自由を口にする時代だけに、区の神社係が担当しているという。いずれにしても隣組単位でくじを引くわけだから、自治集団の行事であることに違いはない。参加しないという人もいるようだが、隣組単位というなか、暗黙の中で行事は継承されているのだろう。伊那市美篶といって盛んに宅地化が進んでいる地域であるものの、この集落にはあまり新たな入居者がいないということも、そうした行事への異論が出ない理由にあるかもしれない。

 この地域では現在代参も継続されていて、代参に行くのは秋葉神社と戸隠神社という。わたしの生家の地域でも、わたしの子どものころは代参に行くといって父が出かけていったことがあったが、しばらくしてそういう声も聞かなくなった。廃止されたものではないのだろうが、代参そのものの参加者数を減らしたようである。青島では全戸でくじを引き、場合によっては1年に両方の代参に行くこともあるという。自治組織と信仰は切り離せるものではない、という事情を知ることができる。
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