GITANESを吸いながら走ったことはなかった。
多分おいしくないからだ。
それとは無関係に・・・。
まだ小学校に上がる前、ずっとずっと昔の話だが
家の近所には「ミッチャン」という悪ガキの友達が
住んでいた。
大工の息子で、私と同じ年のミッチャンは活発で元気で
とにかく悪ガキだったのだが、あっちに言わせたら
お前の方が充分悪ガキだったと言われてしまう可能性もある。
で、そのミッチャンがある日突然、前日までは自転車(子供用)に
くっついていた補助輪を取っ払って颯爽と目の前に現れたものだから
私と、そしてもう一人そこに居合わせた友達のタケシ(これも同級生)は
びっくり驚愕した。
私「おお、ミッチャン!コロ(補助輪)取ったんか?!」
タケシ「すごーい!カッコええ!」
ミッチャン「そうや、取ったんや!もうこれはジテンシャやぞ!」
ミッチャンは三輪車と自転車の中間に位置する「補助輪付き自転車」から
脱却し、自転車デビューを果たしたのである。
近所の子どもたちの中で真っ先に「補助輪なし」という大人の世界へ
飛び立ったミッチャンが眩しくて羨ましくて仕方ない。
私「ミッチャン、それどうやって外した?」
ミッチャン「商店街の、遠いほうの自転車屋へ持っていったらやってくれた。」
私「近い方の自転車屋はアカンのか?」
ミッチャン「あかん。あそこのおっさんは、すぐニラむから嫌いや。」
タケシ「そや、あのおっさんはニラむ。あかん。」
私「いくらやった?お金どうやった?」
ミッチャン「いや、タダでやってくれた。あんなもん、ネジ外すだけや。」
タケシ「そや、外すだけや!」
私「そうか、お金要らんのか・・・。」
無料ということは、とりあえず別に親にも相談する必要がないという
ことでもある。
そして、ここでミッチャンだけオトナへの独走を許すわけにはいかない。
私「ミッチャン、ボクも自転車屋へ行く。ついて来てくれ。」
ミッチャン「ええ?!マネするんか?」
私「マネって、ほなミッチャンもオトナのマネやんか!どうでもええから
ついて来い!」
タケシ「そうやそうや!マネや!」
ミッチャン「しゃーないなあ。おばちゃん(ウチの母)に言わんでええんか?」
私「あとで怒られたらまたコロ(補助輪)付けたらええやんか。」
タケシ「そや、また付けたらええんや!」
3人は商店街の端、通称「遠い方」の自転車屋へ向かった。
既に補助輪を外したミッチャンが、音もなく軽快に先頭を走る。
ゴロゴロと補助輪の音がうるさい私とタケシの自転車がそれに続く。
遠い方の自転車屋は、私の家から200メートルほどのところにあった。
それでも「近い方」の自転車屋よりは遠かったので、「遠い方」の
自転車屋だったのだ。
ちなみにあと200メートル向こうには、「いちばん遠い風呂屋」と勝手に
名づけた銭湯もあって、定休日以外はオヤジや兄とほぼ毎日通っていた。
遠いほうの自転車屋に到着。
私「おっちゃん、コロ外して!」
主人「おお、○○さんところの下の子か。コロ外すんか?」
私「うん。」
主人「お父ちゃんかおかあちゃんに言うたか?」
私「言うた。『やってもらえ』って言うてた」
主人「あはは。まあええか。ちょっと貸してみな。」
ものの数分後
3人の目の前で、私のコロ付き自転車は、自転車に脱皮した。
主人「ほれ、できたぞ。」
私「うん!」
タケシ「おお、ええぞ!」
ミッチャン「フン、乗れるんか?」
私「乗れるわい!すぐに乗れるわい!」
タケシ「乗れるんか?!乗れるんか?!」
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ミッチャン「タケシはコロ外すんか?」
タケシ「ええ?!ボクは、ちょっとわからん・・・」
私「ええぞ、自転車やぞ。コロ外したら自転車やぞ。」
タケシ「そやなあ!でも怖いから、どうしょうか・・・」
ミッチャン「コケたら、またコロ付けてもらったらエエやんか。」
タケシ「そやな!・・・・・・おっちゃん、片方だけ外して!」
主人「え?かたっぽだけでええの?」
私「なんで1個だけやねん!」
ミッチャン「タケシ!なんやねん!」
タケシ「ええやんか!半分ジテンシャや!半分カッコええねん!」
主人「タケッチャン、おとうちゃんかおかあちゃんに言わんでもええんか?」
タケシ「うん!うちはお父ちゃんいてへんし、お母ちゃんはまだ寝てるから
いちいち言わんでもええ!」
彼の父は、30代か20代後半で亡くなった。
私も彼の父の顔を仏壇の遺影でしか見たことがない。
ミッチャン「タケシ!片方外しても、そっちへコケるときはコケるぞ!」
タケシ「でも、コロ付いてる方にはコケへんやんか!半分大丈夫やんか!」
そういう理屈もあるわなあ と、妙に感心した。
主人「はは、まあええわ。ほれ、貸してみな。」
タケシ「うん!」
主人「右だけ外すで。ええか?」
タケシ「うん!右ってどっち?投げる方か?受ける方か?」
タケシは「右」と「左」を、まず野球に置き換えてから判断する癖があった。
主人「・・・。箸を持つ方や。」
タケシ「誰が?!」
タケシは、ミッチャンが右利き・私が左利きで、箸を持つ手が違うことに
常々違和感を持っていたようだった。
主人「ええっと・・・、ほれ、こっちだけ外すわ。」
タケシ「うん!」
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3人「ありがと!」
主人「うん。気ィつけて帰り。」
意外と大丈夫なもんだ。
補助輪を外した影響は皆無で、普通に自転車を走らせることが
できた。
ミッチャンと私は軽快な自転車で先頭争いをしながら走った。
「ガラ・・・・・・ガラ・・・・・・・ガラ・・・・・」っと、
片方だけコロが外れた変な音が後方から聞こえていた。
振り返ると、コロが片方になってどうもかえって不自由になったのではないか
と思われるタケシがいたが、それでもタケシは満面の笑みだったから
これはこれでよかったのだろう。
ミッチャン「どこへ行く?」
私「ヨシヒコとツジの家へ行こか?」
ミッチャン「そやな、あいつらまだコロ付いてるしな。」
タケシ「そやそや!コロ外したの見せたったらええ!」
私・ミッチャン「お前、一個外しただけやんけ!」
タケシ「アハハハ!ヨシヒコの家、ちょっと遠いけどな!」
ミッチャン「でも、もうコロないから、遠くでも行けるなあ!」
私「行けるなあ!」
タケシ「行こう!行こう!そんで、皆で野球やろか!!」
私・ミッチャン「今日は『自転車』やろ!!」
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自転車に関する交通ルールが厳しくなると聞いたので、それの導入部分として
子どものころのことを書いたのだが、これを書いているうちに疲れてしまった。
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気持ち良く寝れる気分です。
大冒険時代の始まりでした。