地ひらく―石原莞爾と昭和の夢 文藝春秋 このアイテムの詳細を見る |
この本(福田田和也著,副題:石原莞爾と昭和の夢,『地ひらく』)。読み始めたのが2004年12月。そして中座。その間,気になりながらもなかなか次に進めなかったが,ようやく読み通すことができた。中断後,再開したのがこの4月。そして読破。苦節1年半。思わず苦笑い。
陸大創設以来の秀才と言われながらも,媚びない性格故に,権力中枢の首座は得られなかった男。石原莞爾。
満州という地を理想郷と考え,五族による独立国家を志向し,汎アジア主義により英米との最終戦争を戦うための戦略拠点と位置づける。そのための手段として満州事変を板垣とともに演出するが,結果として,その後の上海事変やノモンハン事件などに見られる,その後軍部で横行した現場の独断先行の悪弊を招来するとともに,連盟脱退等に見られるように日本の国際的な孤立を招く。
最も権力近づいたのは参謀本部作戦第二部長のポストを得たときだが,二二六事件の処理に際し一旦は主流派・統制派に与するも,もともとシンパシーが皇道派にあるが故に,統制派の親玉・東条英機に排斥,排除される。日中戦争が泥沼化し,日米開戦が不可避になるとき,石原は軍役を離れる。
満州を理想郷とする思想は,日本からの独立をも志向する壮大なものだが,所詮,侵略の域を超えるものではない。現場の無統制・暴走を許す端緒を築いた罪は決して小さくない。
しかし,陸大出身のエリート主義・統制派に反発し,心情的には,農村出身者の皇道派に与し,上に媚びない性格は下から慕われ,私刑の廃止など軍隊内に民主的な改革も行うなど,破天荒な性格とあわせ魅力的な人物ではある。
決定戦と持久戦を峻別し中国との戦いは持久戦となると喝破するとともに,中国軍の有能さや戦線の拡大による疲弊を予見した。この時,石原が主流を占めたなら,歴史の歯車は微妙に傾きを変えた可能性は高い。
中国軍を侮り南京に兵をすすめ統制派が,中国大陸における戦争を泥沼化させ,ドイツ,ソ連のパワーバランス・牽制のミス・リードや日米開戦を招き,我が国を敗戦
に追いやったことは歴史が証明するところでもある。
石原に焦点が当たってはいるが,明治後期から昭和にいたる我が国の歴史過程を,この本は丹念にトレースしている。自分にとって欠落している近現代史。石原を通し昭和史を眺めながら,現代に生きるものにとって,戦間期の歴史というものの重要さをひしひしと感じた。本気で学び直さなければと思った。
終戦の年から4年後,齢60歳にして膀胱がんで逝った石原莞爾。彼の絶頂は昭和10年前後。それを境に彼の夢は儚く散っていった。あっけない死であった。
blog Ranking へ
石原莞爾は昔は好きな人物だった。じゃが年を取って考えてみると,この人は秩序を崩すことはできても新しい秩序を作ることはできんかったんでは?と思ってしまった。
指揮命令系統を蔑ろにし,身内に甘い軍法会議で違法性を隠す。軍部独走の悪いところを利用した張本人って感じです。