内閣府原子力委員会は31日、日本が保有するプルトニウムについて、現在の約47トンを保有量の上限とし、今後は増やさずに削減するとした新たな方針を決定した。原発の使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す再処理は、ふつうの原発で燃料として再利用する分量に限って認める。

 方針の改定は15年ぶり。2003年の方針で「利用目的のないプルトニウムは持たない」として国際社会に説明してきたが、保有量は高止まりを続けており、米国などから削減の具体策を示すよう求められていた。新方針では「現在の水準を超えることはない」として、初めて保有量の削減に踏み込んだ。国際原子力機関IAEA)に報告する。

 日本はプルトニウムを国内に約11トン、再処理を委託した英仏に約36トンを持つ。だが、燃料にプルトニウムを使う高速増殖炉は原型炉もんじゅ福井県)の廃炉が決まり、ウランをまぜた「MOX燃料」をふつうの原発で燃やすプルサーマル発電も計画通り進んでいない。3年後に完成予定の六ケ所再処理工場青森県)がフル稼働すれば、年間約8トンのプルトニウムが取り出される。

 新方針はこうした状況をふまえ、五つの対策を示した。経済産業省が六ケ所の工場の計画を認可する際、プルサーマルに必要な分だけ再処理量を認める。そのうえで、保有量が必要最小限となるよう電力会社を指導する。特に英仏で保有する分については、先に再稼働した原発でプルサーマル発電を行い、他電力の保有分も減らすといった電力会社間の連携で削減を促す。

 一方、日本原子力研究開発機構などが国内に持つ研究用のプルトニウムについては、当面の使い道がない場合は、具体的な処分法の検討を求める。

 今後、電力会社や機構に対し、プルトニウムを使う量や場所、時期を明記した利用計画を毎年公表することも求める。

 

再処理工場 稼働に制限も

 

 内閣府原子力委員会は、たまり続けるプルトニウムの保有量に上限を設け、現状の約47トンから削減する方針にかじを切った。核不拡散への懸念を払拭(ふっしょく)する狙いだが、実際に減らしていけるかは、関係省庁や電力会社の取り組みに委ねられる。

 「かなり大きな一歩。必要な量だけ再処理することも、すべて新しいことだ」。原子力委員会の岡芳明委員長は31日の記者会見で、新方針の意義をこう強調した。

 新たな方針は、日本原燃の六ケ所再処理工場青森県)の稼働をコントロールすることが柱になる。

 日本原燃の計画では、工場は約3年後に完成し、使用済み燃料からプルトニウムを取り出す再処理が始まる。だが、新方針のもとでは稼働が大幅に制限される可能性がある。経済産業省による認可で、必要な分だけ再処理を認める仕組みにするが、プルトニウム再利用そのものが停滞しているからだ。

 プルトニウムとウランを混ぜた「MOX燃料」をふつうの原発で使うプルサーマル発電は、電気事業連合会の計画通りに16~18基で導入できれば、年に8~10トンを消費できる。一方、工場がフル稼働すると、新たに分離されるプルトニウムは年に約7トンで、余剰分を増やさずに収支のバランスが取れる。

 ただ、東京電力福島第一原発事故後、プルサーマルで再稼働した原発は4基のみ。通常の再稼働とは別の許可を受ける必要があり、今後も大きく増える見通しはない。

 保有量の8割近くを占める海外分は、六ケ所の工場が着工する前から、英仏の施設に再処理を委託した分だ。新方針は、電力各社で融通し合うことで海外分も減らすよう促す。再稼働が進む関西電力などの原発で、東京電力など他社分を燃やすことを想定する。

 だが、電気事業連合会の勝野哲会長(中部電力社長)は20日、「電力間の融通を検討していない。各社でプルサーマルを含めた再稼働をやっていくのが大前提」と、連携に消極的な姿勢を示した。再稼働が進む電力会社にとっては「地元との信頼関係を崩しかねない」(電力業界関係者)。

 一方、新方針は、日本原子力研究開発機構の施設などに約4・6トンある研究開発用について、捨てる選択肢も検討すると踏み込んだ。使い道がほとんどなく、核テロ防止などの観点から削減を求められていた。ただ、具体的な処分法は決まっておらず、処分地を見つけるのも難航が予想される。(川田俊男、桜井林太郎)

 

英、有償で引き取りを提案

 プルトニウムの削減には、プルサーマル以外の選択肢もある。

 日本が英国で保有するプルトニウムについて、英国政府は日本側が「十分にお金を払う」ことを条件に引き取ることを提案する。だが、電力会社は否定的だ。政府関係者も「あくまでプルサーマルで燃やす」と言う。お金をかけて取り出したプルトニウムを「資源」として再利用する核燃料サイクルの前提が崩れてしまうからだ。

 英国にある約21トンは、現状では日本に持ち帰るのが難しい事情もある。英国のMOX燃料工場は2011年に閉鎖され、燃料に加工できない。加工する前のプルトニウムを日本に輸送すれば、核拡散への懸念から国際問題に発展しかねない。このまま「塩漬け」になれば多額の保管料を払い続けることになる。

 一方、欧州では、英国に余剰分を引き取ってもらう動きが広がる。ドイツスウェーデンオランダで実績がある。ドイツは05年に使用済み燃料の海外移転を禁止。余剰分は国内のプルサーマルで使い切る方向に転じた。英国にとっては、自国分の約110トンと一緒に処分でき、必要な資金も確保できる利点がある。

 1977年に再処理をやめた米国も、解体した核兵器から出たプルトニウムの処分に悩む。ロシアとの核軍縮協定で、国内で34トン処理する必要があるからだ。

 MOX燃料にして原発で使おうとしたが、予算超過などで16年に加工工場の建設を断念。米エネルギー省は代わりにプルトニウムを少量ずつ分け、化学物質を混ぜて薄め、地層処分する「希釈処分」を検討する。(小川裕介、香取啓介=ワシントン)

 

「米政府、歓迎」 在日大使館担当官

 内閣府原子力委員会が日本のプルトニウム保有量を現在の約47トンを上限とする新たな方針を決めたことを受け、在日米国大使館エネルギー首席担当官のロス・マツキン氏は1日、朝日新聞などの取材に応じ、「米政府は心から歓迎する。決定は極めて重要で画期的だ」などと評価した。

 マツキン氏は、米エネルギー省の所属で、日米の原子力協力などを担当。以前は同省で核不拡散やプルトニウム削減を担当した。日本が取り組むべきプルトニウムの具体的な削減法について「日本政府が決めること」とした上で、「明確に上限を設けて削減することが、世界の核不拡散に重要であると思う」と述べた。

 今年7月に30年の満期を迎えて自動延長された日米原子力協定について、マツキン氏は「強く安定している。今のところ変えることは考えていない」。原子力協定は今後、日米どちらかの事前通告で半年後に終了するが、米国は協定を維持すると明言した。

 

     ◇

 マツキン氏と記者団との主なやり取りは次の通り。

――プルトニウム保有量の新方針をどう受けとめるか。

 新たな方針は日本の自主的な政策。現在の保有量の約47トンを超えず、これから削減することが書かれているので、それがとても明確だと考える。

――自動延長された日米原子力協定について、新たな協定を結び直す考えは?

 日本と米国は原子力の安全性や核不拡散、核セキュリティーについて同じ考え方なので、原子力協力が強く安定していると考える。今のところ、協定を変えることを考えていない。

――日本政府に対し、プルトニウム保有量に上限を設けることを求めたか。

 交渉の詳細は言えないが、米国と日本は友好関係が強く、さまざまな分野、核不拡散も含めて常に緊密な連絡をとっている。

――米国はプルトニウムの「希釈処分」を検討している。日本に提案する考えはあるか。

 日本の政府や国民が決めるべきことだが、昨日の政府が出した政策には五つの対策が書いてあり、処分についても書いている。それを尊重する。

――日本の原子力のあり方について要望や評価は。

 日本のエネルギーミックス、原子力政策は日本政府が決めることだ。米国は、原子力が米国のエネルギーミックスの重要な一つだと考えている。

――今後の日本の役割に期待することは。

 核不拡散政策が透明で明確であることが、日本のためにもなると思う。明確に上限をもうけて削減させることは、世界の核不拡散にとっても重要だ。今回の決定は、日本の核不拡散へのリーダーシップを明確に示している。(小川裕介)

 

 

 

注)この記事を紹介してくれたメーリングリスト「待った再処理」では次のように解説している。

 

 *1年前の日米原子力協定 満期を迎え,米側の意向に沿いこのような決定がなされたようです。このニュースは私達の運動にとり重要なものでしたが,当時きちっとみなさんへお伝えしていなかったので今回お知らせしました。昨年は市民運動のみなさんも含めこの原子力協定締結問題で米国のロビー活動が実施され,本会も旅費のカンパ等を行いましたが,その成果があったのではないでしょうか。再処理で製造されるプルトニウムの消費先がない限りは工場が稼働できないことになります。プルサーマルを止めることが再処理を止めることに直結するようになりました。(F.永田氏)