GITANESパッケージのような見事な
煙を実際に見たことはない。
それとは無関係に・・・。
夜中、視線の端のほうになにか白い棒状のものが立ちあがっているのが見えた。
極めてゆっくり上がっていくタバコの煙だった。
灰皿でもみ消したはずのタバコが、燻っていたらしい。
(PCの)マウスから手を離して
指2本でフィルターをつまみ、もう一度灰皿の底へ押し付けた。
「煙がゆっくり真上に立ち上がる(昇る)ということは
この部屋には空気の流れがないのだ・・・。
換気されてないということだ・・・。
真っ白い壁も天井も近いうちに黄色くなるんだ・・・。
肺は既に黄色を通り越しているんだ・・・。」
と考えていると、まだ眼の端に煙が恐る恐る昇っていくのが見える。
完全に消していなかったらしい。
それどころか、さっきより煙は太くなっている。
隣の吸殻にも燃え移ったのだ。
それらをまた2本の指で拾い上げ、もみ消す。
フィルターが短いのと、根元まで吸ってしまう癖のせいで
火のついた吸殻を拾い上げるのは難しい。
できればあまり触りたくはない・・・。
と考えていると、またもや煙。
それほど気が長くない性格であるから、
燃えている吸殻すべてを、ヤケドのリスクも恐れず拾い上げ、
すべて指先で乱暴にほぐし、赤い「火」が全く見えない状態に
まで粉々にしてやった。
「今日は吸いたいときにライターをなくして苦労した。
もう火は要らなくなったのに、今度は火がなかなか消えなかった・・・。」
またもや煙。それも太い煙。
散らばった葉っぱに火がつき、灰皿の中ではあるが
至る所で煙が上がっていた。
燃えていない吸殻を拾い、それを火種それぞれに押し付けて
消火活動。
いくつかのフィルターも焦げたようで、愛煙家も嫌う悪臭も発生。
何かが灰皿の中から生まれようとしているのか、
多分そんなところから生まれ出るのだから、善玉ではないはずだ・・・。
消火活動を終え、トイレへ。
トイレから帰ってくると、消火活動の際に使用した吸殻に
火がついていた。
目の前にあったはさみを手にして
火がついた部分を切り落とした。
もう大丈夫、灰皿から生まれ出る悪魔が いくら吸殻を
燃え続けさせたくても、煙だらけの演出をしたくても
火種を途中で切ってしまったのだ。
もうそれ以上燃えないのだ。
悪玉はいつか負けるときが来るのだ、わかったか、
タバコの悪魔よ。おとなしく永久の眠りにつけ・・・。
切り落とした火種は当然灰皿に落ち、
ほぐされた葉っぱに引火、また焼香のような煙が踊り始めようとしていた。
酸素供給を停止させる必要がある。
いくら典型的な文型人間でもそれぐらいはわかる。
蓋だ蓋、蓋が要る。
手近にあった本を取り、灰皿の上に乗せる。
悪魔よ。
対流のない世界で息絶えよ。
酸素のない空間では、おまえはもう火というしもべを
操れないのだ・・・。
戦いに疲れ、キッチンに行き冷たいお茶をグラスに注ぐ。
風邪の名残と悪魔の煙のせいで、喉の上のほうに違和感があった。
今日はツイていない。
PC電源を切り、寝てしまおう。
灰皿の蓋代わりの本を取り外したら、
盛大に煙が立ち昇った。
酸素供給停止失敗・・・。
咄嗟に手にしたグラスを傾け、灰皿にお茶を注入。
こうして悪魔の「誕生」という野望は打ち砕かれた。
恐るべき相手だった。
人類へ(というより私へ)及ぼした被害は
「お茶がもったいない」という感情だけで済んだ。
いや、あの時お茶をケチっていたら
我々は取り返しのつかない事態に陥っていたかもしれない。
部屋の天井付近では人間と悪魔の戦いの名残として
うっすら煙が浮いていた。そして強烈な匂い。
やっと寝室へ。
朝になって家人に
「いつもより部屋がタバコ臭い。」などと指摘されたらどう返答しようか?
「貴方は平和に眠り呆けていたかもしれないが、
実はここで昨夜、人類と悪魔の壮絶な戦いが・・・。」
外は白んでいた。
もう一度灰皿を確認しに戻り、
タバコを1本吸い、
そしてお茶と吸殻でぐちゃぐちゃになった灰皿に
吸殻を落とした。
「ジュ・・・。」悪魔の断末魔の声。
世界の至る所で
このような「得体の知れないモノ」が産まれようと
蠢いているかもしれない。
貴方も急いで灰皿などを調べたほうが良い。
| Trackback ( 0 )
|