宮古on Web「宮古伝言板」後のコーケやんブログ

2011.6.1~。大津波、宮古市、鍬ヶ崎復興計画。陸中宮古への硬派のオマージュ。
 藤田幸右 管理人

田老「第一防潮堤」の今(4=まとめ)

2013年07月08日 | どうなる田老

 防潮堤は生きていた !

東日本大震災で田老第一防潮堤はほとんど壊れてはいなかった




津波直後の第一防潮堤

跡かたもなく崩壊した第二防潮堤の跡(右側)や壊滅した野原地区(写真上部)、対比的に第一防潮堤の健在ぶりが、どんと、ここに写っている。別な説明であったがある新聞社の写真を借用した。


「日本一の防潮堤」無惨、想定外の大津波、住民ぼうぜん ──  津波直後、全国の新聞にこのような見出しが躍った。田老の万里の長城崩壊のイメージはこうして作られた。現地調査の学者は「防潮堤には鉄筋も入っておらず、コンクリートブロックの噛み合わせもなかった」と発表した。しかし、それらのイメージは大ウソであった。少なくとも真実とウソが混ざり合って吹聴されていた。欠陥工事で無惨に崩壊したのは第二防潮堤であったのである。第一防潮堤はこわれも損傷もせずに所期の目的を見事なまでに果たしたといえる。損傷のない第一防潮堤は3.11後もそのままの姿でそこに残っていた。その世界遺産的な価値をいま壊しにかかっている部隊がある。国土交通省、県土整備部、宮古市など思考停止した予算主義者たちである。ただ予算消化のためにだけであろう、壊れてもいない災害遺構を重機で削り始めた。説明も、市民との合意形成もなしに…


 越流は想定内!

防潮堤の津波の越流は予想されていた

 

明治、昭和の大津波を経験している田老地区にとっては今次津波は「想定外」の津波ではなかった。防潮堤には越流の戻り波の瓦礫流失を阻止するための天板のギザギザまで設計されていたのである。防潮堤はそもそも昭和の津波の波高10メートルの襲撃の直後から計画されて、高さを10メートルに設計した。より高い津波の襲撃は当然予想されていた。先行する明治の津波が波高15メートルで押し寄せたのも当時の関係者が知らないわけがなかった。知っていながらしかし自然現象の津波を人間の力で防げるとは誰も考えていなかったのである。

田老の三王岩や漁港の岸壁はいつでも大波が超えている。越流自体はそれほど危険ではない事も田老の人なら誰でも知っていた。当時の人は津波は高台避難が基本、防潮堤の越流は覚悟の上の事であったと思う。今の人もそうであると思われるのだが…

 

同時に避難目的の村の区画整理に着手していた。

目的は迅速な避難!

 

当時の設計者は防潮堤の建設と、村内市街地の区画整理を同時に着手した。各戸から土地を拠出させ、徒歩で津波から逃げるための区画の「隅きり」や避難のための山に向かう道路の拡張や新設を進めたのである。大きな津波は必ず防潮堤を超えてくる。高台への避難が津波防災の本題であった。その大原則にそった市街地作りが最重要課題だった事に村民の合意は形成されていた。

今次3.11津波の大波から助かった人は、疑う事なく、この区画整理された市街地の道を通って高台への道を避難した。ある意味で道路に強く導かれて避難したとも言えるのである。今の人は、そのような事が本当に分かっているのだろうか? 本当に子供にそのように教えているのだろうか? 意識されない田老の先人たちの区画整理の効果を、よくよく意識化する事が後代の市民の義務である。この昭和の区画整理の(恩恵の)意識化が、現在十分に行き渡っているかどうか? 少なくとも現地田老地区の人たちがこの点がどうなのか? 田老が世界に誇るもう一つの防災事業だった事を覚えているかどうか? このところは私は心もとない気がしてならない…

なぜならば今現在の宮古市の区画整理事業は、どこも、昔のような区画整理の目的もポリシーもないからである。都会の街並みのただの真似事だ。鍬ヶ崎のラウンドアバウトが典型。地元のよさを残すのではなく、地元のよさを消している。鍬ヶ崎では肝心の高台への避難路地帯さえ区画整理領域からはずされている。なんという事業であろうか? 事業としてはUR都市機構や大手コンサルタントの(利益の)ためだけの事業だ。昔の田老のように地元でできる設計や工事をなぜ都会の大手企業にやらせるのか? 大手は鍬ヶ崎地区の津波の避難経路なんか少しも考えていない。アイディアもない。大手は地方を壊しているだけだ。理解できない。



(中見出し)公共工事の防潮堤 
 

「この第二の防潮堤(=第二防潮堤)は、過去の教訓を見殺しにして築かれたものである。国家事業なのだから、せっかくの公共事業を一円でも多く使って町を潤そうと、その思惑ばかりが先に立ち、田老はなりふりかまわず突進した」(高山文彦著「大津波を生きる」より)



第二防潮堤、第三防潮堤の建設。震災後もコンクリート工事は進む

 

第一防潮堤に形式だけ真似て、各省、各自治体が無意味な公共工事を始めた。戦後から始まった公共工事の工事ブームは今次3.11も単なる通過点のように見える。田老地区の第二防潮堤、第三防潮堤をはじめ東日本大震災によって破壊され、越流を許したコンクリート工事の死屍累々の様子は語るまでもない(否、本当は語るべき事だが…)工事だけでなく、人間自体の死屍累々に及ぶ。すべてとは言わないがほとんどが天災に名をかりた不正な人災だったといえる。過去も将来も罰則規定のない防災・減災工事こそ、住民と税金を犠牲にした災害喰いものの公共工事といえる。どれもこれも住民との合意形成はない。その努力もする気がないようだ。怪しげな行政的整合性と予算があればさえよいのだ。例えば岩手県県土整備部。

 

「津波を防ぐ」防潮堤、「命を救う」防潮堤、は大ウソ

 

津波に被災した東北沿岸住民は、田老第一防潮堤の遺産的価値、つまり創建時の住民合意の精神にあるように、防潮堤が津波を防ぎ、人の命を救うとは考えていない。 越流を容認し、避難の備えを優先させた当時の第一防潮堤のコンセプトは深く深く沿岸住民の心のひだに織り込まれている。防潮堤が津波を防ぐ事はない。素早く、てんでんこに高台に逃げる事だ。「防ぐ」とか「救う」という事は「津波」にかぎってはありえない。備えて、素早く行動を起こす「避難」という事だけが真実だ。

 しかし今の公共事業者たちの発想にはこのコンセプトはない。 今や防潮堤の工事は「津波を防ぎ」「命を救う」という亡国のキャッチフレーズなしには一歩も前に進まない。


 「津波を防ぐ」、「命を救う」は公共工事のキャッチフレーズ


 国土交通省や県土整備部や宮古市の予算主義者たちは、キャッチフレーズが大ウソなのを知っていながら(知らないかもしれない…)、それを市民が信じる事は奨励してしている。市民が信じれば、設計・工法の変更も、技術革新も必要がない。古い、だめだった工事のノウハウでそのまま工事を進める事ができる、と考えている。予算の力で幼稚に津波を押さえ込もうとしているだけだ。ならぬ事はならぬのに…。今、学会や市民の間で、防災のいろいろなアイディアが持ち上がっているが公はその事にコミットするのはいやなのだ。罰則規定のない古い工法のほうがいいと考えている。なにが何でも予算主義、金権の公共工事だ。そんなものが大自然に通用するはずがないのに…。むしろ公共工事罰則法を早く制定してほしいものだ。

災害土木系の先生方の意見を聞いてみたいところである。宮古市復興計画総合アドバイザーの首藤伸夫東北大教授、屋井鉄雄東京工業大学教授。同学識経験者の植田眞弘岩手県立大学学部長、南正昭岩手大学教授。また、岩手県津波防災技術専門委員会委員各氏はこのような現状をどうアドバイスしているのであろうか?  今村文彦(東北大学大学院教授)、堺茂樹(岩手大学工学部長)、首藤伸夫(東北大学名誉教授)、内藤廣(東京大学名誉教授)、羽藤英二(東京大学大学院准教授)、平山健一(独立行政法人科学技術振興機構JSTイノベーションサテライトいわて館長)、南正昭(岩手大学工学部教授)、山本英和(岩手大学工学部准教授)。

 

第一防潮堤の改築の実態

 

改築などすべきではなかった。あの3.11平成の大津波にほとんど無傷で残った第一防潮堤に何十台の重機のメスを入れる事がどれほどマイナスに重大な事なのか? 分かりませんか? どれほど、ださい事なのか、分かりませんか? 先人への冒涜(ぼうとく)なのかを? 分かりませんか…

70センチの地盤沈下がそれほどのリスクなのですか?

地盤沈下したのは田老の防潮堤だけではないのです。宮古市だけが地盤沈下したのではないのです。東北三県の沿岸から北関東の沿岸にかけて日本列島は沈下したのです。第一防潮堤の地盤沈下を言うのは、へ理屈だ。

 問題は改築によって防潮堤が前よりも弱くなる事だと思いますが…(それは間もなく検証されるでしょう)。それより、問題は世界遺産に匹敵する田老第一防潮堤の(外観の)消滅です。荒波に耐え抜いた希有な雄姿に田老の先人たちのやむにやまれぬ魂魄、そして津波防災の誠実な最強工事の合理性をのぞき見るべきものなのです。それが遺構の本当の姿だったのです。それがこの世から消滅するのです。アイデンティティのなくなった町に人はどうして住めるのですか?!

代わって、遺構の面影をなきものにしてしまった国土交通省、県土整備部、宮古市は「公共工事」居士として、まもなく現在の面影をなくする第一防潮堤とともに、後世にその名を残す恥(はじ)の世界遺産になるのです。



(5)につづく

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コメント (6)
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