何があっても大丈夫 新潮社 このアイテムの詳細を見る |
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櫻井よしこ著『何があっても大丈夫』を読んでいる。櫻井よしこと言えば,おすましでええとこの嬢っぽく近寄りがたい女性という印象を思っていた。ベトナム生まれと聞いてどうせ外交官かなんかの子供だろうと邪推していた。ジャーナリストとして,もてはやされるところも鼻持ちならないと反感をもっていた。
あまり良い印象を持っていなかったから,櫻井よしこの著作は無意識に避けていた。誠に先入観とはおそろしいものである。だけど,食わず嫌いもいかがなものかと読んだ『権力の権化』あたりから,少し,見方が変わってきて,信念のある芯のしっかりした人だなという印象を持った。だから,予約から半年後に入手した『何があっても大丈夫』は,待ち遠しかった本であった。
「1945年,敗戦の混乱の中,ベトナム野戦病院で生まれる。引揚げ後は,両親の故郷である大分県と新潟県で少女時代を過ごす」ところを読んでいる。貿易商を営む父親が拠点にしていたベトナム。敗戦ですべての財産を失う。敗戦から引揚げにいたる記述から,当時の人々の喪失感・虚脱感がひしひしと伝わってくる。また,引揚後の艱難辛苦は,当時の日本を生きる人々の縮図ともいえるもので,淡々とした描写の中に,戦後の庶民史がさりげなく散りばめられている。
引揚げ後,家庭を顧みなくなった父親から,家族が自立していく過程でみせる母親のたくましさ,孟母三遷には,心を打たれる。もともと走ることに自信のないよしこ。そのよしこがビリから脱出してビリから2番目になったとき,「2番になった」とご近所に報告する母親。よしこは,「このときのことは,いまでも私の心のなかにおかしくも愛情深い母親の知恵を示すものとして残っている。どんなことでも誉めて,認めて,勇気づけて育ててくれた母に感謝するばかりである。」とある。その母親がいつも口にしていた言葉が「何があっても大丈夫」。母親なるものの底強さを感じさせられる一冊である。 blog Ranking へ