こんな本を読んでいる

日々出版される本の洪水。翻弄されながらも気ままに楽しむ。あんな本。こんな本。
新しい出会いをありがとう。

神の火を制御せよ

2007年11月10日 | 読書ノート
神の火を制御せよ 原爆をつくった人びと
パール・バック,丸田 浩,小林 政子
径書房

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 中学生の時読んだ『大地』は,4000年の歴史の蓄積に裏打ちされた中国という国の懐の深さを教えてくれた。貧困にあえぎ困窮の生活を余儀なくされながらも,大地の恵みは,そこに暮らす人々に悠久の温かさを惜しみなく与えてくれる。その底深さと深遠な崇高さに畏敬の念を感じた。ティーネージャーにとっては衝撃的なパール・バックとの出会い。同書を紹介してくれた数学の教師に今もって頭が下がる思いである。

 そのパール・バックの作品に,今,約30年の時を経て触れるところとなっている。題して,”Comand the morning ” 旧約聖書。ヨブの第38章12節からの引用である。手元にある日本聖書協会共同訳(和英対照)では,「Job, have you ever in all your life command a day to dawn 」と綴られ,Penguin のThe bible では,「Hast thou commanded the morning since thy days,and caused the day-spring to know his place」と綴られている。プロメテウスに授けられた火を原子の火に変える所作。神をも恐れぬ尊大さが,表題の元になっているのだろうか。

 忍び寄るナチスの脅威。開発競争の劣後は人類の危機でもある。併せて,パールハーバー。原子の火をつくる営みは,奇襲攻撃をしかけた憎むべき日本への鉄建と描かれ正当化される。

 開発の正当性を巡る科学者の苦悩も垣間見られるが,広島の長崎の,無辜の民人を地獄に突き落とした行為は一片の正当性すらないと考える。パール・バックに手による,原爆開発の礼賛乃至は正当化は,これまであったパール・バックに対する尊敬の念を打ち砕くものであり,許せない気持になってきた。

 翻訳が見送られていたことも,なるほどと感じる所以である。創作の自由は保障されるべきものとしても,腹に落ちぬとまどいと落胆,嘆きを抱くのは,私だけなのだろうか。秋の夜長,原爆の開発というものの意味を,そして人類にとっての意義を深く考えさせられながら,シーンは原爆投下へと移行しつつある。

 小学5年のとき演じたプロメティウス。ハゲタカに胆を啄ばまれる罰を受けながらも,火を与え人をケモノから守った。だが,人間たちは,その恩に唾を吐きかけるように恐ろしい火を開発し人を焼き尽くす。その苦悩を演じた。思えば,早熟な11歳であった。

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