宮古on Web「宮古伝言板」後のコーケやんブログ

2011.6.1~。大津波、宮古市、鍬ヶ崎復興計画。陸中宮古への硬派のオマージュ。
 藤田幸右 管理人

岩手県がPRちらし。もげる、もげる、逆T型

2015年05月20日 | 鍬ヶ崎の防潮堤を考える会

岩手県が現場出先機関である宮古土木センターを動かして初めてのPRちらしを鍬ヶ崎地区、日立浜地区に配布した。「事業の進捗状況について」第1号(平成27年5月号)というもの。一方的な宣伝はいらないのです。私たちは防潮堤によって再度「鍬ヶ崎が壊れ」「鍬ヶ崎の産業がなくなる」危機感の中にあるからです。

 

 

 PRちらし

 

● PRちらしの中味

すでに完成済みのはずであった「鍬ヶ崎その1工事」(平成27年3月16日完成予定)が二転三転して平成27年11月30日まで大幅に延期されている。また、全区間において追加ボーリング調査を行ったとある。前者については調査不備のため鋼管杭の作り直しが始まっている事が理由とされ、後者については(私たちは日立浜地区しか確認していないが)全区間となれば、ほとんど全面的なやり直しであるといえる。

予算も半年間の「その1工事」ですでに 489,240,000 円→649,316,520 円 と3割強増額されている。PRちらしでは予算が増えたところを出発点にして増額自体は隠しており、工期が8ヶ月のびた事には口を拭っている。現状に加えて今後予想される地盤調査の再々調査、予想される大幅な予算の再増額、予想される更なる工期の延長、いずれも当初説明を反古にする行き当たりばったりの状況である。挽回する努力の方向性が間違っている。地元にとっては鍬ヶ崎・津波を知らない役人、メーカー、建設会社が集まって進捗(工期)を挽回する努力はかえって不安感をつのらせる。

 

 

● 一本足のかかし、鍬ヶ崎のプレキャスト工法

岩手県は「逆T字」型を軽く考えてメーカーの言いなりになっている。このPRちらしでもやはり鍬ヶ崎防潮堤を外観だけ書いて、そのまま振り逃げしようとしている。防潮堤断面図がアルファベットの「 T 」の字の逆さまの形である事を3年かけて理解して何になるのか? あまりにも地元住民をバカにしていないか? どごのでえに 


役人もだまされている。標準断面図(上の写真右下)を見ると真ん中に心棒鋼管が通っている事は分かるが、さて防潮壁に何本の鋼管が通っているのかは断面図からは分からない。(ユニットに)8~9本? メーカーはそこは曖昧にしておきたいのだ。だからこうして断面図しか見せたがらない。ユニットという概念もない秘密主義。役人はそれに従っているだけだ…

また、標準断面図を見るとあたかも心棒鋼管、コンクリートブロック、コンクリート底版、鋼管杭が一体のように見える。何かの型抜きのように一体ですっくと立っているように見える(人は逆音叉のように見えるという)。メーカーはそれを強調したいが故に断面図を同色で塗ろうとする。しかしプレキャスト工法の定義通り、遠くで作ったそれぞれのパーツの現地組み立てなのである。逆T字型防潮堤の弱点は一体形ではないそれぞれのパーツのつなぎ目にある。役人はそれを見抜けず住民に一体性の受け売りをしている。

逆T字型防潮堤(1ユニット)側面図

 

(1)心棒鋼管は6メートル巾に2本

2本の鋼管では有事の際の津波の圧力に抗しきれずに倒壊の悲劇に見舞われる。1ユニットは巾6m、高さ7m~8mの広い防潮壁(かべ)を津波に向けている。そこを襲う津波の圧力に0.8m巾(直径)の鋼管2本では抗しきれるものではない。鋼管一本に自身の3.75倍の負荷がかかる。一本足のかかしが風の中に容易に立っていられない事と同じである。

(2)てこの原理で鋼管破壊

逆T字型防潮堤のアキレスの腱は心棒鋼管のてこ機能である。地上部の高さ7~8mと地中部分(底版との接合部分)約1mの比率に「てこの原理」が働く。地表(底版上面)をてこの支点として力点と作用点に1対8(~7)の力が働く。平たくいえば津波の圧力の8(~7)倍の力がてこの原理で鋼管の端ないし底版に作用する。

(3)鋼管に30倍の力。3.75×8(前ページ「講座」参照)

(1)と(2)の力の合計は鋼管自体の強度の30倍に達する。主に鋼管の下方部に猛烈な力を生じさせ、力は防潮堤の破壊に向かう。鋼管そのものが折れるかひしゃげる。また底版が鋼管の端で蹴上げられて壊れるか、てこの支点の方が上から鋼管に圧迫されて壊れるか? 力の影響が鋼管杭の引き上げにまで及ぶのか? くわしくは分からないがそれぞれのパーツの強さと結合の状態による。破壊や亀裂が生じない状態ももちろん想定されるが希有なことであろう。

 

上図は鍬ヶ崎防潮堤計画の工程図である。(先きに鍬ヶ崎の住民には「鍬ヶ崎の防潮堤を考える会」のニュースレターNo.5で示している)。最初からつまづいて「鍬ヶ崎その1工区」は左端の工程が中断されているが有事に鋼管が「もげる」危険性は変わらない。

 

 

● 津波に対して「巨大」は意味をなさない。

PRちらしには「想定より深い支持地盤が確認された事から、追加のボーリング調査を行い、適切な長さの鋼管杭を製作中です」とある。これまでの説明は何だったろう? 岩手県の防災計画は常に「想定外」の事態がついてまわる。これは3.11大震災の真剣な検証を行わずすべて「想定外」ですましてきているからである。思考停止

今、横たわる鋼管、野積みされたコンクリートブロック、工事現場、全てが巨大である。完成する防潮堤は更に巨大さに輪をかけて、厚さ、高さはほとんど地域を圧迫する。空が小さくなる、海が見えなくなる、刑務所の塀のよう、などの形容も空疎に聞こえるほど圧倒的な圧迫感をもたらす。

注意)コンクリートブロックを積み上げた巨大壁は、しかし、地面にただ置いただけの構造で、横からの力には弱い。鋼管によってわずかに支えられていると言える。

一方でその圧倒的巨大さが住民に津波防災の信頼感をもたらす危険性がある。まさに現実的巨大さであった田老の「万里の長城」も釜石湾口の「スーパー堤防」もつい昨日まで信頼感いっぱいの岩手県の建造物であったのだ。田老の防潮堤は高さ10メートル、総延長2.5キロメートルに及び、二重で町を守っていた。釜石の「防波堤」は海底から最大60メートル高さで湾口を1.6キロメートル渡り、ギネスブックにも登録されていた巨大構築物であった。しかし、津波は一瞬で世界規模を破壊して未曾有の災害をもたらした。鍬ヶ崎防潮堤の巨大感も3.11災害のように一瞬で破壊される可能性の中にある。そんなもの作るもんでねえがの声が聞こえる ─

岩手県がなにをPRしようとも、メーカーや建設会社に距離を置いて住民の側にしっかり立ち、3.11の沿岸の防災施設の崩壊と被害の検証をPRしない限り(行われていない!!)県民からの合意はむずかしい。

 

 

(現在中断されている「その1工区」写真。以下当ブログ<追加ボーリグ>2015.4.8 より引用)

凄まじい写真です。この二列は専ら地中に埋められた基礎鋼管杭の首部で次にコンクリートの「底版」を渡され地面の下に完全に隠れます。二列の真ん中の一列に防潮壁の芯になる「鋼管」が並ぶわけです。

工程が凄まじいなら結果も凄まじい。この写真のど真ん中に厚さ1メートル以上高さ7~8メートルの壁が建つ。もはや海幸園ビルも漁協ビルも見えなくなり、もちろん山も木々も見えなくなる。海側の御殿山も見えなくなり、漁船も車も見えず、エンジン音も見えない。日差しを遮蔽する高い塀があるだけだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

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